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想いの行方  作者: ぽんこつ


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6/33

交感 姫と龍笛《りゅうてき》

「わぁー!」

やけに騒々しい。

ライブかな?

それとも。

何かの試合の歓声?

「おっー!」

にしては、野太い声。

ん?

焦げ臭い。

火事!?

ハッとして体を起こして。

目を開ける。

薄暗い部屋の中。

ぼんやりと淡い光に包まれた。

見たこともない板張りの空間。

ここは!?

胸元に手を当てたら。

服の肌触りに違和感。

襟元を整える。

え?

浴衣……

じゃない。

手を上げて。

揺れる袖。

着物?

布団もぺらぺら。

扉は襖。

「姫様。目覚められました」

ビクッ。

不意に背中越しに。

低く押さえられた男の声が襲う。

姫様?

私は菫だけど……

なに?

「秀之助ですか」

え?

私は話そうとしていないのに。

喋った。

しかも。

声色は私なんだけど……

この状況って。

一体どういうこと?

ゆっくりと座ったまま振り向くと。

一人の男が胡座をかいて。

恭しく頭を下げていた。

時代劇で見たことあるよう。

薄手の鎧を身に付けている。

でも。

男の気配は全く感じなかった。

「はっ。織田方が、夜明けと共に戦を仕掛けて参りました」

「左様ですか」

「某が姫様を伊勢まで案内あないつかまつります」

「父上と母上は?」

秀之助は一層、頭を深く沈めた。

「わたくしだけが、落ち延びるわけには……」

「いえ。土岐源氏の血を絶やしてならぬと殿の……お父上様からの厳命でございますれば……」

私は……

ううん。

正確には姫様が、枕元の扇子を手に取る。

「血筋ですか……」

「お早くお支度を」

「秀之助。そなたの龍笛、一番、所望したい」

「今? でございますか?」

「ええ。お願いです」

「はっ」

秀之助は深く頭を下げると。

体を起こして。

視線は伏せたまま。

流れるような手つきで。

懐から濃い茶色の笛を取り出した。

はちまきを頭に巻いて。

男の人なのにポニーテール。

顔立ちは美しく。

まだ、少年のような面影を残している。

龍笛を横に構えた姿は美しかった。

あっ……

鼓動が早い。

秀之助から逸れることのない眼差し。

笛の清らかな高音。

伸びて透き通るような。

ゆったりとした音色が。

聞こえているはずの。

騒々しい声すら打ち消していた。


目を閉じて。

姫様の想いが。

想い出がよみがえる。

ホーホケキョ……

草木の青々とした香り。

屋敷の庭の片隅。

穏やかな木漏れ日の下。

目の前にいる秀之助は子供。

姫様は今みたいに。

高鳴る胸はそのままに。

手には龍笛を握りしめている。

「秀之助。これを使わす」

秀之助の胸元に龍笛を押し付ける。

「姫様、いけません。某のような者に、大切なお婆様の形見ではないですか」

「いいのです。わたくしはちっとも上手くならないの」

ぐっと胸を押すと。

秀之助の手が龍笛を握った。

姫様は咄嗟に手を離す。

「姫様……」

「よいと申した。『越天楽えてんらく』を聞きたい。しかと励め」

「は、はい」

両手で龍笛を握りしめた秀之助。

その顔は、気色ばんでいた。

「よいな。父上の言いつけ通り。わたくしを守って下さい」

口調は平然としているけど。

心臓は。

全速力で走ったかのように拍動している。

そして。

熱を持った顔。

「はっ!」

凛々しい声を伴って。

秀之助は頭を下げた。

着物の袖を握った両手で。

緩んだ口許を隠す。

ん?

足の親指がくすぐったい。

覗き込んだ視線の先。

紋白蝶が羽を休めていた。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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