1-21 神聖術
「いまさらかもしれないけど、本当にエミルは僕といっしょに旅をしても平気なの?」
エミルは男が苦手だったと思い出し、サイラスは恐る恐る聞いてみた。
「はい、もちろんです。わたしは一生、あの村から出ることはないかもしれないと思っていました。でも、サイラスくんといっしょに旅をさせていただけることになって、こうやって憧れていた外の世界を見ることができて、とっても嬉しいんです」
エミルは、はにかむように笑ってくれた。
(エミルがついてきてくれて、本当によかったな)
エミルの前で大泣きしてしまったことなどすっかり忘れて、サイラスは笑顔で歩く彼女の隣で、なんだか自分まで嬉しくなってくるのだった。
「それに……」
「えっ?」
「サイラスくんには、恐ろしい魔族から生命を救っていただいただけでなく、顔の傷まで治していただきました……」
エミルが熱のこもった目でサイラスを見つめてくる。
「わ、わたし……サイラスくんに……お、恩返しをさせてほしいんです」
「あ、あのさ」
「はう。は、はい?」
サイラスはどぎまぎしながら、エミルから顔をそむけ、気になっていたことを尋ねた。
「僕がエミルを治した、あれって、いったいなんだったんだろう?」
「あれは神聖術だと思います」
「神聖術? それはどういうものなの?」
またまた登場した新しい言葉にサイラスが首をひねる。
「神聖術というのは、創造神ソラさまのお力をお借りして、傷や病気を癒やす奇跡なんです。でも、あんなに速く傷を治せるなんて、聞いたことがないです。大きな怪我は普通、複数の神聖術士さまで治すものらしいですし」
「そうなのか……」
「はい。やっぱり、サイラスくんは本物の勇者さまなのかもしれないですね!」
エミルが満開の桜のような笑顔で、サイラスを見つめてくる。白い頬が朱に染まっていた。サイラスはますます落ち着かなくなって、目のやり場に困った。
(僕が本物の勇者かどうかはわからないけど、エミルがそう言ってくれると、ちょっとだけ信じたくなるな)
◇
「あの……すこし恥ずかしい話なんですけど……」
しばらく歩いたところで、エミルがおずおずと切り出した。上目づかいに、ちらりとこちらをうかがってくる。
「ん? どうしたの?」
「わたし、昔から何度も見る夢があるんです……」
「へえ、どんな夢なの?」
エミルはすこしためらってから、意を決したように口を開いた。
「夢のなかのわたしは、勇者さまの従者なんです。それも、すごい神聖術の使い手で……昨日のサイラスくんみたいに、仲間の傷をあっという間に癒やしたりして、とても役に立ってるんです。それで、みんなが、わたしにありがとうって……」
言っているうちに恥ずかしくなったのか、エミルは一度、言葉を切った。耳まで真っ赤になっている。
「……こんな話、子供みたいですよね……」
「そんなことないよ」
サイラスはすぐさま首を横に振った。
「夢の話でも、聞かせてくれて嬉しいよ。それに、すごい神聖術の使い手のエミルか……なんだか、似合う気がするな」
「はう……か、からかわないでください」
「からかってないよ。ほんとにそう思ったんだ」
「その夢のなかのエミルって、どんな感じなの?」
「それが……顔も、まわりの人たちのことも、目が覚めるとぜんぜん覚えていないんです。でも、手のひらだけが、いつもぽかぽかと温かくて……」
エミルは自分の両手を、じっと見つめた。
ふたりは顔を見合わせて、小さく笑った。
と、ふいにエミルが足を止めた。どうしたのかと振り返ったサイラスの右手を、白くて細い両手が、ぎゅっと包み込む。
「エミル?」
「わたし、精霊術も神聖術も使えないですし、スキルも持ってないですけど……これからも、よろしくお願いします!」
宝石のような深い緑色の瞳が、まっすぐにサイラスを見上げてくる。
「う、うん。こちらこそ、よろしく」
両手で握られた右手が、やけに熱い。サイラスは自分の顔が赤くなっていくのを感じて、慌てて前を向いた。
(それにしても、勇者さまの従者で、すごい神聖術の使い手、か……)
不思議と、仲間の傷を癒やして微笑むエミルの姿が目に浮かんだ。
(うん。やっぱり、似合ってるな)
初夏の日差しの下、ふたりはリーンを目指して、東へとまっすぐ続く街道を並んで歩いていった。
「記憶喪失勇者」1-21を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




