慌てないで
「慌てないでお嫁サンバ。一人のものにならないで~」
ん?
突如。
背中から。
被さってきた男の人の声。
ビブラートを聞かせて。
伸びやかな響き。
「あーあ~、ああ~、それが大事だよ~」
志帆と顔を見合わせる。
「こんなとこで珍しいな。何やってんの?」
あっ。
この声は……
「あんたこそ、何やってんの?」
眉間にシワを寄せた志帆は。
上体を捻って。
後ろを見る。
私も。
同じようにして。
振り向く。
「おいおい、そんな突っかからなくたっていいだろ?」
風崎豪くん。
そう。
高校1年の時。
私のこと。
好きだって……
「で、何か用?」
つっけんどんな志帆の声。
「用も何も女子が楽しげに歌ってるなぁ、って思ったら、お前らだったって訳」
「いつから、あんたにお前ら呼びされる云われないけど」
「あ、それは、悪い。けど、あんた呼びされる筋合いもないと思うけどな」
片手を腰に。
もう一方の手で作った拳銃を。
志帆に向けた。
「はあ? あんたさ、うちの菫に……」
私は志帆の腕を掴んで。
ぶんぶんと首を振る。
「ん?」
しかめっ面の志帆。
じっと。
見つめる私。
志帆と亜季は。
風崎くんが。
私に告白したのを。
もちろん知っている。
私が断ったのも。
けど。
その時。
私はテニスウェアを着ていて。
私を見る風﨑くんの視線が。
エッチな感じがして。
体目的かなって。
ほんの一瞬。
感じたことを。
2人に話したのが原因で。
風崎くんに。
マイナスな印象を。
植え付けてしまった。
当の本人も。
好きな子が。
そんな格好してたら。
男なら見るとかなんとか。
言ってたと想う。
私の眼力が通じたのか。
志帆は。
タコみたいな口をしながらも。
うんうんと。
小さくうなずいた。
「なんだ、なんだ。それ。目と目でなんとかってやつか? 俺、相川に告白はしたけど。恨まれるようなことはしてないよな?」
相変わらずな。
直線的な物言いの風崎くん。
「うん。まあ、そうかな」
むしろ。
非があるのは。
私の方なんだけどね。
後で。
ちゃんと2人に話さなきゃね。
「じゃあ、どう? 3人でカラオケ行かない?」
「行かない!」
私と志帆の声が。
見事に重なる。
「ハハハ、冗談だよ」
「まったく。そもそもなんで、あ……風崎がいるのよ」
「そりゃ、こっちの台詞だけど、俺ん家、この裏だから」
親指を立てた手で。
肩越しに背後を指し示した。
ん?
「裏って?」
私の問いかけに。
にこりと笑う風崎くん。
「赤山町だけど?」
やっぱり……
「そっか」
微笑みを返したつもりだけど。
姿勢を直すのを装って。
風崎くんに背を向けた。
でも。
どうする?
土岐くんのこと。
聞いてみる?
でも。
どうやって聞けばいい?
私が振った人に。
そんなこと……
聞けないよ……
「じゃあ、風崎さ、赤山小だよね?」
ん!?
志帆のさりげない口調。
「そうだけど。なに?」
「あ、いや、ふと思い出したんだけどね、昔、うちらとこの公園で遊んでた男の子がいてね」
志帆は。
チラリと私を見た。
何食わぬ顔で。
うなずく私。
でも。
心の中では。
志帆に向かって。
感謝の合掌。
「ふーん。で?」
「確か、名前は土岐って言うんだけど、ある時期から、パッタリ見なくなってさ、風崎が赤山小なら知ってるかなって」
「土岐ね……」
顎に手を添えて。
宙を見つめた風﨑くんの。
口元を視界の端で。
見つめていた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




