どうして……?
木漏れ日が降り注ぐ。
木陰の背もたれのないベンチ。
一人の男性が腰かけている。
さらりとした髪が。
落ちる光と揺れている。
「どう? 菫?」
「少し遠いから、分かんないけど……」
雰囲気は。
一色くんに似てる。
けど……
「とりあえず行ってきな。私ここにいるから。良さげな感じになったら、消えとくから」
誠に楽しそうに。
ウインクをしている志帆。
「え? 一緒に行かないの?」
「うん。私はラブレター貰ってないでしょ? もしさ、盛り上がったら、私、お邪魔虫じゃん」
「分かったよ」
「ほらほら、行った行った」
追っ払うように。
片手をひらひらさせる志帆。
「はいはい」
自転車のハンドルを握って。
一歩。
踏み出した。
周りを気にしながら。
視線のどこかで。
ベンチを捉えている。
一色くん……?
でも。
この公園には。
一色くんとの想い出はない。
ん?
ベンチに座っている彼の手に。
?
手紙?
少し前を通り過ぎてみようかな。
あと。
10メートル。
下を向いているから。
顔が分からない。
とんとん、とん……
転がってきた。
ゴムボールが。
彼の足元に。
気づいた彼は。
屈んで。
ボールを取って。
上がった顔。
ああ……
背筋が伸びる私。
ふわりと頬を撫でた風が。
唇にほつれ毛を残す。
色めき出す鼓動と。
忘れた呼吸。
彼は近寄ってきた男の子に。
ボールを手渡している。
笑顔は。
記憶の中のまま。
ゆっくりと顔が動いて。
視線が――
私を捉えた。
固まって。
動けなくて。
彼は。
目を大きく見開いて。
半開きの口が。
パクパクと動いて。
「あの……相川さん?」
「はい。一色くん……だよね」
彼は小さくうなずいて。
両手を膝について。
立ち上がった。
私は数歩。
歩み寄って。
自転車を止める。
「久しぶりだね。相川さん。元気そう」
「あ、一色くんも」
ん?
あれ?
なんか。
変じゃない?
「まさか、相川さんに会えるなんて、不思議なこともあるんだね」
「あ、え、うん。そうだね。一色くんは、どうしてここに?」
「えーと。話せば長くなるんだけど、今日、赤山八幡神社の例大祭で神楽を演奏するんだ。その為に2年振りに岐阜に戻って来たんだ」
「神楽……?」
「そう。僕はね」
一色くんは。
両手を顔の左側に並べて。
指をリズミカルに動かす。
まるで。
何かを演奏するような構え。
!
「龍笛……」
「へえ、相川さん知ってるんだ龍笛のこと。すごいや」
「ああ、それは……」
夢で知った。
なんて。
言い出せなくて。
でも。
この感じ。
おかしいよね?
「良かったら、座って話さない?」
ベンチを見た一色くん。
「あ……うん」
促されるまま。
腰を下ろす。
「一色くん、それは何?」
「ん? ああ、これは、上のばあちゃんからの手紙」
「上のばあちゃん?」
「これも長くなるけど……」
首の後ろをさする一色くん。
ああ。
こんな仕草してたよね。
懐かしくあるも。
違和感もある。
「あ、聞きたいかも。話せる範囲でいいから」
「僕の亡くなったばあちゃんのお姉ちゃんが、95歳になる上のばあちゃん」
人差し指で天を指し示した。
「なるほど」
「その上のばあちゃんが、まぁ簡単に言うと、僕をその例大祭で神楽を演奏できるように、取り計らってくれてね」
「そっか」
「今年は親戚一同集まるんだからって。絶対戻るように念押しの手紙」
「面白そうな、おばあちゃん」
「そうだね。ばあちゃんが亡くなってから、あまり接点はなかったんだけどね」
苦笑いの一色くん。
「相川さんは? 散歩でもしてたの? そうそう、テニスは続けてるの?」
「え、あ、まあ。ああ、テニスは続けてるよ」
「ん? どうしたの?」
「あ、えーと……」
どうしよう。
ラブレターのこと。
聞いた方がいいのかな。
でも。
この感じだと。
一色くん。
書いてなくない?
そしたら……
訳ワカメなんだよね……
「あっ。私ね東京の大学に進学するんだ」
「え? そうなんだ、おめでとう」
「ありがとう。一色くんは、今どこに住んでるの?」
「千葉の松戸っていう所。川を渡れば東京だよ」
息を吸って。
吐くのを忘れて。
「じゃあ。その……」
後の言葉が。
声にならない。
頭の中では。
会えるかな。
って。
言ってるのに……
「なに? その?」
「あ、んっ、んんっ……」
からからな口の中で。
話したもんだから。
喉がいがいがして。
咳払い。
「大丈夫?」
「うん」
柔らかな。
笑みを浮かべる一色くん。
喉を押さえて。
はにかむ私。
そっと。
膝の上で手を組んだ。
せわしなく動く。
親指を見つめながら。
「その、東京で、また……会えるかな」
肩が上がって。
心臓が破裂しそうだった。
「ああ、うん。そうだね、東京なら会えるよ」
「本当!?」
ニコッと笑って。
うなずく一色くん。
頬が緩んで。
唇をかむ私。
「僕ね宮内庁の楽師を目指してるんだ。それの一般公募に合格してね。それで、岐阜を離れることになったんだ」
「がくし……?」
「えーと。簡単に言えば宮中の行事とかで楽器を演奏する人のこと」
「ふーん。楽師か。勉強大変?」
「まあね。でも、普通の学校ではなくて、研修生という非常勤の職員扱いで、給料が出るんだ。そんな大きな額じゃないけどね」
「へえ、じゃあ。学校ではないんだ」
「そうなるね。だから、この2年間は、夜間の高校に通いながらだったから、結構しんどかったかな」
「頑張り屋さんだね。一色くん」
「まあ、でも、あと、5年はこの立場で学んで。最後に試験に合格すれば。晴れて楽師になれる」
「そっか」
すごいなって。
感心しつつも。
再会も嬉しいし。
こうやって。
話せることも。
それに。
東京で会えそうなのと……
いやいや。
ラブレターはいったいなんなの?
マーブルチョコのように。
渦巻く私の心。
でも。
どうやって。
切り出したらいいのかな。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




