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【2章完結】記憶喪失勇者 ~最強の勇者は、自分が何者なのかを知らない~  作者: さいらす
第1章

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1-17 旅立ち

 エミルは急いで、旅支度を整えた。実はコロネがサイラスとエミルを逃がすために用意していた荷物があったので、それほど時間がかからずにすんだのだ。


 サイラスはあらためて、トリマンから銅の剣と旅用のマントを受け取った。


 ふたたび、家族は涙の別れとなった。でも、今度は再会を約束した別れだ。今生の別れではないのだ。


「父さま、母さま、エミルはしばらく村を離れます。父さま、わたしがいないからといって、飲みすぎてはいけませんよ。母さまも、どうかお身体を大切にしてください」


「心配するな。おまえがいなくても、飲みすぎたりはしないよ……たぶんな」


「父さま、たぶんってなんですか。ダメですよ」


「わはは。おまえに叱られると弱いな」


 トリマンが目を赤くしながらも、笑った。


「エミルを頼みましたぞ、サイラスさま」


「はい!」


「勇者さま、エミルのことをお願いいたします。いつかは来るこんな日のために、料理や礼儀作法は厳しく仕込ませていただきました。至らぬところもあるかとは思いますが、どうかふつつかな娘を末永く、よろしくお願いいたします」


 コロネは涙をぬぐい、トリマンはそんな妻の肩を優しく抱いた。


「ええええっ!」


「はう。か、母さまっ! なにをおっしゃっているんですか!?」


(末永くって。完全に嫁入りの挨拶じゃないか……)


 エミルは真っ赤になり、サイラスの心臓も高鳴った。そんなやりとりをしながら、エミルの両親は村の出口まで見送りにきてくれた。


「エミル、勇者さまもどうか、お元気で。旅のご無事を祈っていますよ」


「はい。それでは、いってきます」


 サイラスとエミルは、トリマンとコロネに元気よく手を振った。エミルの翠玉色の瞳からは涙が流れていたが、笑顔だった。こうして、サイラスとエミルはルルドの村を後にした。


「勇者さま、これからよろしくお願いします」


 涙をぬぐったエミルが、村を出たところでサイラスにぴょこんと頭を下げた。


「いや、こちらこそ、よろしく頼むよ。僕は常識もなにもわからないから。エミルがいっしょに来てくれて、本当に助かる」


「はい。おまかせください」


 エミルは宝石のような深い緑色の瞳をきらきらと輝かせて、嬉しそうに微笑んだ。


(両親から大切な娘をまかされたんだ。一ヶ月後、必ず無事にエミルをこの村まで戻さないと)


 このときのふたりには想像もできないことだったが、これがこの世界の存亡をかけた、長いながい旅の始まりになるのだった……。


◆


 南の空に、血のように赤い満月が浮かんでいた。


 月の光に照らされて、無惨にも廃墟となったベガリス城が黒々と浮かび上がる。かつてはこの大陸で、最も美しいとまでいわれた城だった。


 いまではすべてが焼け落ち、当時の面影はない。生い茂った雑草のなかに、煤まみれの崩れた石壁と炭と化した木材が寂しく転がっているだけだ。


 この城で、古き王家は滅亡し、魔王は倒された。ここで失われた生命のあまりの多さと、いまも残ると噂される魔王の怨念を誰もが恐れ、城は長い年月、放置されたままになっていた。


 そんな、人々から忘れ去られ、誰に気にかけられることもなく、ひっそりと時とともに風化してしまうのをただ待つだけの場所に、ふたりの男女がたたずんでいる。


 ひとりは、燃えるように赤い髪をツインテールにした小柄な少女。名だたる人形職人によって作られたかのような人工的な美しさをたたえた白い顔のなかで、大きな金色の瞳が月明かりに輝いていた。


 少女は変わったデザインのメイド服を身にまとい、肩には黄金のフクロウが彫像のように身じろぎもせず、とまっている。


 少女の背後には、長い黒髪の長身の青年が侍っていた。黒ずくめの燕尾服を着込み、さながら執事といった出で立ちに見えた。


「……マルバン」


 無表情な少女が、薔薇のように赤い小さな唇を開いた。


「なんでありましょう、姫さま」


 マルバンと呼ばれた青年が、落ち着いた声で応える。


「……人界の空は綺麗ですね。昼は太陽が眩しく輝いて、明るく大地を照らし、夜はあのように、暗闇のなかに月や星が煌めく。魔界にも人界のような空があれば、わたくしたちが人界を羨むことはなかったのでしょうか?」


「人界は空だけでなく、なにもかもが美しいのであります。美しいからこそ、手に入れたいと思うもの、蹂躙したいと思うものもいるのでありましょう」


「……魔王が復活してこちらにやってきたら、人界のすべてが、この廃墟のようになってしまうかもしれないですね」


 少女が、月の光に照らされた廃墟を振り返る。


「……それまでに、見つけなければなりませんね。わたくしたちの主さまを」


「必ず見つかるでありますよ、姫さま。四百年待ったのであります。もうすこしの辛抱であります」


「……ふふ、マルバンにしては楽観的ですね」


「姫さまの前では、楽観的でいるのが執事の務めであります」


 そのとき、上空から音もなく、ふたりの前に三メートルはありそうな、真っ赤な怪鳥が舞い降りてきた。怪鳥は少女に頭を下げる。


「ラツィさまたちを追って、この近くにやってきていたアルージュの捜索部隊が、何者かによって滅ぼされました」


 人の言葉を話す怪鳥が、低い女性の声で少女に向かって報告した。ラツィと呼ばれた少女は小首をかしげながら、大きな赤い鳥を見つめる。


「……勇者の仕業なのでしょうか?」


「確かなことはわかりませんが、勇者があらわれたと推測いたします」


 赤い翼の怪鳥の答えに、少女は満足げにうなずき、


「……引きつづき、アロネスはアルージュの動向を探ってください」


 と告げた。ははっ、と言い残し、アロネスと呼ばれた真っ赤な怪鳥は、ふたたび音もなく月に向かって飛び去った。


「……ねぇ、マルバン」


 少女は自分の後ろに立つ執事を振り返りもせず、空の月を見たまま話しかける。


「……ついに、わたくしたちの悲願が達成されるときが来たのかもしれないですね」


 口元だけをすこし歪め、少女はわずかに微笑んだ。


「記憶喪失勇者」1-17を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

さいらすと申します。


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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。

※本編の800年前のお話です。

※リンクはあとがきの下にあります!


挿絵をChatGPTに描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)




※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。

・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿

・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック

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『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』はこちら 本編の800年前のお話です。
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