↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2章完結】記憶喪失勇者 ~最強の勇者は、自分が何者なのかを知らない~  作者: さいらす
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/136

2-52 魔族の姫

 焦げたこずえが、ぱちぱちと音を立てて落ちてくる。ラツィは片膝を地に突き、肩で大きく息をしていた。呼吸の一回ごとに、肺の底がきゅうと縮む。


(人界のマナは薄すぎる。これ以上スキルを使ったら、さすがにもう……)


 煤にまみれた白いユニコーンの像が一体だけ、かろうじて形を保ったまま、ラツィを守るようにたたずんでいる。


 数歩離れた茂みの陰に、ぼろぼろになった緑のマントを羽織ったエルフの戦士たちが、幾人も座り込んでいた。肩口から血を流す若い女戦士が、それでも剣を手放さずにいる。疲れきった顔をした戦士が、切れた弓の弦を張り直そうとしては、何度も失敗していた。


 ばさり。そのすぐ横で、重たい風が起きた。


 漆黒のライオンが、魔獣の群れを突っ切るようにして駆け戻ってくる。身体じゅうに切り傷と噛み傷。コウモリの翼は、皮膜のあちこちが裂けて、ぼろ布のように垂れている。


「姫さま。お怪我は」


「……わたくしは、大丈夫です。マルバンこそ、大丈夫ですか?」


 メイド服の袖はちぎれて、白い肩が剥き出しになっている。スカートの裾もところどころ破れていた。


 赤いツインテールを留めていた二本のリボンは、火の粉に舐められて、ちりりと音を立て、いま、片方が焼き切れた。続いて、もう片方も。


 はらり、と。拘束を失った真紅の長い髪が、ラツィの背中に流れ落ちた。


「雑魚とはいえ、これだけの数になると、さすがにこの老体にはこたえるでありますな」


「……あら」


 ラツィの唇の端が、すこしだけ吊り上がる。


「……マルバンには、わたくしと主さまに御子ができたら、世話をしてもらわねばなりません。こんなところで疲れている場合ではありませんよ」


「――姫さまっ!」


 黒い毛並みが、戦場のど真ん中で、ぶわっと逆立った。


 肩に戻ってきたパールが、そっと羽で頬をなでるようにして、ラツィに寄り添う。


「姫さま……、この際ですから、マルバンには子供部屋の掃除もぜんぶ任せましょう」


「……それは名案です、パール」


「ぐぬ、ぐ……こ、このマルバン、その日のために完璧な掃除スキルを身につけるであります」


(ばか、ね)


 笑っているつもりが、目の奥が、じん、と熱くなった。


(でも……、もうだめかもしれない)


 ラツィがそう思いかけた、そのときだった。


 森の奥、煙の向こうから、いくつもの気配が、一斉に近づいてきた。ラツィはとっさにユニコーンの像を動かしかけて、途中で手を止めた。


 駆けてくるのは、若葉色を帯びた金の髪と、長い耳の一団だった。


 その先頭を、杖を手にしたほっそりとした女性が、緑の長衣の裾をひるがえして走ってくる。宴の夜、並んでサイラスたちの踊りを眺めた、あの横顔だ。


「……フルリーヌ」


「消火班は前へ! 救護班も急いで!」


 凛と張った声が、焼けた森に響きわたる。


 緑衣の戦士たちがきびきびと散り、杖を持った者たちが詠唱を始める。水の精霊が呼び出され、霧のような雫が炎に吹きつけられた。負傷したエルフたちのもとへ、救護班のエルフが駆け寄る。


 駆け寄った、その足が、止まった。


 倒れた仲間の傍らに、血まみれの漆黒のライオン。翼を生やした、あきらかに魔族の姿。


「――下がれ!」


 救護班の若いエルフが、弓を構えた。矢の先が、マルバンにまっすぐ向けられる。周りのエルフたちも、反射的に剣の柄へ手をかける。


「……やめてっ!」


 ラツィが、慌てて両手を広げる。けれど、マナが切れかけた身体では、その手を高く上げることすら、ひと苦労だった。


「おやめなさいっ!」


 澄んだ声が、弓を構えた若い戦士をとどまらせた。


「この魔族たちは、敵ではありません。誰か、魔晶石を! ここにたくさん、持ってきてください!」


 命令が飛ぶと、数人のエルフがすぐさま駆け出していく。やがて、布袋を抱えたエルフが戻ってきた。袋の口からは、赤黒い結晶が、ざらりと覗いている。


「魔晶石で回復してください。服までは元に戻せませんけれど」


 フルリーヌが微笑んで、袋ごと、そっとラツィの前に差し出した。


「……ありがとう」


 ラツィは震える指で結晶をつかみ、マルバンの背中に押し当てた。魔晶石は赤い光を放ち、ただの黒い石へと変わっていく。ひとつから得られるマナはわずかでも、確実にマルバンの身体の奥へ染み込んでいった。裂けた翼の皮膜が、ふさがっていく。


 ラツィは自分の胸元にも魔晶石を当てた。呼吸が、すこしずつ深くなっていく。


 フルリーヌが片膝を突き、ラツィと目の高さを合わせた。白く透き通った肌。深緑色の瞳の奥が、静かに揺れている。


「森と、エル・フたちを守ってくれて、本当にありがとう。心から感謝します。魔族の姫よ」


「……そんな」


 ラツィは、目を伏せた。


「……お礼を言われる筋合いはありません。この森を焼こうとしている連中は、わたくしを捕らえるために、魔界から来ました。わたくしさえ、この森に来なければ……」


 ラツィは、深く、深く、頭を下げた。


「……ごめんなさい」


 フルリーヌは、ゆるやかに首を横に振った。


「どうか、顔を上げてください。魔獣たちは、あなた方が来ても、来なくても、この森を襲いに来ます。この先もずっと……。森を守るために戦いつづけることが、私たちエル・フの宿命なのです」


「……」


「あなた方がいなければ、この子たちは、もっと多くが失われていました」


 フルリーヌの指先が、座り込んだエルフたちを、そっと示す。


「森を発つ朝、あなたは『この生命をかけて』と言いましたね。その言葉に、嘘はありませんでした」


 そして、細く長い指が、ラツィの頬についた煤をぬぐった。


「もう、私たちは仲間です」


「――……っ!」


 ラツィの金色の瞳に、みるみるうちに水の膜が張った。長い睫毛のふちから、ほろりとひと粒、涙が落ちる。


「記憶喪失勇者」2-52を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

さいらすと申します。


もし、この小説を読んで、すこしでも面白いと思っていただけたら

【☆☆☆☆☆】をタップして、★をいただけると嬉しいです!


ブックマークで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!!

あなた様の応援が、何よりの原動力です。よろしくお願いいたします!!


※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。

※本編の800年前のお話です。

※リンクはあとがきの下にあります!


挿絵をChatGPTに描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)




※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。

・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿

・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければ、こちらの作品もお読みください。
『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』はこちら 本編の800年前のお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。