1-23 灼熱の騎士
橋から離れた場所で、サイラスは川を覗き込んでみた。確かに水は透明で、泳いでいる魚が見える。
(すこし小さいけど、夕食用に何匹か捕まえておこうかな)
エミルが美味しく料理してくれるに違いない。そう考えただけで、サイラスの口のなかにつばが湧いてきた。上着の袖を肘までまくり、ブーツもズボンも濡れるのを気にせず、サイラスはそのまま川に入った。
水の深さは膝よりすこし上。冷たかったが、日差しが強かったので、むしろ気持ちがいいくらいだった。
さすがにサイラスが入っていくと魚は逃げたが、しばらくじっとしていると近くまで戻ってくる。
(のんびりした魚だな。この辺りじゃ誰も捕らないのかな?)
サイラスは素早く手を動かして、二十センチほどの魚を立て続けに二匹捕まえた。袋に入れて、さて頭でも洗おうかと思ったとき――。
「きゃぁああああああっ!」
エミルの悲鳴だった。
(エミル!?)
サイラスは急いで川から上がり、銅の剣を握ってエミルが入っていった森に向かって走り出した。
橋の前を飛ぶような勢いで通り過ぎ、森に駆け込む。すこし先の川のほとりに、白い腕で自分の身体を隠すようにして、エミルがうずくまっていた。
「エミル!!」
「サイラスくん!」
こちらを見て、エミルが叫ぶ。彼女までは、まだ距離がある。その後ろにふたりの見知らぬ男女が立っていた。
(野盗か? でも、ひとりは女の子みたいに見えるけど……)
「おまえたち、何者だ!」
問いかけには答えず、黒い服を着た小柄な少女は右腕を伸ばし、手のひらをサイラスに向けた。
「……《氷結の女王》。いでよ《灼熱の騎士》」
「ん!?」
足元にめきめきと氷の柱があらわれ、サイラスの下半身を一瞬で凍りつかせた。
次の瞬間、身動きのとれなくなったサイラスに向かって、上空から白い巨大な塊が凄まじい勢いで迫ってきた。反射的に右手の剣を構え、その一撃を受け止める。
――じゅぅううううううううっ!
(なんだ、この音!?)
塊は止まらなかった。
「うおっ!」
とっさに頭をそらしたが、髪の焦げる臭いがした。強烈な熱気が顔の前を通り過ぎる。見ると、握っていた銅の剣の刀身が溶けてなくなっていた。
(剣が、溶けた……!?)
目の前を通り過ぎた物体は、サイラスの左斜め上の空でぴたりと静止した。
それは、白い大理石のような素材で彫られた、二メートルを優に超える馬の胸像だった。
サイラスには巨大な“チェスの駒”に見えた。額から鋭く尖ったドリル状の長い角が伸びている。一角馬――ユニコーンだ。口や鼻、目、たてがみからは紅蓮の炎が噴き出している。
ふっ、と鏡に映したかのように、サイラスの右斜め上の空にも、まったく同じ物体がもうひとつあらわれた。
たとえ銅を溶かすほどの高温ではなかったとしても、この質量の物体が人の上に落ちたら無事ではすまない。
上空に浮かぶ、ふたつの巨大な胸像が、同時に動き出した。鋭いユニコーンの角が左右からサイラスを狙って迫ってくる。サイラスの下半身はまだ氷に囚われたまま――逃げ場はどこにもなかった。
「さ、サイラスくん……っ!!」
森のなかに、エミルの悲痛な声が響いた。
――じゅぅううううっ!
耳をふさぎたくなるような不快な音とともに、辺りに充満する肉の焦げる臭い。
サイラスは、両方の手でそれぞれのユニコーンの角をつかみ、白熱した巨像をなんとか空中で押しとどめていた。しかし、左右から強い力で鋭い角が、こめかみに向かってぎりぎりと迫ってくる。
「ぐうぅっ!」
握った手から、炎と白い煙が立ちのぼった。
(手が焼ける。このままじゃ……まずい……!)
突然、サイラスの頭のなかに、機械のような女性の声が響いた――。
『スキル《灼熱の騎士》、スキル《氷結の女王》を確認。解析します……』
『休眠していたスキル《燃焼耐性》、スキル《凍結耐性》を有効化。それぞれ、スキル《燃焼無効》、スキル《凍結無効》に進化しました……』
『スキル《灼熱の騎士》、スキル《氷結の女王》の解析完了。相手のスキルを無効化します……』
『スキル《灼熱の騎士》、スキル《氷結の女王》を複製して保存しました……』
頭のなかの声とともに、サイラスがつかんでいたふたつのユニコーンが消えた。同時に、下半身を包んでいた氷塊も砕け散っていた。
(消えた? なにが起きた?)
サイラスは、銅をも溶かす高温の塊をつかんだ手のひらを確かめた。さっきまでの痛みが消えている。あれほど肉の焦げる臭いをさせていたのに、傷ひとつ残っていなかった。
(また傷が治ってる。いったい僕の身体はどうなってるんだ……)
黒い服の少女のほうを見ると、口をパクパクさせながら、こちらに向かって何度も右手を突き出していた。……が、なにも起こらなかった。
(もしかして、あの攻撃はもう使えなくなったのか?)
いまならできるような気がして、サイラスは少女のほうに右手を向け、先ほどのユニコーンをイメージしてみた。想像したとおり、少女の頭上に燃え盛る巨大な一角馬の胸像が出現した。
(出た。僕にも使える!?)
ユニコーンはぐぐっと空中で角度を変えると、その角が少女の額に狙いをつけた。
そのとき、少女の背後にいた黒ずくめの男が、矢のような速さでこちらに肉薄してくるのが見えた。
サイラスは身構えた――。
「記憶喪失勇者」1-23を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




