↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2章完結】記憶喪失勇者 ~最強の勇者は、自分が何者なのかを知らない~  作者: さいらす
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/136

2-49 呼び声

 巨体の魔族が、血走った眼をぎょろりとサイラスたちに向けた。口の端が吊り上がり、細長い黄色の舌がぬるりと伸びて唇を舐める。


「――っ!」


 見下ろされただけで、首筋の毛がぞわりと逆立った。


(さっきの奴らと見た目は同じだけど、なんてでかさだ……)


「こいつが魔族たちのボスかもね」


 カレラが太刀を構え、サイラスの横に並ぶ。


 小麦色の額の汗は、まだ乾いていない。サイラスも同じだ。スキルなしで剣を振りつづけた腕が、じんと重い。


 サイラスは背中の勇者の盾を下ろし、左腕に通した。鮮やかな黄色の大盾に、精霊神ルミナの紋章が明るく光る。


「ルナ、エミルとヨレウスを頼む!」


「ああ、任せろ!」


 ルナが白い槍を構え、ふたりの前に立った。


「サイラスくん、気をつけて……」


 エミルの声に振り返る余裕はなかった。


 太い腕が、棍棒を高々と振り上げる。


「サイラス、跳んで!」


 サイラスとカレラが左右に跳んだ直後――。


 ――ずどぉん。


 さっきまでふたりが立っていた地面が陥没し、土砂が四方に弾け飛んだ。飛んできた石が頬をかすめる。


「うわっ……!」


 地面には、人ひとりがすっぽり入りそうな穴が開いていた。


(あの一撃をまともに食らったら、終わりだな)


「カレラ、正面は避けて、横から攻めよう!」


「わかった! 《獣神分身》!」


 カレラの身体が三つに分かれ、魔族の周りを円を描くように駆ける。三人のカレラが、棍棒を握る腕へ同時に斬りつけた。


 ――がきん。


「くっ、硬~い。雑魚とは比べものにならないよ!」


 弾かれた太刀を握ったまま、カレラが痺れた手を振る。


 ごう、と風が鳴った。横薙ぎの棍棒が、カレラの身体を弾き飛ばす――。


「カレラっ!!」


 血の気が引いた。


 だが、宙を舞った身体は、地面に落ちる前に煙のようにかき消えた。


「分身だよ! ボクはこっち!」


 反対側から、カレラの声が飛んでくる。詰めていた息が漏れた。


 魔族が、声のしたほうへ向き直る。サイラスに、無防備な背中を見せた。


 サイラスはその背後へ回り込んで跳び、首の付け根めがけて勇者の剣を振り下ろした。


 ぎんっ、と岩を殴りつけたような手ごたえが、手首まで跳ね返ってくる。白い刃は鱗の上を滑り、浅い筋を残しただけだった。


「グガァアァ!」


 魔族が吠え、振り向きざまに棍棒を振り回した。サイラスは身を伏せてかわす。頭の上を、重たい風が通り過ぎた。持ち上がった腕の下、脇腹に、鱗の切れ目が見えた。


(あそこなら、刃が通るかも!?)


「サイラス、大丈夫!?」


「平気だよ! カレラ、奴の脚を止めてくれ! 脇腹の鱗の継ぎ目を狙う!」


「了解!」


 カレラとその分身が二方向から魔族の脚に迫る。分身のひとりが、踏み下ろされた足の下でかき消えた。その陰から本物のカレラが滑り込み、鱗の薄い膝の裏を切り裂く。


「グゲッ!」


 巨体が、がくりと傾いた。


(いまだ!)


 つま先で地面を蹴った。獣神流の踏み込みで、一気に懐へ潜り込む。脇腹の継ぎ目へ、剣を突き立てた。柄まで沈む、深い手ごたえ。


「グゥアァアァ……!」


 魔族が絶叫し、めちゃくちゃに腕を振り回した。剣を引き抜いて飛び退く――が、目の前に、もう拳があった。


(間に合えッ!)


 サイラスはとっさに勇者の盾を前に突き出した。


 ごぉぉん、と鐘を打ったような音が響いた。


 受け止めきれない。盾ごと、身体が真横に吹き飛んだ。


「がっ……!」


 肩から地面に叩きつけられ、息が止まる。


「サイラスくんっ!」


 エミルの悲鳴が聞こえた。


「サイラス!!」


 カレラが叫んで駆け寄ろうとする。だが、魔族が向き直り、その鼻先へ棍棒を振るった。カレラは後ろへ跳んで、かろうじてかわす。


(倒れてる場合じゃない。立たないと……)


 サイラスは歯を食いしばり、勇者の剣を杖にして身体を起こした。右肩が脈打つように痛む。腕の感覚が鈍い。


(盾がなかったら、いまので終わってた……)


 魔族の傷口から、どす黒い液体がぼたぼたと地面に滴り落ちていた。巨体の動きも、さっきより鈍い。


(効いてる。あと一撃で仕留められる)


 サイラスは地面に落ちた盾を拾い上げ、左腕に構え直した。


「カレラ! もう一度、脚を頼む!」


「……わかった! 《獣神分身》!」


 カレラがふたたび分身する。だが、あらわれた分身はひとりだけだった。


「ごめん、マナがもう限界!」


「充分だよ!」


 カレラが正面から駆け込み、魔族の注意を引きつける。分身が反対側から脚に斬りかかった。


 棍棒が振り下ろされる。カレラは紙一重でかわしたが、地面を打った衝撃によろめいた。


 サイラスが走る。痛む肩を無視して、残る力のすべてを脚に込めた。


 魔族の眼は、カレラを追っている。さっき剣を突き立てた傷口が、目の前で赤黒く口を開けていた。


(そこだ!)


 盾を投げ捨て、剣を両手で握って跳ぶ。


 全体重をのせた切っ先が、傷口へ深々と吸い込まれた。


「グ……ガ……ァ……」


 魔族が膝を折った。巨大な棍棒が手から滑り落ち、地面に転がる。


 サイラスは剣を引き抜き、倒れかかってくる影の下から転がり出た。


 ずぅん、と地響きを立てて、魔族が崩れ落ちた。やがてその身体が灰へと変わり、風に散って消える。後にはなにも残らなかった。


「……やった、のか」


 サイラスは荒い呼吸を整えながら、膝に手をついた。右肩が熱い。腕に力が入らない。


「サイラスくん!」


 エミルが駆け寄ってきた。その後をルナとヨレウスが追う。


「怪我していませんか!?」


「大丈夫。ちょっとぶつけたところが痛いだけだよ」


 そう答えたが、盾を拾う左腕にも拳を受け止めた衝撃が残っていた。


「にゃは……やったね。サイラス」


 カレラも近くにやってきた。額の汗をぬぐいながら、疲れた顔で笑う。


「さすがだな、ふたりとも。あんなに大きい奴まで倒すとは」


 ルナの空色の瞳にも安堵の色が浮かんでいる。


「右肩をやられたな。見せてみろ、すぐに治す」


「お、俺も手伝う」


 ルナとヨレウスが、サイラスの肩に手をかざす。ふたりの手のひらに、白い光がともった――。


 ――ずん。


 白い光が、揺らいで消えた。全員の動きが止まる。


 ずん。ずん。ずん。


 さっきとまったく同じ、あの重い足音。村の奥の暗がりから、近づいてくる。


「……うそ、でしょ」


 カレラがつぶやいた。太刀を握る手が震えている。


 建物の影からあらわれたのは――さっき倒したのと同じ巨体の魔族だった。


「まだいたのか……! いったい何体いるんだ!」


 ルナが歯噛みした。


「グゲゲゲゲ……」


 二体目の巨体は、嘲るように笑った。


 サイラスは剣を構えようとした。だが、右腕が上がらない。肩の痛みが、鼓動に合わせて全身に響いている。盾を持つ左腕も鉛のように重い。カレラも肩で大きく息をしていて、立っているのがやっとだった。


(このままじゃ……まずい)


『……きて、サイ……ラス……』


 どこからか、そんな声が聞こえた気がした。


「――え?」


 次の瞬間、サイラスの視界が白く染まった。


 足の感覚が消える。腕が動かない。まるで身体が自分のものでなくなったかのように、すべてが遠のいていく。


(なんだ……? これは、敵の攻撃じゃない。なにか別の……)


 サイラスの手から、勇者の剣が滑り落ちた。白い刃が地面にぶつかり、鈍い音を立てる。続いて、左腕の盾も、ごとりと地面に落ちた。


「サイラスくん!?」


「サイラス!」


「サイラス! しっかりしろ!」


 エミル、カレラ、ルナの声が、遠い水の底から聞こえるように響く。


 サイラスは前のめりに倒れ込んだ。駆け寄ったエミルが、崩れ落ちる身体を受け止める。


「サイラスくん! サイラスくん! 目を開けてください!」


 エミルがサイラスの頬を両手で包み、必死に呼びかける。だが、サイラスの瞳はもうなにも映していなかった。


 二体目の巨体が、ゆっくりと拳を振り上げる。


「――来るぞ!」


 ルナが白い槍の穂先を巨体に向け、意識を失ったサイラスとエミルの前に立ちはだかった。


「記憶喪失勇者」2-49を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

さいらすと申します。


もし、この小説を読んで、すこしでも面白いと思っていただけたら

【☆☆☆☆☆】をタップして、★をいただけると嬉しいです!


ブックマークで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!!

あなた様の応援が、何よりの原動力です。よろしくお願いいたします!!


※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。

※本編の800年前のお話です。

※リンクはあとがきの下にあります!


挿絵をChatGPTに描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)




※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。

・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿

・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければ、こちらの作品もお読みください。
『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』はこちら 本編の800年前のお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。