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想いの行方  作者: ぽんこつ


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58/72

取られた

神社の階段を下りきると。

焼きそばが焼ける香ばしいソースの匂いが流れてきた。

「駐車場こっちだから」

「あ、ん? 一色くん車なの?」

県道とは反対方向の右の方へ進む。

「え? ああ、車は母さんのだよ」

「あ、ハハハ、そうだよね」

笑って見せたけど。

車ってことは……

二人きり……

なんですけど。


ピピッ。

黒い軽自動車が。

ライトを点滅させて。

「どうぞ」

一色くんは。

助手席のドアを開けた。

「ありがとう」

ショルダーバッグを。

肩から外して。

助手席に腰かける。

爽やかな芳香剤の香りがした。

一色くんは。

小走りに車の前を回って。

ガチャ。

運転席の扉が開いて。

「よいしょ」

勢いよく乗り込んできた。

一色くんの。

一挙手一投足に気を取られながらも。

カチッ。

シートベルトを締める私。

今度こそ。

正真正銘。

お父さんと。

拓兄ちゃん以外。

男の人と。

二人きりでの車は

初めて。

だね。

「運転は新人だから、安全第一でいくから」

「うん」

にこりと笑うと。

一色くんの。

手が伸びてきて。

ピン。

って。

固まった私。

だけど。

その行く先は。

私じゃなくて。

シートが目的だったみたい。


車がバックし始める。

運転席と助手席の間から。

後ろを見ながら。

ハンドルを操作している一色くん。

顔が間近にあるんですけど……

「よし、少し遠回りしていい? この前の道。一通でさ」

一色くんは。

シートに座り直して。

首を傾げた。

「うん。任せる」

そもそも。

この辺の地図が分からない。

「それと、あまり店知らなくて、ファミレスでもいいかな」

「うん。全然いいよ」

「一応、岐阜の駅前とか調べたんだけど、普段、外食しないし、2年間いなかったから情報皆無で、せめて相川さんの好きなものを聞いとけばよかった」

「ううん。私は、好き嫌いないから。何でも美味しく食べれるよ」

「そうなんだ。すごいね。僕は納豆が、どうしても無理みたい」

「ねばねば? 匂い?」

「どっちも」

なんか。

かわいいなって。

膝の上のバッグを掴んだ。

少し体がシートに凭れて。

車はゆっくりと動き出す。


ハンドルを握り。

鈍い光が照らし出す。

一色くんの横顔。

ちょっと。

妖しく。

艶かしく。

でも。

美しい……

ちらり。

ちらり。

見ていたけど。

いつの間にか。

見惚れてた。

通り過ぎる。

外灯が。

明るく見せたり。

暗く見せたり。

「そうだ。忘れないうちに、一つ聞きたいんだけどいいかな?」

前を見たまま。

口を開いた一色くん。

「え? あ、うん」

「明日って、その、忙しい?」

「え?」

志帆からのミッション。

次の予定が。

まさか。

一色くんの方から。

話題になるなんて……

「あ、急だから、予定があるなら全然いいんだ」

「ないない」

自分でも驚くほど即答の私。

クスッて笑う一色くん。

「あ、いや、あのね、回りくどいのは止めるね」

「ん?」

「上のばあちゃんが、相川さんに会って話がしたいって、もちろん僕も同席するけど」

「え……? おばあさんが私に?」

「うん。明日の午前中、10時にって、僕が迎えに行くから。いやなら断ってもいいよ」

「ううん。分かった」

「そっか。良かった」

「え?」

「相川さんとまた会えるでしょ」

さり気ない口調。

だけど。

それはそれで。

ちゃんと響くわけで。

サービスエースで。

この瞬間。

心が射抜かれたよ。

どうしてくれますか?

一色くん……?



お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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