↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2章完結】記憶喪失勇者 ~最強の勇者は、自分が何者なのかを知らない~  作者: さいらす
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/136

2-59 口

 卵の殻の上部が、ばきぃっ、と乾いた音を立てて砕け散った。粉々になった破片が舞い上がる、その隙間から――。


 ――ぶしゅっ。


 なにかが、異様な速さでサイラスに放たれた。


(触手……っ!)


 とっさに後ろへ跳ぶと、サイラスは背負っていた盾を左腕に構えた。


 重い衝撃が、腕を駆け抜ける。受け止めたのは、太い赤色の触手だった。先端が、盾の表面にぴたりと吸いついている。側面には、丸い皿のような吸盤が、びっしりと並んでいた。


 ぐぐっ、と盾が引っ張られる。


「くっ!」


 サイラスは、両足を踏ん張った。だが、触手の力は、人ひとりが耐えられるような代物ではなかった。盾が、左腕から引き剥がされていく。


 勇者の盾は、サイラスの手を離れたとたん重くなって、焼け焦げた地面に深くめり込んだ。触手のほうは、もう盾には見向きもしない。


(いらないなら、取るなよ……!)


 ぴし、ぴし、とふたたび、卵の殻の前面に亀裂が走った。


 亀裂は、すぐに裂け目へと広がった。そこから八本の太い触手が突き出し、殻の縁を内側から力まかせにこじ開ける。


 巨大な卵が、左右に割れて崩れ落ちた。


 サイラスは、息を止めた。


(なんだ、あれ……)


 殻のなかから、奇妙な人型の物体が立ち上がった。身長はサイラスと、さほど変わらない。百八十センチほどだろうか。ただし、その輪郭以外、なにひとつ人らしいところはなかった。


 肌は真っ赤で、つるりと湿った光沢を帯びている。生まれたばかりの赤子のように、皺のひとつもない。顔があるはずの場所には、目も、鼻も、口も、耳もなかった。まったくの、“のっぺらぼう”。


 そして、背中には。最初に伸びてきたのと同じ、赤色の太い触手が九本。うねうねと、踊っていた。


(ベタクロフ……なのか?)


 豚顔の巨体は、もう、どこにもなかった。見たこともない化け物が、ただ、そこに立っている。


 息づかいも、うなり声もない。聞こえるのは雨音と、触手が空気を裂く音だけだった。


(どうして、こんなことに……)


 考えている暇はなかった。サイラスは、腰の剣を抜き放つ。


 ――ぶしゅっ、ぶしゅっ、ぶしゅっ。


 九本の触手のうち三本が、いっせいにサイラスへと伸びてきた。


「――ッ!」


 白い刃で、先頭の一本を横から打つ。手首まで痺れるほど、硬い。刃は食い込みもせず、ばちんっ、と弾くのが精一杯だった。残りの二本を、かろうじて飛び退いてかわす。


(くっ、身体が重い……)


 立て続けに使ったスキルのツケが、はっきりと出ている。身体じゅうに濡れた砂袋を背負わされたような動きづらさを感じる。


 ――ぶしゅっ、ぶしゅっ。


 また、触手が二本、伸びてくる。一本目は身をひねってかわす。二本目は剣ではたく。


 払いのけながら、サイラスは眉をひそめた。九本もあるのに、向かってくるのは、いつも二、三本だけだ。刺す、叩きつける、両側から挟む――やりようは、いくらでもあるはずなのに。


(こいつ、遊んでるのか?)


 ずるりっ、と足首に、なにかが巻きついた。


「――えっ!?」


 視線を落とすと、地面を這ってきた別の触手が、左の足首に絡みついていた。吸盤が、ふくらはぎに次々と貼りついていく。


 次の瞬間。


 ずずずッ、と桁外れの力で足が引っ張られた。


「ぐっ……!」


 サイラスの身体が、雨でぬかるんだ地面の上を滑り、敵のほうへ引きずられていく。右手が石にぶつかり、剣がこぼれ落ちた。


 伸ばした指の先で、白い刃が、みるみる遠ざかっていく。


(まずい……っ!)


 頭のなかを探る。けれど、いつもなら浮かんでくるはずのスキルが、ひとつも出てこない。マナが、底をついている。


 数メートル先で、第二形態の人型が、ぬめった両腕をだらりと下げて、こちらを待ち受けていた。


 そのつるりとした頭頂部に、ぴっと細い線が走った。


 なんだ、と思う間もなく、線が縦に、ぱっくりと開いた。


 頭のてっぺんから、ちょうどへその辺りまで。縦一直線に、真っぷたつに開かれた、それは“口”だった。


 内側を、鋭い牙が埋めつくしている。その奥で、長い舌のようなものが蠢いた。


(まさか……こいつ……)


 サイラスの背筋が、ぞっと凍りついた。


(僕を食べる気か……っ!?)


 足が、また強く引かれる。ぬかるみに指を立てても、身体は止まらない。縦に裂けた口が、サイラスをまるごと飲み込もうと、さらに大きく開いていく。


(エミル……)


「サイラスくんっ!!」


 サイラスの身体が、幾千の牙が密集する赤い洞窟に投げ込まれようとした、まさにそのとき、エミルの声が激しい雨音をさえぎって響いた。


「記憶喪失勇者」2-59を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

さいらすと申します。


もし、この小説を読んで、すこしでも面白いと思っていただけたら

【☆☆☆☆☆】をタップして、★をいただけると嬉しいです!


ブックマークで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!!

あなた様の応援が、何よりの原動力です。よろしくお願いいたします!!


※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。

※本編の800年前のお話です。

※リンクはあとがきの下にあります!


挿絵をChatGPTに描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)




※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。

・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿

・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければ、こちらの作品もお読みください。
『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』はこちら 本編の800年前のお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。