第二十夜・迫り来る粗挽きソーセージ
粗挽きソーセージを買った。
農家さんが栽培したもので、今朝採れたものらしい。
畑を見せてもらうと、串に刺さったような形状の、丸々としたソーセージがたくさん実っていたのである。
農場主が「今年のソーセージは実が太っていてとてもいい。豊作です」という。
それは美味そうだと二パック買って、ウキウキと持ち帰った次第である。
『なにぶん粗挽きですので、取り扱いにはご注意を。ゆっくりと火を入れてください』
そんなことを言われたが、まあ、とにかくゆっくりと火を入れればいいのだろう。
さて、焼くか、ボイルか。自身は断然「焼き派」である。こんがりと焦げ目のついたソーセージを目指して、魚焼きグリルへと突っ込んだ。
暫し待つと、キッチンはスパイシーな匂いで満たされる。
魚焼きグリルを開くと、ソーセージの表面が破れ、中身が顔を覗かせているのが見えた。
おお、粗挽きと聞いたが、ブロック状の肉が飛び出ているではないか。焼きすぎたかもしれない。
慌ててソーセージを取り出して皿に並べた。
裂け目からは、小さなソーセージの種がたくさん顔を覗かせていた。
これこれ。これの歯応えがいいんだよなぁ、などと思う。
ところがである。
フォークをソーセージに入れようとした瞬間、それがバチン、と大きな音を立てて弾け飛んだのである。
農場主の言葉を守り、ゆっくり火を入れたつもりであったがソーセージ的には「急加熱」にあたる勢いの火力であったらしい。
バチン、バチン、ババババババチン。
次々とソーセージが弾けて、ついには弾けんだ中身が膨張し、部屋がソーセージでいっぱいになる。
なんということだ。ここまで膨張するとは予想外だ!
これでは丸でポップコーン、いや、ポップソーセージだ。
ソーセージから迸るジューシーな油で、服も顔もベタベタである。だがソーセージに押しつぶされそうな現状を鑑みれば、ベタベタなんぞどうでもよくて、とにかくこの部屋から脱出することが最重要事項だ。
ポップソーセージは膨張を続ける。
ポンポロポンに膨らみ切ったソーセージの合間を、身動きの取れないなりにかき分けるようにして脱出すると、どういうわけかそれはやがてそれは少しずつ縮んでいった。
静かになった室内に響くのは、水の流れる音。
ああ、水道が出しっぱなしだったのだ。
水道周りから徐々にポップソーセージが縮んでいくのが見えた。
どうやら水気を吸い込み、破裂する力が弱まったようである。
やれやれ酷い目にあった。すぐに掃除をしなければ——、と部屋に再び踏み入った瞬間、何かを踏みつける音がして、再びバチン、と音が鳴ったのだ。
ずっこけそうになるような衝撃。そのままよろめき壁にぶつかる。フラフラする中、部屋の様子を視界の端で捉えると、なにやら床からニョキニョキと草が生い茂り始めるではないか。
ソーセージだ。ソーセージが育つのだ。
なるほど、湿気に衝撃、それらが引き金になったのだろう。
いや、感心している場合ではない。
ぐんぐんと育つ草でキッチンがいっぱいになる。
やがてソーセージが実り始めた。
まずいぞ、早く収穫せねば。種になってしまったらコトである! ソーセージ無限ループが完成してしまう。
慌てて、手近にあった鋏で生える側からソーセージを収穫していく。
今年のソーセージは豊作。
そうは言うが、限度というのもがあるだろう。
チョキリチョキリとソーセージを収穫しながら、次回はゆっくりと茹で火を通そうと考えた。
しばらく食事には困りそうにない。
そうだ、それよりも野菜工場に持ち込んで、併せ商品として売るよう打診してみるのも手かもしれない。
そんなことを考えながら生い茂るソーセージの収穫を急いだのだった。
キッチンは相変わらず香ばしくもスパイシーな匂いで満たされていた。
片付けられた部屋の片隅で、バチンと小さく弾ける音がしたのはきっと気のせいだろう。
おしまい。




