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【2章完結】記憶喪失勇者 ~最強の勇者は、自分が何者なのかを知らない~  作者: さいらす
第2章

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2-61 ごちそう

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 雨と煙が混ざる暗がりに、エミルの悲鳴が散っていった。


 縦長の口を閉じた化け物は、ぴくりとも動かない。その縁から、よだれのような赤い液が、ぬらりと伝い落ちた。


 崩れ落ちたエミルの隣で、カレラが息をのむ。黒い猫耳が、根元から逆立った。


「サイラスを返せぇえッ!」


 カレラが、地面を蹴った。マレス族の脚力が、雨でぬかるんだ大地を一気に弾く。背負っていた太刀を、走りながら抜き放つ。


「サイラスっ!」


 ルナも、白い槍を構えて、その背を追った。ふたつの影が、燃え跡の中央へと走っていく。


 エミルが顔を上げた、そのとき――。


 ――ぶしゅっ。


 空気を割って、太い赤色の触手が、まっすぐにエミルの胴へと伸びてきた。


「エミル殿っ!」


 漆黒の燕尾服の裾をひるがえして、マルバンが前に飛び出す。突き出した右手の指先から、鋭い黒爪が伸びる。その爪を、触手の側面へ思いきり叩きつけた。


 ――ぎんっ。


 鋼鉄を打ったような音。黒爪は、触手の肉にわずかも食い込まなかった。


「な――っ!?」


 次の瞬間、マルバンの身体は、横へはじき飛ばされていた。泥のなかを転がった執事が、すぐさま跳ね起きる。


「……エミルッ!」


 ラツィが、よろめきながら駆け寄った。白く細い両手を伸ばし、エミルの腰に絡みかけた触手を、必死につかむ。


「……離せッ、離しなさいっ!」


 ぬるりと湿った感触が、指の間をすり抜けていく。爪を立てても、太い肉の柱はびくともしない。吸盤のひとつが、ラツィの手の甲に吸いついた。


「……くっ……」


 触手は、その抵抗をあざ笑うように、エミルの細い腰へもうひと回り巻きついた。


「あっ、あぁッ……!」


 締めつけられた肺から、空気が押し出される。ふくらはぎから、太もも、腰、肩、首へ。無数の吸盤が、じわじわと肌の上を這い上がってくる。背筋に、鳥肌が立った。


「エミルッ!」


 燃え跡の真ん中に駆け寄ろうとしていたカレラとルナが、振り返って叫んだ。


 ――ぶしゅっ、ぶしゅっ。


 ふたりの背後から、ふたつの触手が、それぞれの胴へと、ひと息に巻きついた。


「がっ……!」


「な、んだこれはっ!」


 地に踏ん張ろうにも、ふたりの足が宙に浮く。空中でぐるりと回された身体が、後方へと引き戻されていく。


 カレラは、宙づりのまま、両手で太刀を振り、自分の胴に絡まる触手へ、渾身の力で斬りつけた。


 鋭い音とともに、刃が弾き返される。ルナも同じだった。マルバンの作った白い槍を両手で握り、力まかせに、自分の腰の触手に突き立てる。


 穂先は、つるりとした表面を滑って、横にそれた。


「うそ、でしょっ……。ボクの太刀が、通らないっ!」


「私の槍も、刺さらないぞっ!」


 カレラが身体をひねり、触手を蹴って抜け出そうとする。だが、道着に食いついた吸盤は、どれだけもがいても離れない。


 フルリーヌが右手を振るった。渦を巻いた風の刃が、エミルを縛る触手を正面から打つ。だが、赤い肉には、かすり傷ひとつ残らなかった。


「……精霊の刃ですら、通らないなんて」


「……いでよ、《灼熱の騎士》……っ!」


 ラツィが、吸盤の貼りついた手を空へ掲げる。けれど、赤い光は一瞬ちらついただけで、ユニコーンのかたちにはならなかった。


「……マナが、足りない……」


 マルバンも、ラツィも、フルリーヌも、いつの間にか、足元から這い上がってきた触手に、両足を縛られ、地面から引き剥がされていく。フルリーヌの腕から魔晶石の入った布袋が滑り落ち、泥の上に無造作に転がった。


「魔晶石、が……っ」


 手を伸ばそうにも、もう届かない。


 六つの身体が、空高くつるし上げられた。触手に巻きつかれたまま、第二形態の頭の真上へと、整然と運ばれていく。冷たい雨が、容赦なく顔を打つ。


 見下ろすと、縦にぴたりと閉じた赤い頭が、物音ひとつ立てずに待っていた。


 パールが触手の間を縫うように飛びまわり、くちばしで突く。だが、何度突いても、赤い肉に弾き返されるばかりだった。


 第二形態は、まだ口を開かない。なかに収めたばかりの勇者を、ゆっくりと消化しているのだろうか。その後に、上空のごちそうたちを、ひとりずつ口に放り込む。


 そういう段取りなのだろう。


 雨はますます強く、地に叩きつけられている。六人ぶんの体重を、赤い触手は軽々と宙に支えていた。もがいても、ねじっても、刃を突き立てても、その拘束は揺るぎもしない。


「……我が主さま……」


 ラツィの唇から、声にならない呼びかけが、雨のなかに、ぽつりと落ちた。


「どうか無事でいて、サイラスくん……」


 エミルの口から漏れた、祈るようなつぶやきが、雨に紛れて消えた。


「記憶喪失勇者」2-61を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

さいらすと申します。


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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。

※本編の800年前のお話です。

※リンクはあとがきの下にあります!


挿絵をChatGPTに描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)




※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。

・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿

・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック

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