第二十二夜・タンポポの綿毛
フリマで綿毛を買った。
『たんぽぽの子供』と名付けて売られていた。
まあ、間違いではないが、なんとなくそれは語弊があるではないか。
そう思いつつ、なんだか可愛かったから買うことにしたのである。
二〇〇円であったし、何よりも店番をしていたのがウサギであったことが決め手となった。
瓶に生けられたそれは巨大で、綿毛部分のまん丸は、人の顔よりも遥かに大きかったのである。
五〇〇円を差し出すと、耳の垂れたうさぎが不思議そうな顔をする。
釣りはいいと気前よくカッコつけをすると、ウサギはどれでも好きなものを選べという仕草をする。
せっかくだから一際大きものを頂くことにした。
ただ大きいばかりで何の変哲もない綿毛であるが、ウサギ手づから売っていたのでプライスレスだ。
人混みをテクトコ歩きつつ、あれもこれもとめぼしいものを買ううちに、両手はいっぱいになった。
透明な葉っぱに、ガラス質っぽいドングリ、完全に水色の薔薇。
それから、動物版地球儀なるものも買った。どうやら彼らの地球儀は我々人類のそれとは異なるようなのだ。
いい買い物だ。店員が全員巨大な動物なのはもあまり気にしないことにしよう。
と、すれ違いざまに人間の女が綿毛を売ってくれというではないか。
だがこれは譲れない。自身がウサギから買ったものである。
店の場所を教えると、女はお礼もそこそこに背中を向けて走っていった。
綿毛は確かに可愛いが、なぜそんなに欲しがるのか判らなかった。
綿毛なんぞそんなに欲しければその辺りの河原にたくさん生えているだろう。
どれでも好きなものを選べばいい。
だが、確かにこれほど立派な大きさのものはないだろうが、と自分の体に影を作るどデカい綿毛を見上げて少しだけ自慢したい気持ちが浮かび上がる。
さて、その綿毛であるが、強い風が吹くたびにそれと共に飛ばされそうになる。
なるほど、綿毛本来の性質ということだ。すなわち空高くに舞い上がり子孫を残すという役目のための機能、浮遊である。
風が強い。よし、これに乗って帰ろう。
荷物を全てまとめてバッグに突っ込む。
バラの鉢植えだけは抱えることにして、スニーカーの裏が軽く宙に浮かぶ感覚を見つけながら、風に舞うタイミングを見計らう。
足裏に感じるぷこぷこという感覚が強くなった瞬間に、それ今だ! と言わんばかりに空へと飛んでいったのである。
遠くから小さな声で「待ってください」と聞こえる。振り返れば、先ほど綿毛をねだってきた女であった。
「まって、置いていかないで」
なんとも悲痛な声だが、風に乗ってしまった以上、引き返すことはできなかった。
ごめん、と言うが、女はいつまでも「待って」と続けている。
空高くに舞い上がり、フリマの会場を見遣ると、おかしなことにそこはただの空き地であった。
やがて自宅が近づくと、なぜだか勝手に空の旅は終幕を迎え、そして綿毛は小さくなっていくのである。
違う。己が大きくなったのだ。
手元を見ると、いつのまにか「いい買い物」はなくなってしまっていた。非常に惜しい。どこかに落としてしまったのかもしれない。
ところであの人はどうしただろう。無事帰れただろうか。
そう思いあの空き地に行こうとしたがやめた。
だって、もしも再び小さくなったら、二度と戻れないような——、そんな気がしたから。
おしまい。




