2-41 月
「大丈夫でありますよ」
マルバンがいつものようにのんびりと言った。
「ルナ殿はご自分の魔晶石のマナを使いすぎて、停止してしまっただけであります」
「停止って……動かなくなったってことか?」
「左様であります。ご主人さまとカレラ殿を治癒しようと、マナを使い切ったのでありましょう」
(ルナが僕たちを治してくれたのか)
「デルギフトの魔晶石をいただければ、我がスキルで形を整えてルナ殿にはめ直すであります。それでまた動くようになるでありますよ」
サイラスは急いで腰につけた袋からデルギフトの魔晶石を取り出し、マルバンに手わたした。
「頼む、マルバン。ルナを直してやってくれ」
魔族の執事はルナのそばにしゃがみ込んで、お腹の辺りを探ると、マナを使い切って黒くなった魔晶石を外した。もう片方の手に持ったデルギフトの魔晶石をスキルで同じ形に変え、それを器用にルナのお腹にはめ込む。
「さあ、これでいいでありましょう」
ルナが目を開けた。ゆっくりと立ち上がり、サイラスのほうを向く。
「ああ、サイラス。目が覚めたのか。よかった」
「ルナこそ、動けるようになってよかった。マナを使い切ったって聞いて、びっくりしたよ」
「すまない。サイラスの怪我もひどかったのだが、カレラの傷がさらにひどくてな。応急処置はしてあったが、うっかりマナを使い切ってしまった。でも、もうカレラも大丈夫だろう」
「ありがとう、ルナ。助かったよ」
プラチナシルバーの髪の魔導人形は穏やかに微笑んだ。
サイラスは立ち上がって、カレラのようすを見にいった。神聖術で傷はふさがったとはいえ、流れた血まで戻るわけではない。覗き込むと、カレラは安らかな寝息を立てている。まだまだ絶対安静だろう。
すこし落ち着いてくると、キュリアンの言葉が頭に蘇った。
『これから彼は剣聖の里に向かい、里の者を皆殺しにする。大人も子供も残らず全員だ』
(いまから走っても、ディアロには追いつけない。今日はラグーツで泊まって、明日の朝早く馬車で剣聖の里に向かおう)
「マルバン、悪いんだけど、カレラを運んでくれないか。僕はまだ、ちょっと力が出なくて」
「お安い御用でありますよ、ご主人さま」
マルバンは眠ったままのカレラを軽々と背負った。サイラスたちはラグーツの街に向けて、ふたたび歩きはじめた。
◇
ラグーツに着くころには、日はとっぷりと暮れていた。
宿探しをエミルたちに任せると、サイラスはひとり、明日の馬車の手配と、カレラの折られた太刀の代わりを探しにいった。同じものが見つかるかはわからないが、なにか武器は用意しておくべきだろう。
店じまい間際の武器屋に飛び込んだ。この街ではクルセイダーの客も多いからか、太刀も置いてあって、なんとか一本買うことができた。
馬車のほうも冒険者ギルドで剣聖の里まで乗せてくれる商人を紹介してもらえた。明日の朝一で出発できそうだ。
宿屋街に行くと、前回泊まった宿の前でマルバンが待っていた。肩にパールを乗せたマルバンは、今日はこのまま外で見張りをすると言うので、宿の女性に部屋まで案内してもらった。
部屋に入ると、エミルとカレラはもう横になっていた。
カレラのそばには、眠る必要のないルナが腰かけている。サイラスは買ってきた太刀をルナにわたした。ルナはそれをカレラの枕元に置いた。
「……ボクのせいで、みんなに迷惑かけちゃったね……」
布団のなかから、カレラの弱々しい声がした。
「カレラ、起きてたのか」
「……うん。ごめんね、サイラス」
「カレラのせいじゃないよ。あいつが強すぎたんだ。いまはとにかく休んで。明日の朝、馬車で剣聖の里に向かうから」
「うん……ありがとう……」
カレラはそれだけ言うと、また静かに目を閉じた。
隣の部屋では、ラツィが窓辺に腰かけて外を眺めていた。サイラスが近づいても、顔を向けなかった。
「……月が綺麗ですね、主さま」
サイラスも窓から外を眺めた。昼間は雨が降っていたのに、いまは雲ひとつない。夜空に大きな月が浮かんでいた。
「ああ、綺麗だな」
(なんだろう、この気持ち。昔、誰かとこうやって月を眺めたことがある気がする)
「……ねぇ、主さま……」
ラツィはすこし間を置いて、言った。
「……もし、わたくしと主さまが離れ離れになるようなことがあったとしても……わたくしの心は、いつも主さまといっしょですから」
サイラスは黙って、ラツィの横顔を見た。
「……だから……忘れないでください。わたくしのことを」
燃えるように赤い髪をした魔族の少女が、涙で潤んだ金色の瞳でサイラスを見つめてくる。
(ラツィ……?)
サイラスはラツィの言葉の意味を尋ねようとした。しかし、その前にラツィは立ち上がって、足早に部屋を出ていってしまった。
◆
「本当によろしいのでありますか、姫さま」
「……ええ。夜のうちに、できる限り遠くに離れましょう」
◆
朝、サイラスたちが目覚めたとき、部屋にラツィの姿はなかった。表に出てみたものの、見張りをしていたはずのマルバンもパールもいない。
魔族の姫と執事は、夜の間にサイラスたちの前から姿を消してしまったのだった……。
「記憶喪失勇者」2-41を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
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挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




