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想いの行方  作者: ぽんこつ


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音色に感じて

パンフレットに目を通す。

今日の出演者の名前が並んでいて。

龍笛《りゅうてき》……一色透。

すぐに見つけた。

反対側のページには。

演目と題され。

おそらく今日の演奏曲のタイトルが並んでいる。


平調音取《ひょうじょうねとり》。

越天楽《えてんらく》。

五常楽《ごしょうらく》。

皇麞《おうじょう》。

青海波《せいがいは》。


越天楽以外は。

初めて目にする。


ドン!

太鼓の音がお腹に響く。

境内のざわめきが。

波のように引いた。

ドン……ドン……

間隔を揃えて鳴る太鼓。

そのリズムに合わせるように。

舞台袖から。

着物を纏った奏者の人たちが。

ぞろぞろと舞台に上がってくる。

本当に絵巻物の世界みたいに。

厳かで華やかな衣装。

その中でも。

一色くんの姿は。

お世辞抜きに。

一際。

華やいで見える。

チラリと。

私を見て。

笑う。

一色くん。


胸が。

きゅって。

なって。

ぽーっとなって。

境内の熱気より熱い……

私。


恋って。

文字通り。

心が変になるんだね。


私の視界。

舞台の上には。

一色くんしか。

目に入らなくて。

ううん。

一色くんしか。

いない。


プー……

雅やかな音色が。

境内に響く。

座っている。

一色くんは。

少しうつむいて。

滑らかに。

手を動かし。

龍笛を構える。


ピー……

澄んだ高音が。

鼓膜を貫く。

音色に。

心が。

震える。

両手を胸に当てていた。


やがて。

昼間。

動画を見せてもらった。

越天楽の旋律が。

流れはじめる。


空気を震わせ。

直に耳に届けられる。

龍笛の音《ね》は。

どういうわけか。

優しく語りかけてくるようで。

心の奥を。

そっと。

手で触れられたみたいな。

とても。

心地よい。

揺らぎで。


一色くんの。

息を吹き込む。

唇や。

音を醸す。

指先。

演じ奏でる。

たおやかな表情に。


吸い込まれ。

酔いしれていた。


演目が変わっても。

音色に包まれては。


まだ。

経験したことさえないのに。

一色くんの。

腕の中で。

それこそ。

抱かれているような。

ぽっと。

体が温かくなり。

ふわりと。

宙を舞うような。

ふわふわした気分。


ゆるりとした。

調べなのに。

それに反して。

呼吸は。

浅く。

早い。


びしびしと。

痺れるような。

感覚が全身を巡って。


うつら。

うつら。

するような。

その心地よさのまま。

気づけば。

演奏は終わっていた。


ハッとして。

拍手をした時に。

体が紅潮しているのか。

汗だくになっていた。

境内を抜けた夜風が。

ぽかぽかしてる私には。

ちょうどいい冷たさ。


ハンドタオルで汗を拭いつつ。

そわそわする私。

バッグから。

コンパクトミラーを取り出して。

前髪のヘアピンを留め直す。

お手洗いに行って。

メイク直ししたいけど。

一色くんと。

この辺りで。

待ち合わせしてるし。


でも。

あの。

気持ちよさは。

なんだったのかな。

するりと頬を。

風が冷ましていった。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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