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想いの行方  作者: ぽんこつ


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39/52

どうして……?

木漏れ日が降り注ぐ。

木陰の背もたれのないベンチ。

一人の男性が腰かけている。

さらりとした髪が。

落ちる光と揺れている。

「どう? 菫?」

「少し遠いから、分かんないけど……」

雰囲気は。

一色くんに似てる。

けど……

「とりあえず行ってきな。私ここにいるから。良さげな感じになったら、消えとくから」

誠に楽しそうに。

ウインクをしている志帆。

「え? 一緒に行かないの?」

「うん。私はラブレター貰ってないでしょ? もしさ、盛り上がったら、私、お邪魔虫じゃん」

「分かったよ」

「ほらほら、行った行った」

追っ払うように。

片手をひらひらさせる志帆。

「はいはい」

自転車のハンドルを握って。

一歩。

踏み出した。


周りを気にしながら。

視線のどこかで。

ベンチを捉えている。

一色くん……?

でも。

この公園には。

一色くんとの想い出はない。

ん?

ベンチに座っている彼の手に。

手紙?

少し前を通り過ぎてみようかな。

あと。

10メートル。

下を向いているから。

顔が分からない。

とんとん、とん……

転がってきた。

ゴムボールが。

彼の足元に。

気づいた彼は。

屈んで。

ボールを取って。

上がった顔。

ああ……

背筋が伸びる私。

ふわりと頬を撫でた風が。

唇にほつれ毛を残す。

色めき出す鼓動と。

忘れた呼吸。

彼は近寄ってきた男の子に。

ボールを手渡している。

笑顔は。

記憶の中のまま。

ゆっくりと顔が動いて。


視線が――


私を捉えた。

固まって。

動けなくて。

彼は。

目を大きく見開いて。

半開きの口が。

パクパクと動いて。

「あの……相川さん?」

「はい。一色くん……だよね」

彼は小さくうなずいて。

両手を膝について。

立ち上がった。

私は数歩。

歩み寄って。

自転車を止める。


「久しぶりだね。相川さん。元気そう」

「あ、一色くんも」

ん?

あれ?

なんか。

変じゃない?

「まさか、相川さんに会えるなんて、不思議なこともあるんだね」

「あ、え、うん。そうだね。一色くんは、どうしてここに?」

「えーと。話せば長くなるんだけど、今日、赤山八幡神社の例大祭で神楽を演奏するんだ。その為に2年振りに岐阜に戻って来たんだ」

「神楽……?」

「そう。僕はね」

一色くんは。

両手を顔の左側に並べて。

指をリズミカルに動かす。

まるで。

何かを演奏するような構え。

龍笛りゅうてき……」

「へえ、相川さん知ってるんだ龍笛のこと。すごいや」

「ああ、それは……」

夢で知った。

なんて。

言い出せなくて。

でも。

この感じ。

おかしいよね?

「良かったら、座って話さない?」 

ベンチを見た一色くん。

「あ……うん」

促されるまま。

腰を下ろす。

「一色くん、それは何?」

「ん? ああ、これは、上のばあちゃんからの手紙」

「上のばあちゃん?」

「これも長くなるけど……」

首の後ろをさする一色くん。

ああ。

こんな仕草してたよね。

懐かしくあるも。

違和感もある。

「あ、聞きたいかも。話せる範囲でいいから」

「僕の亡くなったばあちゃんのお姉ちゃんが、95歳になる上のばあちゃん」

人差し指で天を指し示した。

「なるほど」

「その上のばあちゃんが、まぁ簡単に言うと、僕をその例大祭で神楽を演奏できるように、取り計らってくれてね」

「そっか」

「今年は親戚一同集まるんだからって。絶対戻るように念押しの手紙」

「面白そうな、おばあちゃん」

「そうだね。ばあちゃんが亡くなってから、あまり接点はなかったんだけどね」

苦笑いの一色くん。

「相川さんは? 散歩でもしてたの? そうそう、テニスは続けてるの?」

「え、あ、まあ。ああ、テニスは続けてるよ」

「ん? どうしたの?」

「あ、えーと……」

どうしよう。

ラブレターのこと。

聞いた方がいいのかな。

でも。

この感じだと。

一色くん。

書いてなくない?

そしたら……

訳ワカメなんだよね……

「あっ。私ね東京の大学に進学するんだ」

「え? そうなんだ、おめでとう」

「ありがとう。一色くんは、今どこに住んでるの?」

「千葉の松戸っていう所。川を渡れば東京だよ」

息を吸って。

吐くのを忘れて。

「じゃあ。その……」

後の言葉が。

声にならない。

頭の中では。


会えるかな。


って。

言ってるのに……

「なに? その?」

「あ、んっ、んんっ……」

からからな口の中で。

話したもんだから。

喉がいがいがして。

咳払い。

「大丈夫?」

「うん」

柔らかな。

笑みを浮かべる一色くん。

喉を押さえて。

はにかむ私。

そっと。

膝の上で手を組んだ。

せわしなく動く。

親指を見つめながら。

「その、東京で、また……会えるかな」

肩が上がって。

心臓が破裂しそうだった。

「ああ、うん。そうだね、東京なら会えるよ」

「本当!?」

ニコッと笑って。

うなずく一色くん。

頬が緩んで。

唇をかむ私。

「僕ね宮内庁の楽師を目指してるんだ。それの一般公募に合格してね。それで、岐阜を離れることになったんだ」

「がくし……?」

「えーと。簡単に言えば宮中の行事とかで楽器を演奏する人のこと」

「ふーん。楽師か。勉強大変?」 

「まあね。でも、普通の学校ではなくて、研修生という非常勤の職員扱いで、給料が出るんだ。そんな大きな額じゃないけどね」

「へえ、じゃあ。学校ではないんだ」

「そうなるね。だから、この2年間は、夜間の高校に通いながらだったから、結構しんどかったかな」

「頑張り屋さんだね。一色くん」

「まあ、でも、あと、5年はこの立場で学んで。最後に試験に合格すれば。晴れて楽師になれる」

「そっか」

すごいなって。

感心しつつも。

再会も嬉しいし。

こうやって。

話せることも。

それに。

東京で会えそうなのと……

いやいや。

ラブレターはいったいなんなの?

マーブルチョコのように。

渦巻く私の心。

でも。

どうやって。

切り出したらいいのかな。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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