わけ
「そんな日に、美鈴さんにそっくりな、相川さんに出会いましたのよ。大袈裟かもしれませんけど、兄の魂の導きのように想えましてね」
「そうなんですね」
「しかも、透のお友達でしょ? 透には、どこか兄の面影ガありますのよ」
私と一色くんに。
交互に視線を送る土岐さん。
その柔和な瞳は。
遠く見るような。
懐かしさに満ちて。
温かくも。
どうしてだろう。
哀しくも見えた。
「あのぉ……お二人の命日が同じということは……」
「それは……3月10日。何の日かご存知?」
突然の問いかけに。
首を捻る私。
「上のばあちゃん、もったいぶらないで」
「相川さんが、知らないのな無理もないけど、透。あなたが知らないのはいけませんね」
「え? 僕?」
「日本の伝統を生業としていく身ならば、もっと歴史を勉強なさい」
「参ったな……」
一色くんは。
苦笑いをして。
こめかみをかいた。
「まあ、この辺りの人には馴染みがないですからね。昭和20年7月9日といったら?」
「それは、岐阜の空襲があった日だよね?」
「あっ……もしかして、東京大空襲ですか?」
「ええ」
あれ?
夢の中の美鈴と仙次郎は。
どこかの田舎住まいだったような……
「あれ? でも、じいちゃんの命日は、昭和20年じゃないよね? 確か……昭和21年だったよね?」
「ええ」
「相川さん、じいちゃんはね、確か海軍軍人で、戦争を戦い抜いたんだよ」
「そう……なんだ」
仙次郎は。
美鈴を守りたいって。
軍人さんになって。
戦争を生き抜いてたんだね……。
そっと。
胸に手を添えた。
でも……
「でも、上のばあちゃんさ、その美鈴って人は東京の人なんだよね」
「いいえ、この岐阜の人よ。戦争が始まって、景気が良くなるって、美鈴さんのお父様が東京に出られたの。兄との結婚があったから、お父様は、美鈴さんをここに残そうとしたんだけどね……」
小さく息を吐いた土岐さん。
「美鈴さんは。小さな弟たちの面倒もみたいし、何より兄が戦っている、ご自分なりに出来ることを尽くしたいって、仰ってたわね」
「そっか……」
「相川さん。深栖という名前に心当たりはありませんか?」
深栖?
お母さんの旧姓は。
確か。
稲庭……
「……いいえ」
「そうですか……」
土岐さんの肩が。
わずかに落ちる。
そっか……
美鈴と仙次郎も。
結ばれなかったんだ。
なんとなく。
戦争の時代だったから。
そんな予感はしたけど。
奇しくも。
軍人である仙次郎が。
戦争を生き抜いて。
美鈴が空襲で亡くなっていたなんて。
それを知った時。
仙次郎は……
心境は察するに余りある。
そういう時代と。
言ってしまえば。
そうなのかもしれないけど。
そんな簡単な言葉で。
済ましたくない。
ただ。
お互いに。
一生懸命。
好きな人を想ってたのに。
そっか……
みんな。
命懸けだったんだ。
今の時代。
そんな覚悟なんて。
程遠いのかな。
「相川さん?」
一色くんの瞳が。
覗き込んでいた。
「あ、ううん。なんでもないよ」
微笑みを返すと。
満面の笑みが返ってきた。
「ところで、じいちゃんは、何で亡くなったの?」
一色くんの問いに。
土岐さんは。
顎を引いて。
背筋を伸ばした。
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