ひとときのふれあい
巫女装束の女性の隣に。
一色くんが立っていて。
その出で立ちが。
日本史の教科書。
ううん。
絵巻物の中から。
飛び出してきたみたいで。
黒い何かを象ったような帽子。
緑の上着の着物。
赤い袴。
「来てくれてありがとう、とりあえず、挨拶だけでもって、時間ないからそろそろ行くね」
「あ、わざわざありがとう」
「じゃあ、華子よろしく」
優しい眼差しの一色くん。
「とっくんも、がんばれ」
一色くんの着物の袖を摘まんで。
微笑みを返す。
華子と呼ばれた女性。
見つめ合う二人。
チクチクと。
胸の辺りが。
くすぐったい。
一色くんは。
私にも笑顔を向けて。
くるりと身を翻して。
軽やかに駆け出した。
「里村様、どうぞこちらに」
「あ、はい」
華子さんの微笑みに促されて。
後を付いていく。
背は私より少し低いくらい。
腰まである長い髪を。
一つまとめにしている。
ウィッグじゃないんだ……
社殿の前に設えられた。
板張りのステージ。
舞台と呼んだ方がいいのかな。
その間近に。
パイプ椅子を並べたのが観覧席のようだ。
すでに多くのお客さんが着席していて。
一番後列の社務所脇の席に案内された。
私の席の後ろにはロープが張られ。
観覧席との境になっているようだった。
「どうぞ」
「どうもありがとう」
「こちら、本日の演目になりますので、よろしければどうぞ」
華子さんは。
小さなパンフレットを差し出した。
「ありがとうございます……あの」
「何か?」
「あ、いえ、なんでもありません……」
小さくお辞儀をして。
パンフレットを胸に抱えて。
椅子に腰かけた。
「はぁ……」
あなたは。
一色くんの……
なーんて。
聞けないもんね。
「あのぉ……」
ビクッと。
肩が跳ねた私。
振り向くと。
華子さんが。
口元に手を添えて。
クスクスと。
笑っていた。
「脅かしてごめんなさい」
「いえ……」
「とっくんは、私の一つ年上の従兄なんです」
「え?」
「私の家、親戚多くて、私は遠山華子です。とっくんのこと、よろしくお願いします」
両手を重ねて。
ぺこりと。
頭を下げた。
「え? あっ、はい……」
「こんなに、かわいい彼女さんがいるなんて、ちゃんと紹介してくれたらいいのに」
「いえ、私は……」
「まあ、親戚多いから、ごちゃごちゃ言われるのが嫌なのかな」
「は、はぁ」
「もう、そろそろ始まりますね、じゃあ、ごゆっくり」
小さく手を振ると。
華子さんは。
背を向けた。
は。
はは……
私って。
分かりやすいのかな。
年下の子に。
気を遣わせちゃったみたい。
でも。
安直な私の心の靄は。
瞬時に晴れていた。




