意外と
それから。
この2年という歳月が。
まるで。
なかったかのように。
ううん。
会わなかった期間の。
答え合わせをするように。
お互いのことを。
喋っていた。
気がついた時には。
22時を回っていて。
慌ててファミレスを後にした。
助手席に座り。
シートベルトを締めると。
車がゆっくりと走り出す。
「ごめんね。遅くなったね」
前を向いたまま。
口を開いた一色くん。
ハンドルを握る手が。
どことなく。
そわそわしてるように見える。
「ううん。全然。大丈夫だよ」
ちらちらと。
一色くんを。
見てる私。
だってね。
見ちゃうでしょ。
初めての彼だし。
恋人だし。
その顔を。
対向車のライトが。
照らしては消えてを繰り返す。
ちょっと。
聞いてみたいことが。
あったりする。
聞いてもいいのか。
分からないけど。
なんだろ。
気になるんだよね。
車にブレーキがかかる。
信号待ち。
聞くなら……今でしょ。
「あの……一つ聞いてもいい?」
「どうぞ」
一色くんは。
小さくうなずく。
「あの……いつから、その……好きになってくれてたのかな……」
「ああ……えーと……初めて会った時。高校の入学式の日かな」
「え……?」
薄明かりの中。
一色くんの横顔が綻んだ。
「あの日は雨が降ってて、なんか薄暗かったんだけど、相川さんが教室に入ってきた時、なんだろ、教室に光が射して明るくなった」
「フフフ、嘘だ。盛ってるでしょ?」
「いや、本当にそう見えたんだよ。実際は、相川さんが眩しかっただけなんだけど」
「一色くんこそ、ロマンチストだね」
「そうかな? けど、相川さんの言葉を借りれば、僕の魂が奪われたって感じかな」
全身がむず痒くなって。
ポリポリと。
首筋をかく私。
動き出す車。
「それに、テニスウェアの相川さんも素敵だったな」
「また。過去形だ」
「ん? ああ、だって僕はあれから見てないでしょ?」
「そっか。じゃあ、今度テニスしよ」
「テニス? したことないけど……」
「教えてあげるよ。それに……」
「それに?」
「ウェア姿見れるよ」
グラッと。
車体が揺れて。
「ハハハ……参ったな」
乾いた笑い声が響く。
案外。
喋れてる私。
それに。
めちゃめちゃ。
楽しい。
でも。
夜に2人きりの空間って。
甘くて。
危険な香りが。
ぷんぷんしてる。
まだまだ。
私には。
刺激が強いかも。
けど。
もっと。
一緒にいたいな。
とか。
想っちゃう私もいて。
帰りたくない。
って。
言葉に出来ないから。
心の中で囁いて。
そこから。
始まりそうな妄想を抱えてる間に。
「この辺……かな?」
「あ、その先の電柱の所で止めて」
どうやら。
無事に家に着きそうだった。
スピードが落ちて。
滑らかに止まった車。
「一色くん。今日は、ありがとう。楽しかった」
「いや、僕の方こそ……これから、その、よろしくね」
「うん。私こそ……」
カッチ、カッチ……
ハザードランプの点滅音が二人を包む。
「明日、9時半くらいに迎えに来るから」
「あ、うん。分かった」
「じゃあ、また明日」
「うん。また明日ね」
シートベルトを外して。
ドアに手をかけた。
ガチャ。
開いたドアの隙間から。
ヒヤリとした外気が。
流れ込んできた。
名残惜しさを感じながらも。
車から降りる。
辺りを点滅の光が赤く染め上げている。
ふう。
小さく息を吐いて。
くるりと振り返り。
ドアに手をかけて。
車の中を覗き込んだ。
「一色くん。家に帰ったら、連絡して、その……ちゃんと着いたって」
「ん? あっ。分かった」
「気を付けてね」
「ありがとう。じゃあ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
小さく手を振る私。
視界の中で。
一色くんが。
片手を振り返してる。
なんか。
こんなシーン。
ドラマとかでありそうだよね。
唇を噛みしめつつ。
背筋を伸ばして。
バタン。
ドアを閉めた。
ハザードランプが消えて。
動き出した車。
その後ろ姿を。
路地を曲がるまで見送った。
今日という日は。
もう少しで。
終わってしまうけど。
忘れられない日になりそう。
新たな。
始まりの日。
だもんね。
そうだ……
夢のこと。
話しそびれちゃったけど……
でもでも。
人生初の恋人が出来た日だもんね。
今くらい。
ふわふわした想いに浸っててもいいでしょ。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




