第十九夜・12月34日
カレンダーが示すのは12月34日である。
そう、通常ならば大晦日を3日も過ぎているということだ。
ところが今年は特例として31日を過ぎてもまだ『今年』とのことであった。
混乱するからやめてほしい。
一体、いつ新年になるのかは判らないが、兎にも角にも今日は12月34日だとスマホにも表示されているし、テレビの中のアナウンサーも平然と「おはようございます。12月34日、6時です!」などと告げているのである。
ならば自身もそれを受け入れることとして、終わらぬ大掃除に精を出すしかない。
ちらりと見遣ったカレンダーもやはりなんだかおかしいのだ。
34日の後は空欄。それはまあいいとして、明日の朝になったら12月35日が平然と現れるに違いない。
32日になった時もそうだったのだ。
まったく、これではいつカレンダーを外すべきなのか判らない。
一夜飾りは良くないとのことで、12月29日に壁へとかけた新年のカレンダーが、いつまで経っても年が明けずに所在なさげである。
なんて仕打ちだ。可哀想じゃないか。カレンダーに謝ってほしい。
さていつ終わるか判らぬ年末を粛々と過ごすにも限界があるわけで、スーパーへと赴くことにする。
鮮魚売り場に置かれたシジミには消費期限につていは「34日+2日」などと書かれており、この世のすべてが混乱していることが窺えた。
鮮魚コーナーばかりか肉もお惣菜も全部そう。
恵方巻きの注文用紙にも「未定」の判が押されているし、神社も困っているとの報道があった。
いつ今年が去るのか、或いは去らないのか。
このまま365日経過したらどうなるのだろう。いや、どうにもしようがないわけだが——、すると突然スマホが立て続けにピンピコピンピコと通知を告げた。
周囲の買い物客もみながみなスマホ片手にざわついている。
自身もそれに倣ってスマホを手にすれば、なんとも喜ばしい文字が並んでいた。
『祝・新年! 政府は「今年は本日終了」と発表!』
『内閣府特命担当大臣、今年の終了は本日と宣言。各国首脳との話し合いで決定』
ああ、やっと今年が終わるのである。
ならば話は早い、麺類を買って年越しをせねばならない。今年のカレンダーは取り外すし、おせちだって遠慮なく御重に詰められる。
やれやれ、これでやっと新年がやってくるというわけだ。
かくして地球上が、それぞれの国の時刻に則りカウントダウンを行い、いつも以上に盛り上がって新年を迎えるに至った。
ようやく訪れた1月1日ではあるが、意外とすることがないものだ。
おせちをチミチミと摘みつつスマホをスイヨスイヨと動かすが、世間は余分に過ごした三日の扱いについての話題で持ちきりで、新年らしい目新しい話題はあまりない。
初日の出は今日でいいのかどうかも悩ましい。
暇にあかせてテレビをぽちりとつければアナウンサーの引き攣った顔が大写しとなる。
『不測の三日、これをどうするべきかの問題ですが、地球の自転速度を少しばかり上げることで解決すると決まったようです。これで三日は帳消しになるようです! 繰り返します……、』
そんな滅茶苦茶な。
だが、ググればそのような記事がずらりと並んでいるのである。
NASAが地球の自転に大きく介入することでそれを実現したようだが、その技術の詳細は開示できないとのことであった。
地球がぐるんと素早く回る。
突如訪れた奇妙な感覚に身を浸しながら、餅を啜った。
テレビの中ではアナウンサーのネクタイがふわりと宙に浮いていた。
慣れるかなあ、地球酔い。
汁椀の中身がプルプルと震えるのを見ながら、そんなことを思ったのであった。
何はともあれ新年である。
めでたいことには違いないのだ。
おしまい。




