優しさ……って。
顔を上げると。
白いスニーカーを履いた。
小学生くらいの女の子が。
地面に足を擦らせながら。
近づいてきて。
「お姉ちゃん。これあげる」
差し出された女の子の両手の上に。
ビニールに包まれた。
小さなあめ玉が乗っていた。
「どうして? 私に?」
「お姉ちゃん泣いてたから。これね、甘くて美味しいよ」
あっ。
私が振られたように見えたんだね。
はにかみながら。
女の子の手から。
あめ玉を受け取った。
「ありがとう」
女の子は。
もじもじと。
体を揺する。
「しゅわってなるから。食べてみて」
白い星が描かれた。
ビニール袋の包み。
ああ。
懐かしいなぁ。
まだ売ってるんだ。
子供の頃。
よく食べていたあめ。
レモン味で。
女の子が言うように。
しばらく舐めてると。
口の中に。
しゅわしゅわが広がる。
包みをほどいて。
黄色いあめ玉を。
口に放り込んだ。
「美味しいよ。ありがとう」
女の子は白い歯を見せて笑う。
「すみれー!」
ん?
「はあい」
女の子は返事をすると。
「バイバイ」
私に手を振って。
ふわりとスカート翻し。
両手を大きく振りながら。
駆けていった。
その後ろ姿に手を振る私。
両手を広げて。
ピタリと立ち止まった女の子。
上体だけ振り向いて。
手を振り返してくれた。
空気が揺れて。
枝葉がさざめいて。
キラリと。
目映さに。
手をかざす。
「菫!」
ん?
あっ。
志帆だ。
声のする方を見ると。
自転車を押しながら。
志帆が駆けよってきていた。
「あれ? 志帆帰ったんじゃなかったの?」
「菫を放っておけるわけないでしょ?」
志帆は自転車を止めて。
私の隣に腰を下ろす。
「なにそれ。子供じゃないし」
「ところで、何食べてるの?」
「ん? ああ、あめだよ。ほら、子供の頃さ、みんなでよく食べたじゃん、しゅわしゅわするあめ」
「あー。懐かしい。私にもちょうだい!」
「ないよ」
「なんで?」
「もらったんだもん」
「あっ、さっきの彼に? 菫が泣き出した時には、どうしようかと思ったけど。案外上手くいったぽっかたし」
「違うよ」
「え!? やっぱり、上手くいかなかったの?」
「ん? あ、ちょっと待って」
私は両手を前に出す。
「なに?」
「えーと。その彼……一色くんだった。連絡先交換した」
「うわ。で。で。ラブレター書いたの彼だったんだ」
「あ、それは違くて、ああ。あめはさっき女の子からもらったの」
「ん? ラブレター、彼じゃなかったの?」
「うん。ああ、確認した訳じゃないけど。たぶん違うかな。ここには待ち合わせで来てたみたい」
「誰と?」
「わかんない……けど、あいつって言ってたかな」
「あいつ……ね」
「うん」
「それで、あめは女の子からもらったの?」
「うん」
首を捻る志帆。
「じゃあ、ラブレター書いた人は他にいるの?」
「うん……そうなる」
「でも、その一色くんとはいい感じなんだね」
「まあ。そうかも。今日ね赤山の八幡様の例大祭でね」
「え!? デート?」
「ううん。違くて、一色くんが雅楽を演奏するんだって」
「ががく……?」
「えーと。和楽器で演奏する音楽」
「ふーん。よく分からないけど……でもさ……」
「なに?」
「んー。女の子なんていたかな」
「へ?」
眉間にシワを寄せ。
志帆は人差し指を顎に当てていた。
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