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想いの行方  作者: ぽんこつ


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7/35

交感 言いつけ

龍笛の音が止んだ。

ほんの束の間。

無の世界が訪れて。

瞼を上げた。

とてつもない。

声の嵐が四方から押し寄せた。

秀之助は余韻に浸ることもなく。

龍笛を懐に忍ばせた。

そして、座ったまま後退り。

こうべを垂れた。

「姫様、時がありません。お早く」

有無を言わせない。

小さくも力のこもった声。

「分かりました」

姫様は上に薄茶色の衣を一枚羽織り。

枕元にあった小刀を帯に差す。

そして。

両手を合わせた。

わたくしだけ落ち延びたとして。

誰とえにしを結んで命脈を保つというの。

わたくしが、心を寄せて。

慕い続けているのは……

「姫様……」

「分かっています」

姫様は向き直って。

秀之助を見据える。

「いえ……」

相変わらず。

頭をさげたままの。

珍しく震えた秀之助の声。

「いかがしたのです?」

「殿からの……お言伝てでございます……」

いつになく歯切れが悪い秀之助。

「早う申しなさい」

「その、城を落ち……某と……夫婦めおとになれと……」

「え……!?」

袖を絞って。

胸に添える。

秀之助は床に頭をつけた。

結わいた髪が。

ふんわりと揺れる。

父上……

まさか、

このような時に。

泡沫の願いが叶うの……

これは夢ではないの?

手の甲に爪を立てる。

……っ!

鋭い痛みに。

ほころぶ頬。

「某のような、身寄りのない一介の忍び風情が、畏れ多いことで……」

「分かりました。父上の申し付けとあらば、是非に及びません。参りましょう」

「はっ!」


どたどた……

多くの足音がして。

「きゃー!」

にわかに響く侍女達の悲鳴。

秀之助は素早い身のこなしで。

姫様を抱えながら立ち上がる。

「奥の座敷に抜け道がございます。床の間の壁が回転します。抜け道の壁に松明があります。蝋をお忘れなく」

「秀之助は一緒に来ないのですか?」

「某は、時を稼ぎます」

「いやです!」

秀之助は、目を丸くする。

すぐに浮かべた笑顔で。

わたくしの肩にそっと触れた。

恐怖じゃない震えに包まれる。

「これでも、某は忍びのはしくれです」

わたくしを見つめる秀之助の瞳。

とても優しく慈しむような。

あたたかさと覚悟が宿っていた。

「やあー!」

近くで叫ぶ声。

「抜け道の先は、城下の外れ、

某の家に通じております。そこを出て魚屋ととやの長兵衛の店に御身をお隠しなさいませ」

囁く声でまくし立てた秀之助。

「無理をしないで……」

大きく息を吸う。

「わたくしからのめいと心得よ。よいな」

体も。

声も。

震えてるけど。

しっかりと秀之助の目を見た。

どたどた……

人の気配が近づいてくる。

秀之助は姫様を隣の座敷に連れていく。

「では、姫様。お気をつけて」

音をたてずに襖が閉まる。

消えゆく秀之助は微笑んでいた。

「いたぞ!」

鋭い怒号。

カン!

キン!

ドサッ。

何かが倒れる音。

キン!

わたくしは……

小刀の柄を握って。

奥歯を噛みしめる。

壁を回して。

抜け道に足を踏み入れた。


音はなく。

素足に冷えた土の感触が伝わる。

幾分、肌寒い。

羽織の襟を合わせる。

湿った土埃の匂いが鼻をさす。

蝋をかざして。

松明を探して。

見つけたそれを手にして。

炎を灯す。

辺りが明かりに揺れる。

手にした松明で前方をかざす。

緩やかに下る道。

この先の光を見た時。

わたくしの想い人と。

添え遂げることができる。

父上。

母上。

源氏の血統は秀之助と共に守りつないでゆきます。


覚めそうで。

覚めない夢。

現実との狭間にいるような感覚。

あの姫様は……

何者?

私の声だった。

私……なの?

困惑したまま。

深く眠りに就いた。

お読み下さりありがとうございます。感謝しております。

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