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想いの行方  作者: ぽんこつ


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64/70

古い家

上のおばあさん。

土岐さんの家は。

赤山八幡様の近くにあった。

『土岐庵』も。

それなりに大きい家だったから。

てっきり。

そこだとばかり想ってた。

一色くんによると。

元々はここで。

お蕎麦屋さんを営業してたそうで。

30年ほど前に。

現在の場所で店を構えたんだって。

緑の生け垣に囲われた敷地は。

まあまあ大きくて。

平屋の木造家屋には。

増改築が施されていた。


曇りガラスの玄関を前にして。

胸をさする。

一色くんが。

引戸を開けると。

着物姿の土岐さんは。

あがりかまちに。

正座して待っていた。

驚いた私は。

慌てて頭を下げる。

「お邪魔します」

「よく、お越しくださいました。固くならなくていいですよ」

「上のばあちゃんが、いきなり座ってるからだよ、僕でも驚く」

「それは、失礼しましたね。大切なお客様は、こうしてお出迎えしたもんですからね……どうぞ、上がって下さい」

「は、はい。失礼します」

靴を脱いで。

床を踏むと。

ヒヤリと冷たい。

私はしゃがんで靴を揃えた。

「透。奥座敷にお通しして」

「分かった」

土岐さんは。

微笑みをたたえたまま、

お尻を浮かせ。

するりと立ち上がり。

廊下の奥に歩いて行く。

一連の立ち居振舞いが。

90歳を越えてるとは想えない。

美しいもので。

息をするのも忘れて。

見惚れていた。


「じゃあ、奥座敷はこっちだから」

「あ、はい」

一色くんが指差した先。

左手に続く廊下を進みはじめた。

足を一歩踏み出すと。

きぃ……

床板が鳴る。

その音をお供に進んで行く。

右側が。

障子で区切られた部屋が並んで。

左側は。

連なるガラス戸。

その向こうでは。

生け垣が日光浴している。

「立派なお屋敷だね」

「そう? けど、かくれんぼするには、もってこいなんだよ」

「へぇー、楽しそ」

「廊下の奥に隠し通路があったり、部屋の中に部屋があるっていうのかな、屋根裏部屋もあるし、隠れ放題だから、鬼は大変だよ」

「なんか。面白そう。ワクワクするね」

「いつだったかな、押入れに隠れて、寝ちゃってね。起きたら、両親が大騒ぎしてたよ、僕がいなくなったって」

「えっ? そんなことあるんだ」

「まあ、上のばあちゃんくらいじゃないかな、この家のこと分かってるの。現にその時、僕を見つけたのも、上のばあちゃんだった」

「ふーん」

木や畳の匂いが充満していて。

なんだろう。

どことなく涼しい。

「確か……ここだったかな……」

障子に手をかけた一色くん。

スーっと。

開けた瞬間に。

あの爽やかな。

ツンとする香りを。

吸い込んでいた。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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