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第八夜・うどんの怪

 目の前に打ち粉がされた麺があった。


 あったというか、麺は謎の機械から次から次へと生産され続け、それはカットされることなくとにかく長ーーーーいままであったから、次から次へと積み重なっていくのである。


 たぶんうどんだ。


 おそらく謎の機械は製麺機であろう。

 出口から麺の排出は止まる様子がなく、その量は増すばかりだ。やもすれば作業台から落ちかねない。


 仕方なくその麺を編んでいくことにしたのである。なぜそんな考えに至ったかは判らない。


 編むと言っても編み物の心得は遠い記憶の彼方である。まあなんとかなるだろう。

 麺を手繰り寄せ、いつ排出が止まるのか、はたまた止まらぬのか判らぬまま、白くやや太いその麺を編み上げていく。


 まずは小さなバッグができた。

 すると通りすがりの男がそれを売ってくれと言うではないか。喜んで差し出しお代は結構だと言うと、変わりに小麦粉を渡される。要らない。


 次はぬいぐるみを縫っていく。あまり編み物が得意ではないし、そもそもこのうどん、やたらと伸びて編みにくい。

 だが編み上がったそばから誰かしらが完成品をひょいと持ち上げ持ち帰る。結構結構、大いに結構。うどんはまだまだあるからいくらでもどうぞ。


 どれくらい経っただろう。編み上げたうどんは気付けば自身のまとうセーターに姿を変えていた。


 このうどんからできたセーター、確かにもちもちしているがどう見てもまごうかたなく繊維である。うどんらしさがまるでないのだ。


 うどんはいつのまにか何かしらの繊維へと変化を遂げたようだった。だが異様に伸びる。びよんびよんといくらでも伸びるである。


 これは世紀の大発見かもしれぬ。

 セーターを急ぎ脱ぎまじまじと見るが、やはりこの素材、どうやら伸びよと命じれば伸び、縮めと命じれば縮むようなのだ。


 男が一人通りかかり、その編み上げたうどんを一本売ってくれと言う。

 好きなだけ持っていってくれと言うと、男は喜んでうどんを持っていくのだ。


 なんのために使うのか気になったため、こっそりつけていくことにした。


 男は山の中まで深く分け入っていく。山頂にたどり着いたとかと思ばその先にある鳥居をくぐったのだ。


 何をしているのだろうか。すると男はうどんを賽銭箱に納めていくのである。


「伸びよ、伸びよ……、これで逃げられる」


 男は小さく言うと、駆け足で山を下っていく。


 恐る恐る賽銭箱へと近づくと、何か白いものが見えた。 

 麺だ。


 なにゆえ賽銭箱へ麺を放り込むなど罰当たりなことをしたのかと思えば、とめどなく伸び続ける麺の合間から、白くほっそりとした腕がにゅん、と伸びてくるではないか。


 手は、うどんを一掴みしてはまるで「これではない」とでも言うように手放して、そして新たに麺を引っ掴み、それからまた何やら探るよう仕草で賽銭箱の中を泳ぐのである。


 うどんの合間に揺蕩う白い腕に、腰を抜かしそうになる。


 と、これだ、と言わんばかりに手が一本のうどんを引っ掴んだのだ。

 スルスルとそれを手繰り寄せるが、よくよく見ればそれは己が着ているセーターへと繋がっているのである。


 慌てて脱ぎ去ろうと必死でうどんセーターを掴むがこれがなかなか脱げない。

 迫り来る手に焦りが生まれ、指先が震える。


 そうだ、伸びよと唱えれば良いのだと気づき、ぶるぶると震えながら大声で「伸びよ、伸びよ」と唱え山を下り道路を走りそして元の店へと辿り着く。


 謎の腕は追ってくる様子はないが、突然現れたうどん屋の店主に「その発明は我が店のものだ」と言われセーターを奪われた。


 すぽんとセーターは脱げ、残されたのはTシャツである。


「勝手に持ち出されては困る」


 店主は怒り心頭といった様子でセーターを丸め持ち「さっさと出ていってくれ」というのだ。

 ありがたいありがたい。これできっと逃げられる。


 あの店主にうどんを押し付けテッテケテッテケと店から逃げるようにして帰宅する。

 

 さて、あの店主はどうなっただろうか。白い腕に手繰り寄せられ賽銭箱の中へと引き込まれていないければいいのだが。

 それにしてもあのなまっ白い手はなんだったのだろう。ただのうどん好きならば、あの手が飢えることは今後ないだろうが、二度と近づきたくはない。

 くわばらくわばら。


おしまい。

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