2-43 気配
サイラスたちが馬車でラグーツの街を出発する数時間前。
真夜中の街道を南東に向かって走る、ふたつの影があった。魔族の姫ラツィと、肩にフクロウを乗せた執事のマルバンである。
(姉さま、姉さま。ご主人さまたちになにも言わないで出てきちゃって、本当によかったのかな? かな?)
ラツィの心のなかで、妹のセフィが話しかけた。
(仕方がないのです、セフィ。勇者のスキルを失ってしまった主さまを、わたくしたちの戦いに巻き込むことはできません。もうすぐ第一魔将が……奴が人界に……わたくしたちを捕らえに来るのです……)
(でもでも……セフィは寂しいよ。せっかく、ご主人さまとも、ルナとも仲良くなれたのに。それに、姉さまだって……)
(いまの主さまでは、ベタクロフには勝てません……それにもし、主さまがベタクロフに操られてしまったら……魔王ではなく、主さまの手によってこの世界が滅びます。そんなことは絶対にさせられません)
(もちろん、それは、そうなんだけど……)
(大丈夫です、セフィ。昔のように逃げまわって、わたくしたちは時間を稼ぎましょう。その間に、主さまには強くなっていただいて……いつか必ず、また会えます。わたくしたちなら大丈夫。あんな奴にはもう二度と捕まりません)
「……マルバン」
「なんでありましょう、姫さま」
ラツィが立ち止まり、前を走っていたマルバンも足を止め、姫のほうへ向き直った。
「……わたくしは、アロネスの提案通り、これからエルフ族の森を目指します。ですが、あなたとパールはいっしょに来る必要はありません。第一魔将が狙っているのは、わたくしだけなのですから」
「なにを言っているのでありましょうか、姫さま。このマルバン、戦闘では足手まといかもしれませんが、それでも、死ぬまで姫さまのお近くから離れることはありません。いざというときに、トンネルを掘って逃げられるのは便利だとは思いませんか?」
ラツィの口元が、ほんのすこしだけゆるんだ。
「それは、このパールめも同じです。最後まで姫さまのおそばにいさせてください。奴の配下が人界にやってきたら、すぐに居場所や作戦を探り当てて、ご覧にいれましょう」
「……奴に捕まってしまったら、ひどい拷問をされて、殺されるかもしれないのですよ?」
ラツィは金色の瞳に涙をためて、育ての親である執事と、その肩に乗る黄金のフクロウを見つめた。
「我の生命で、姫さまのお命が買えるのならば、安いものであります。姫さまたちが生まれたときから、我の生命は姫さまたちをお守りするためだけにあるのでありますから」
「私は姫さまに生命を救われました。私の生命は姫さまのものです。どうか姫さまをお守りするために使わせてください」
ラツィはマルバンに抱きついた。その胸に顔を埋めて、子供のようにわあわあと声を上げて泣いた。
◇
「……マルバン、パール。ひとつ、話しておかなければならないことがあります」
すこし落ち着いたラツィが、マルバンとパールを見まわして話しはじめた。
「……昨日、戦ったキュリアン・マクナナスと名乗る男の剣から、かすかに父さまの気配を感じました」
「そ、それはどういうことでありましょうか!?」
「……あの赤い剣はおそらく、魔装具……」
「魔装具!?」
マルバンの顔から血の気が引いた。
「……ええ。父さま――魔王アノンは、ひとりでこの人界に向かい、そこで勇者レギウスに討たれました。従者はおらず、父さまの魔晶石は回収されなかった……」
「だからといって……」
「……主さまに倒されたリアルジンの魔将は言いました。魔王が隠れる期間は八百年ちょうどであると……」
「……!?」
「……ならば、なぜ、八百年を過ぎても父さまはアルージュに戻られないのか。父さまの魔晶石が魔装具にされていたのなら、納得がいくと思いませんか?」
ラツィは真剣な眼差しをマルバンに向けた。
「……それにあのとき、あの男は剣のスキルで、わたくしの《灼熱の騎士》を焼き尽くしました。わたくしのスキルを超える凄まじい炎で……そんなことができるのは、この世界でただひとり、魔王アノンの――」
「ユニークスキル《暴食の炎舌》……」
パールがつぶやいた。
「……その通りです」
「な、何者なのでありますか!? そのキュリアン・マクナナスと名乗る男は!」
「……わかりません。ですが、危険な存在であることは間違いありません」
マルバンは腕を組んで目を閉じた。
「魔王の魔晶石を使って、魔装具を造る……そんなことが人族にできるというのでありましょうか? ファルカ族の伝説の刀匠なら……いや、そんな奇跡のようなことができるのは…………もはや神だけなのでは……!?」
「……とにかく。まずはベタクロフから逃れること。次にキュリアン・マクナナスを探して、あの魔装具の剣を手に入れること。これをわたくしたちの今後の目標とします。主さまが力を取り戻すまでは、なんとしても奴に捕まらないように隠れなければなりません」
ラツィは強い決意を秘めた目で、まだサイラスたちが眠っているであろうラグーツの街の方角を振り返った。
(いつの日か、また、会いましょう。主さま)
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さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




