再会
社務所の建物を背に。
雑踏を眺めながら。
慣れない鼓動の高鳴りを連れて。
頭の中では。
どーなるんだろって。
志帆の言った通り……
あらぬ妄想がわき上がる。
「はぁ……」
次の約束ね……
「あら、まだ。お会いしましたね」
ん?
あっ。
声をかけてきたのは。
土岐庵にいた年配の女性だった。
お店にいた時とは。
打って変わって。
紺地の着物の姿で。
白髪交じりの。
銀色の髪を結い上げて。
風格のある女優さんのようだった。
「こんばんは」
慌てて会釈する私。
「はい。こんばんは」
女性は私の周囲に視線を投げる。
「お一人?」
「あ、いえ、待ち合わせしてます」
待ち合わせ。
という言葉に。
きゅんってする私って。
「そうでしたか、邪魔をしてしまいましたね」
「いえ」
小さく手を振る私。
「ご挨拶が遅れましたわね。私は土岐加奈子と申します。土岐庵の大女将をしております」
両手を重ね。
加奈子さんは頭を下げた。
あれ……?
土岐……!?
ん?
かすかに匂う。
あの香。
この人って……
女性と視線が合って。
「あ、相川菫です」
慌ててお辞儀をして。
はにかむ私。
「相川さん、お生まれは?」
「え? ああ、生まれも育ちも岐阜ですけど……」
なんだろう?
なにか。
探られてるような。
気もする。
「相川さん、お待たせ……って、上のばあちゃん、なにやってるの? 二人は知り合い?」
え?
ええっ?
キョロキョロと、
二人を見比べる私。
一色くんも。
同じように。
首を動かしていた。
「おやまあ、透と知り合いでしたか、そうでしたか」
片手を口に添え。
微笑む加奈子さん。
「何か用あるの?」
女性は。
ほほえみをたたえながら。
一色くんに。
耳打ちをする。
一色くんは。
一瞬。
目を見開いたけど。
眉間にシワを寄せて。
首をかしげていた。
「そうしましたら、相川さん失礼致します。透をよろしくお願いします」
「あ、え、こちらこそ……」
よろしくって……
訳の分からないままの私。
加奈子さんの後ろ姿を。
目をぱちくりさせ見送った。
「相川さん、ごめんね、でも、どうして? 上のばあちゃんと?」
「ん? あ、あの、さっきね、お蕎麦屋さんで、お会いして」
「ああ、なるほどね」
「でも。びっくりした。あの方が一色くんのおばあちゃん、あ、おばあちゃんのお姉さんだったなんて」
「世間は狭いのかもね」
頭をかいて。
苦笑う一色くん。
「そうかも」
「あっ、じゃあ、お腹空いてない?」
「ん? どうして?」
「いや、お蕎麦たべたんでしょ? 良かったら、食事でもしながら話せたらって……」
「大丈夫。食べれるよ」
「本当?」
「うん」
大きくうなずく私。
「じゃあ、行こうか」
「あっ、はい」
ショルダーバッグを。
かけ直しながら。
歩き出す一色くんの隣に並ぶ。
一緒にご飯って。
予想外の展開。
あんだけ。
お蕎麦を食べたから。
お腹は減ってないけど。
チラッと。
お腹に視線を落とす。
けど。
せっかく。
誘ってくれたし。
ね。
「感想は、後でゆっくり聞かせて」
「あっ、うん」
何を話そっかな……
「あっ、あの一色くんって親戚多いの?」
「ああ、そうかもね。上のばあちゃんは、子供が5人だったかな。うちのばあちゃんは4人。母さんは、男2人、女2人の長女で。上はお兄さんが2人、さっきの華子は、下のお兄さんの末っ子だったかな」
「なんか、すごいね」
説明してくれたけど。
いまいちピンとこない私。
「父さんの方は、逆に少なくて、叔父さんだけで、祖父母は、僕が小さい時に他界してる。」
「私の家の倍かな」
素直な私の感想。
「まあ、確かに多いよね。今でこそ、誰だか分かるけど、子供の頃なんて、誰が誰だかさっぱり分からなかったしね」
境内の提灯に照らされた。
一色くんの顔が。
あの日の教室のように。
茜色に染まってる。
ぽっと。
私の頬も染まる。
明かりのせいじゃなく。
ね。
鳥居をくぐり。
階段に差し掛かった時。
ドン!
「わっ……」
誰かが背中からぶつかって。
脇を抜けていった。
前のめりになった体を支えようと。
足を一歩踏み出したら。
あれ?
想った所に。
地面がなくて。
重心が前になって。
あっ……落ちる。
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