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第六夜・宇宙船スニーカー号

 スニーカーの中に異物感を覚えた。

 ちくちくと親指が痛い。


 嫌な感覚にほんの少しだけ苛立ちを覚えつつ、ベンチに座り急ぎそれを脱ぐ。

 ころり、と飛び出たのは真っ赤に熱せられた石、のようなものであった。


 なんということだ。火傷をしてしまう。

 いったい何故こんなことに——、と中を覗けば、そこには宇宙が広がっていたのである。


 いや、正確にはスニーカーが宇宙船と化していたのである。


 スニーカーの中にはちんまりとした座席がいくつか並び、前方、つまり靴の足先部分には窓ガラスが嵌っていた。が、そこには穴が空いていたのである。

 その向こうに広がるはなんとも美しい宇宙だ。

 おそらく天の川銀河だろう。


 ははあ、つまりこの小さな石ころは隕石か何かで、宇宙から飛来したものなのだろう、と理解する。

 幸いにもクルーはいなかった。もしかしたら脱出を果たした後だったのかもしれない。


 しかし問題があった。


 何者かが宇宙船へと侵入を試みていたのである。


 それは宇宙服を身につけ、割れた窓ガラスに体を捩じ込みこの宇宙船へと入らんとしているのだ。

 どうやらこのスニーカーは、宇宙と地球とを隔てる役目を果たしていたようなのである。


 侵入者は、この宇宙船を乗っ取るつもりなのか、はたまた我々のこの青い星へとやってくるつもりなのかは定かでないが、咄嗟に「なんとしても侵入を阻むべきである」と判断し、傍に置いてあったミネラルウォーターをスニーカーへ注ぎ入れることにした。


 すまない。地球のためなのだ。


 ドボドボと注ぎ入れた水に押し出され、侵入者はあれよあれよと窓ガラスの隙間から外へと押し出されていったのである。


 ああよかった。これで地球の平和たもたれたのである。


 ——そのはずだった。


 濡れたスニーカーを日に晒し、乾くのを待っていると、何やら音がするのである。


 恐る恐る、再びスニーカーの中を覗くと、窓の外には無数の宇宙船が押し寄せているではないか。

 スピーカーのような音が「警告する警告する」とアナウンスを繰り返している。


 なんだなんだと周囲に人が集まり、自身が注目を集める事態へと発展してしまったのである。

 恥ずかしいやら緊迫した空気にどう対応したらいいやらで困惑をする。


「警告する、警告する!」


 そればかりを繰り返す宇宙船に向かい、大声で「なにを警告すると言うのだ」と、憤りもあって少々乱暴な口調で問うた。だが、相手はスピーカー越しに「話を聞いてくれ!」と必死な様子だ。


 なにか事情があるようだ。対話をするべきだろうか。


 何用があってこの宇宙船を奪わんとするのだ、問うと、彼らは宇宙船などには微塵も興味がないと言うのである。


「我々の太陽を返してくれ!」


 スピーカーが告げる。


「逃げ出した太陽を追いかけたら貴殿の宇宙船へと侵入したことを調査員が確認した! 隠し立てするのならばそれ相応の手段を講じる」


 太陽が逃げ出すという状況がよく判らないが、スニーカーから出てきたあの真っ赤な石が彼らの言う太陽なのだろうと理解し、周囲を探るとそれはあった。


 熱々の石——、もとい小さな太陽は、樹脂製のベンチをジワジワと溶かし、少しずつ中へと落ち込んでいる最中である。


 慌てて指先で、真っ赤な太陽をヒョイと掴み、靴の奥の割れた窓ガラスへとそれを押し込んだ。

 すると太陽は覚束ない飛行で、宇宙空間へとふいよふいよと漂っていくのであった。

 

 ご協力感謝する。そんなことを言われたような、言われなかったような。

 

 彼らのもとへと、放浪癖のある太陽が無事戻ったかは判らないが、こうしてスニーカー号の平和は保たれたのだ。


 太陽よ、出奔もほどほどにするがよい。あまり迷惑をかけるのはよくない。

 

 そうは思うが、いたずらっ子の太陽は今日もどこかで彼らを困らせているかもしれない、などと夢の世界の小さな太陽について思うのであった。

 

おしまい。

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