2-33 見送り
エルフ族の集落の広場で、旅支度を整えたサイラスたちを見まわして、フルリーヌが不満そうな顔をして立っていた。
「なにもそんなに急いで出発しなくても。もうすこしゆっくり滞在していけば、よいのではないですか? セドルたちも、もっとあなたと話がしたかったと言っていましたよ」
「ありがとうございます、フルリーヌさん。でも、ここに来る途中で倒した魔将が、もう魔王は復活していると言っていました。僕たちは、なるべく早く王都に行って、魔王との戦いに備えたいんです」
寂しそうな笑みを浮かべて、フルリーヌがサイラスの手を取った。
「王都に行くなら、ライアスとアレクサンドラのお墓にも行ってあげてくださいね。王家の墓地に眠っていますから、すぐにわかるでしょう。きっと、あなたのことを待っていますよ」
「はい、必ず」
フルリーヌは、順番にサイラスの仲間たちの前に立ち、その手を取って目を見つめた。
「あなたは、獣神流の剣士ですね。お顔がパナメラとよく似ています。サイラスのことを頼みます。この子はなんでもひとりでやろうとしてしまいますから」
「にゃっ! ありがとうございます! パナメラさまに似てるなんて、嬉しいです! でも、フルリーヌさまは、今回の魔王討伐には参加されないのですか?」
(カレラが、ちゃんと敬語をしゃべってる……)
「ええ、私はもうずいぶんと歳を取ってしまいましたから。ライアスたちと初めてこの森を出たときには、精霊王に認められた森で一番若いエル・フだったのですよ。でも、いまでは一番年寄りのエル・フになりました。だから長として、この森を離れるわけにはいきません。それに――よく知った者が私の目の前でこの世界からいなくなってしまうことに、もう耐えられそうにもありません。あなたたちの勝利を女神さまに祈りながら、この森のなかで静かに余生を過ごしたいと思います」
カレラの次は、その隣に立つルナだった。
「あなたは、ニーナの造った魔導人形ですね。彼女は本当に最高の魔導人形を創ったのですね。ニーナの代わりにサイラスに盾をわたしてくれて、ありがとう。これからも、サイラスを守ってあげてください」
「ああ、私は勇者の盾。ニーナに託された使命をまっとうしよう」
ルナは、晴れた空のような笑顔を、かつてニーナの仲間だった賢者に向けた。
次にフルリーヌはエミルの前まで歩いていくと、その顔を覗き込んで小首をかしげた。
「あら、あなたのなかにあるのは……古き王家の……それと感じたことのない強いオーラ……でも、あなたには精霊の声を聞く才能があるようですね。ならば、私の古い盟友の一部をあなたに授けましょう。これから毎日、精霊ラファの声に耳を傾けなさい。きっと、あなたの助けになるでしょう」
「あ、ありがとうございます、フルリーヌさま。精霊の声が聞こえるようになるなんて、嬉しいです。あの……わたしでもサイラスくんの力になれるでしょうか?」
「ええ、きっとなれますよ――」
そこで、エミルの耳元に口を寄せ、彼女にだけ聞こえる声でささやいた。
「サイラスをよろしくお願いします。ふたりはとてもお似合いですよ」
「……っ!?」
エミルは耳まで赤くなった。
「……いま、なにを言われたのですか?」
ラツィが、じろりとエミルを見る。
「な、なんでもありません!」
フルリーヌはラツィとその傍らに立つマルバンの前まで来た。そして、両手でラツィの右手を握りしめた。
「魔族の姫よ。私は火の森を滅ぼした、あなたの父、魔王アノンを許すことはできません。ですが、その娘だからといって、あなたも同罪だとは思いません。魔族の姫とその従者たちよ、あなたたちの心に嘘偽りがないというのなら、どうかサイラスを助けてあげてください」
「……くくく、言われるまでもないことを。わたくしたちは、我が主さまのしもべ。この生命をかけて、主さまとともに戦うでしょう」
「我もご主人さまのお役に立てるように、微力ではありますが力を尽くす所存であります」
「セフィも、セフィも! ご主人さまを助けるよ!」
突然、魔族の美少女の髪が燃えるような赤色から凍えるような水色に変わり、つかんだフルリーヌの手を上下にぶんぶんと振った。これには、さすがのエルフの賢者も驚いて後ずさった。
(セフィはいつ出てきても自由だな……)
一通りサイラスの仲間たちと話し終えると、ふたたびフルリーヌはサイラスの前に戻ってきた。
「私は四百年前に魔王を倒したあなたが、魔王に対する怒りが収まらなくて、四百年後にもう一度、魔王を倒すために眠りについたのではないかと思っていました。記憶をなくして、もう昔の怒りはあなたのなかに残っていないかもしれませんが、もし記憶を取り戻したとしても、怒りに飲み込まれないようにしてください。魔王はそういった負の感情につけ込んできますから」
「わかりました。気をつけます」
答えた瞬間、こめかみの奥が、ずきりと痛んだ。
サイラスたちがフルリーヌの部屋の扉に向かうと、戦士長のセドルと部下の精霊術士たちも見送りにきてくれていた。
「勇者サイラス。魔王を倒して、またここに戻ってきてください。次は予算を確保して、もっと盛大に宴を催しますから!」
エルフたちに見送られ、一度扉のなかに入り、もう一度扉を開けると、そこは森の外だった。
「それではサイラス、気をつけていってらっしゃい。あなたなら魔王なんかに後れを取ることはないでしょうけれど、私はここであなたの無事を女神さまに祈っています」
扉のなかでフルリーヌはサイラスたちが見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
サイラスたちは無事に勇者の鎧も手に入れた。これで三種の神器がすべてそろった。
次に目指すのはガリウス王国の王都ガリウスだ。まずはラグーツに戻り、そこから船でリーンに向かう。リーンではベガリア辺境伯のソフィアが待っているはずだ。
「記憶喪失勇者」2-33を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




