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第三十二夜・奇妙な連なり

 熱が出た。親が言うにはどうやらかなりの高熱である。

 小学校三年生、九年目の人生にして、初めの高熱であった。


 病院から帰宅し、食事もそこそこに布団に入る。

 とにかく倦怠感が凄まじい。

 頭も痛いし吐き気もある。一秒たりとも目を開けていられそうにない。

 母が時折ドアを開け様子を窺うのには気づいていたが、それに応答する元気もなかった。


 母が額に手をあて熱を計る感覚があったのは午後九時ごろ。それからどれくらい経っただろうか。


 ふと目を開けると、常夜灯の向こうにゆらりとゆれる影が見えた。

 何の影だろう、と見ると、布団の周りに正座した人々が幾人も連なっているのである。


 彼らはただ正座して、何かの順番を待っているようであった。


 でも、一体何を?


 彼らの先頭には頭巾を被った人がおり、その者はなにやら手帳のらしき物を手に、筆でさらりさらりと何事かを記しているのである。


 並んだ人々は頭巾の前に辿り着くと、ぼそりぼそりと小さく、まるで秘密を告げるかのように言葉を発する。

 そして頭巾が筆を走らせそれを書き留めていくのである。

 それが終わると並んだ彼らはふ、と立ち上がりどこかへと消えていく。


 ああ、自分あの列に並ばねばなるまい。そうすべきだ。


 ふらふらとしながら、最後尾へと正座して並ぶ。

 熱のせいもあって、どうにも正座が上手く行かない。


 だが、なんとしても並ばなくてはならない——、そう思っていたのである。

 なぜ並ばなくてはならないのかも理解していないにもかかわらず、だ。


 寒い。それに視界が揺れる。

 いったいいつまで並び続ければいいのだろう。


 ふいに、喉に異物感を覚えた。

 思わずこほん、と咳をした。

 すると、正座した彼らが一斉にこちらを向いたのである。


 ——しまった。


 取り返しのつかないことをした。そんな気になった。


 視線が怖い。彼らをこちらを睨みつけている。恐怖で動けなくなる。

 どうしよう。どうしたら。

 咳が出る。止まらない。

 思わず枕元の電気を点ける。

 彼らの姿が次第に薄くなっていく。

 だが咳は止まらない。


 ハッとすると、自身はそこに正座のまま、ただぼんやりと座っていたのである。


 と、ギィ、っという軋む音を立てて扉が開け放たれた。

 母だ。


「あ、起きた? そろそろ少しお水飲もうか……、何しているの?」


 母が電気をつける。


「並ばなきゃ……」


「並ぶ? どこに?」


 どこ? どこって、そう、列だ。

 列に並ばなければ——。

 列? 何のために? どの列に? なぜ?


「ちゃんと寝てなきゃ。なんで正座なんかしているの。ほら、解熱剤も飲もう」


 部屋に母の声が響く。



 彼らは何だったのか、そして、あれはなんの順番を待っていたのか。

 熱が見せた幻影、それだったのだろう。

 

 だが、あの列に加わり続け、順番が回ってきたらどうなっていたのだろう。

 大人になった今も時々そう思うのだ。


おしまい。

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