因縁
「それは……」
土岐さんは。
苦味走った顔をして。
私を見た。
ん?
何かな?
私も理由を知りたいけど……
そっか。
他人には話し辛いことなのかも……
どうしよう……
美鈴の夢だけでも。
伝えてみようかな……
「あのぉ……」
「どうしたの?」
優しい声色の一色くん。
「不思議な話があるんですけど、聞いてもらえますか?」
「不思議な話?」
「うん」
「伺いましょう。お話しになって」
「はい。夢で見たことなんですけど……」
美鈴の夢について。
語りはじめると。
一色くんは。
相づちを打ちながらも。
難しい顔をしていた。
土岐さんは。
宙を見据えたり。
目を閉じたりして。
最後には。
天を見上げた。
その頬を。
一雫。
きらりと。
伝っていった。
「はぁ……ごめんなさいね」
袖から出したハンカチで。
涙を拭う土岐さん。
「いえ……もしかしたら私が、美鈴という人に似てるのも……その、何かのご縁かもしれません」
「そうですわね。それにしても……懐かしかったわ。あの季節が、昨日のことのように甦ってきましたから……」
土岐さんは。
目頭を押さえる。
「え? 実際にあったことを、相川さんが、夢で見たってこと?」
「そういうことね」
「じゃあ、相川さんは、じいちゃんの婚約者の生まれ変わり? いや、記憶を持ってるってこと?」
「記憶はないかな、夢で見たの、一回だけだから……」
「なるほど……けど、相川さんの前世だったり、みたいなのはあるのかもね」
「うん。私もそういうの詳しくないし、本当にあるのかは分からないけど……」
「透が言うようなこと、あるのかもしれません……それじゃあ、少し長くなるけど、よろしくて?」
「はい。お願いします」
美鈴の許嫁。
土岐仙次郎は。
土岐さん。
加奈子さんの兄でもある。
戦争が終わった翌年。
1946年の3月10日。
そう。
その1年前。
美鈴が。
亡くなられたのと同じ日。
「兄は自決しました」
自決という。
聞き慣れない言葉だったけど。
自ら命を絶ったのだと。
頭は理解していた。
仙次郎が。
戦争から戻り。
美鈴の死を知った時の。
落胆ぶりは凄まじく。
魂が抜けた虚ろのようになってしまい。
見るに忍びなく。
声をかけるのさえ。
憚られるほどだったそうだ。
想像には難くない……
夢の中の二人を想えば……
ただでさえ。
戦争に負けたという。
屈辱の中で。
生涯を共に歩むはずの伴侶が。
自らが命をかけて戦い。
美鈴を守るために。
軍人を目指したと。
口にしていた仙次郎。
その戦争で。
美鈴を失ってしまったのだから。
ほどなくして。
仙次郎は東京に向かったという。
それから。
数ヶ月の間。
家には戻らず。
翌年の2月。
金華山が白粉を施した。
雪の振る日。
ふらっと。
帰ってきた仙次郎。
精悍な面影はなく。
頬はこけ。
体躯も痩せ細って。
まるで。
修行僧のようであったという。
ただ。
旅立つ前よりは。
朗らかで。
明るく。
戦前の仙次郎が。
戻ってきたように見えたという。
「でもね、私たちには、予感がありましたの」
土岐さんをはじめ。
ご両親や妹も。
いずれ。
そうなると。
心のどこかで察していたという。
「なぜ、兄を止めなかったのか、そう想われる?」
その問いかけに。
私は首を横に振るだけで。
答えられなかった。
ただ。
一色くんが。
話したことに。
私はうなずいていた。
「軽々しく言うことじゃないかもしれないけど、多分、今の時代の僕らじゃ答えられないと想う」
「価値観の違いと言ってしまえばそれだけだけど、何を言っても、失礼に当たるような気がする」
「そうですか。透。それに相川さんも優しい瞳をしてるわね」
そして、
土岐仙次郎の遺書には。
こう記してあったという。
『ただ。無念なり。
今生、成し得ずとも。
願わくば、来世で巡り合わんことを』
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