瓢箪から駒。かな。
優雅に羽をはためかせ。
モンシロチョウが。
上に。
下に。
うららかな。
空気の中を漂っている。
キーッ。
自転車のブレーキの音が。
かすかに耳に届いて。
ふいに。
あの金属音の旋律が。
甦った。
「あっ。オルゴール。まだ持ってるの?」
「え? あの時のこと、覚えててくれたの?」
「うん。確か、トルコ行進曲だよね」
「そうそう。今は持ち合わせてないけど、持ってきてるよ」
「そっか。懐かしいな……」
「そうだね」
「その……赤山八幡の例大祭で演奏するってことは、一色くんは、赤山の辺りに住んでるの?」
「ん? ああ、僕の実家は東の南陽町。赤山には上のばあちゃんの家があるよ。それがどうしたの?」
「ううん。あの頃……ていうか、今もかな、一色くんのこと何も知らなかったなって、想って」
そっと。
視線だけで。
一色くんの様子を伺う。
「そっか」
瞳は空を見つめていた。
伸びた顎のライン。
喉仏が上下する。
一色くんと同じ呟きを。
心でこぼした私。
だって。
今なら。
きれいに切り揃えられた爪も。
吹奏楽部とか。
音楽に造詣が深いことも。
分かったから。
さらりと抜ける風が。
桃色の花びらを舞わせて。
子供たちの喧騒を煽る。
揺れ瞬く木漏れ日が。
地面に星空を描いて。
梢の囁きが。
時をゆっくり押し流している。
ラブレターのこととか。
気になることも。
あるけれど。
今。
この瞬間が。
とても。
とても。
愛おしい。
「相川さんは、いつ東京に引っ越すの?」
「あ、明後日。午前中の新幹線で。午後には引っ越し屋さんが来るから、お母さんと一緒だけどね」
「そっか、じゃあ、良かったら、連絡先交換しない?」
へっ!?
飛び上がる心臓。
心のあたふたが。
バレないように。
髪を直すふり。
「う、うん」
少しかすれた声。
いそいそと。
手を突っ込んだ。
ショルダーバッグから。
スマホを引き抜く。
あっ。
はらり。
ラブレターが。
地面に落ちる。
屈んで。
手を伸ばす。
あっ。
一色くんの手が。
私より先に拾い上げた。
「はい」
「あ、ありがとう」
受け取りながら。
一瞬。
迷って。
バッグにしまった。
「じゃあ」
差し出された。
青いスマホ。
「うん」
そこに。
白いスマホをかざして。
ゲットしちゃった。
連絡先。
唇をかみしめて。
そう。
テニスで。
エースを取った時みたいな。
ガッツポーズを。
心の中でする。
「僕も明後日、東京に戻るんだ。落ち着いたら、連絡して。今日は休暇を貰ってるからあれだけど、平日は繋がりにくいかも」
「うん。分かった」
今も。
落ち着かないけど。
落ち着かなくても。
連絡しちゃうのかな。
出来るよね。
私。
「そうだ。良かったら例大祭見に来ない? って言っても僕はもてなせないけど」
「行ってもいいの?」
「もちろん。ロマンチストな相川さんが、雅楽を聞いて、どんな感想を抱くのか、知りたい」
「は、あ、うん。じゃあ、見に行くね」
一色くんは。
腕時計に視線を落とす。
「18時からだから、一人があれなら、その、友達とかと来たらいいかな」
「うん。分かった」
さりげなく。
視線を這わせて。
探したけど。
志帆はいなかった。
「でも、本当にすごいな、まさか相川さんと会えるなんて」
「そうだね……一色くんは、この公園、良く来てたの?」
「いや、僕の家からは遠いでしょ。今日は待ち合わせで、ここに来たんだけど、肩透かし喰らったみたいだけどね」
「待ち合わせ……?」
吹き抜ける風が。
心に穴を開けて。
流れたような。
気がした――
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




