第三十夜・どんよりジャンピング
おや、トランポリンだ。
草原のど真ん中に直径十メートルほどの巨大なトランポリンがあった。
老若男女入り混じって、その上でバンピョバンピョッピョと跳躍を繰り返しているのである。
なんとも面白そうではないか。
少し仲間に入れてくれないか、と近づくと、彼らの形相はやたらと必死で、おまけに手を真上に押し上げているのである。
中には息も絶え絶えと言った様子の者もおり、彼らの体調が心配になる。
何をしているのか、降りればいいではないかと問うと、その内の一人が『これはペナルティだから降りることができない』というのだ。
はぁ、はぁ、という吐息の合間の返答に少しばかり引いてしまう。
ペナルティ? どんな? 人道に反する懲罰なのでは?
様々な思いが駆け巡るが、とにかく彼らはそれぞれが犯した罪を償うために、その罪が消え失せるまでバンピョバンピョを続けねばならないらしい。
お気の毒様である。
しかしそれにしても珍しい懲罰である。
中には五歳ほどの子供もいるのが気になった。
あの歳で一体何をしたというのか。
「彼が気になりますか?」
彼らを監視していた警備員のような格好をした男に尋ねられ頷くと、「彼はね、弟を殴ったんですよ。まだ三歳の」と言う。
それは大ごとだ。しっかり罪を償うべきである。
「見えますか、あそこに見える水色のTシャツの七歳くらいの女の子。彼女は同じクラスの女の子に意地悪して泣かせたクセに、謝罪を決して受け入れなかった被害者を詰った」
それはひどい。許すか許さないかは被害者が決めるべことだ。
「あの男は傘泥棒、あの女はポイ捨て、あの老人は鼻くそを電柱にくっつけて回っていた」
なるほど、償っていない些細な罪を償う場であるわけか。
ところで彼ら勢員が腕を上へと上げているが気になった。
あれはより体に疲労を蓄積させるためのポーズなのかもしれない。
ふいに、警備員が笛を吹いた。
空を引き裂かんばかりの鋭い音に、思わず縮み上がった。
「八十七番、手が下がっているぞ! しっかり上げないか!」
「はい! すみませんでした!」
まるで刑務所である。
「やや、失礼。大きな音を出してすみませんでしたね」
いえ、と返事をすると、彼は笑顔を作った。
「彼らも罪を償うことで地球に貢献しているんですよ。ああすることによって地面が踏みしめられるんです。つまり大地が地球から剥がれ落ちるのを止めている」
そんな馬鹿な。そう思うが彼は至極当たり前のように「ああして腕を上げることでより強く衝撃が地に伝わる」と言ってのけた。
と、ガガガッと彼の無線が鳴った。彼は応答すると「なに? 了解」と短く返事をする。
「おい、もっと早くジャンプをしろ! 富士山が浮いているそうだぞ!」
トランポリンの上の彼らは必死で跳躍を繰り返している。
警備員はこちらを振り返った。
「おや、あなた。昨日こっそりと家族より一粒多くチョコレートを食べましたね? これは跳躍一〇〇回分の罪に相当します。今すぐあの中に加わるように」
なんとまあ、悪いことはできないものだ。
自身は仕方がなくトランポリンに近づくと、靴を脱いだのだ。
手を挙げバンピョバンピョを繰り返す。
跳躍はあと十回ほど残っていた。
おしまい。




