想い巡る
「で? どうなの菫?」
両手を腰に当てて。
前屈みになって。
私を覗き込む志帆。
「あ、えーとね。私は覚えてなかったんだけど……」
「ん?」
「昔のことでね、お母さんの話だと運動公園の池に架かる石橋で、土岐くんとぶつかって、怪我をしたみたいなんだよね私」
「運動公園の橋? 菫が怪我したの?」
志帆は。
姿勢を正して。
首を傾げる。
「うん……」
「あっ……」
「ん?」
パッと。
目を見開いた志帆は。
パン!
胸の前で手を叩いて。
両手をひらひらさせる志帆。
「思い出した! 頭怪我した時だ。病院に亜季とお見舞いに行った、行った」
「そうなんだ、私はほとんど覚えてないんだよね。その節はありがとう」
小首を傾げて。
微笑む私。
「なに? あの時だって、ありがとうって言ってたよ菫。でも、頭さ包帯でぐるぐる巻きで、ミイラみたいだったけど」
頭の周りで。
手を回して。
楽しそうな志帆。
「ミイラって」
「確か、家にそん時の写真あると思うけど……」
「そんなことより、その時さ、土岐くんと会ったりしなかった?」
「えー? どうだったかなぁ」
「お母さんの話だと、毎日お見舞いに来てたって……」
大きく。
首を振る志帆。
「会ってないかな」
「そっか……」
「男の子なら、私は忘れないから。特にイケメンはね」
ウインクをして。
自信満々の笑顔の志帆。
「確かに」
「そんなことより、運動公園の橋だっけ?」
「うん。でもさ、もう公園に池もないし橋もないよね」
「そうなの? まあ、どうせ分からないなら、行ってみよ」
「そうだね」
うなずく私。
志帆は手首を返して。
腕時計を見つめた。
「待ち合わせから、1時間経つけど、やれることはやる」
「はぁい」
よいしょ。
私は自転車に跨がる。
ハンドルを握って。
ペダルを踏み込んだ。
「レッツゴー!」
勢いよく走り出した。
志帆の自転車。
「ちょっ、待ってよー!」
運動公園は。
子供たちの陽気な声が。
飛び交っていた。
「人多いね」
「そだね、いいお天気だし」
「池や橋があったのって、この先だよね」
「うん」
自転車を押しながら。
今は芝生になっている。
池と橋があった場所へと向かう。
吹き抜ける風が。
木々の葉を波打たせ。
早咲きの桜の花びらを。
舞わせている。
「うーん。お城は見えないね。あのマンションの方向でしょ?」
志帆が指差した先には。
数年前に出来た。
白亜のマンションが聳えている。
「そっか。じゃあ昔は見えていたかもしれないってこと?」
「かもね。普通にお城は色んなとこから見えてた気がするもんね」
「うん、それはある」
「さあて。その土岐くんとやらのご尊顔、見れるかな」
「どうだろうね」
半ば。
諦めの気持ちがあるのか。
装うまでもなく。
至って平穏。
志帆のが。
ワクワクしてるようにさえ。
想えてくる。
それに。
土岐くんの面影は。
あの頃のおぼろげなまま。
実際。
会ったところで。
成長した彼のことが。
自分に分かるのか?
疑問と不安が。
わいてくる始末。
ん?
あっ。
息を飲む。
土岐くんとの。
別れ際。
地面に書かれた。
好きでした――
の文字。
同じだった。
ラブレターのものと。
夢の中で目にしたものと。
そう。
独特の跳ねをした文字。
にわかに。
せわしく。
鳴り出す鼓動。
青々とした芝生も。
陽射しと風で。
光の揺らぎを纏っている。
「ねぇ、あれは?」
声と共に。
立ち止まった志帆。
「ん?」
隣の志帆は。
一点を見つめている。
私は。
その瞳が見据える先に。
ゆっくりと視線を向けた。
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