想いを架ける
結局。
30分くらいかな。
待っていたけど。
ラブレターの送り主。
一色くんは。
姿を見せなかった。
その間。
通り抜けて行ったのは。
ジョギングをしている男性。
小さな男の子たちの自転車の集団。
旅行者のカップル。
サイクリングの女性。
ソワソワな気持ちの。
落とし所もなく。
ラブレターに書いてあった。
あの橋は。
金華橋じゃなかった。
ということなのかな。
そうだとしたら。
どこかの橋で。
待っててくれてるのかな。
大きく息を吐いて。
見上げた空。
行く宛の分からない。
飛行機が機体を輝かせ。
漂う雲の間に間を飛んでいた。
手を伸ばしても。
届きそうで。
届かない。
一色くんに。
連絡する手段があれば。
ね。
「菫、もしかして、お城が見えるあの橋ってさ……」
腕組みをして。
首を左右に倒している志帆。
「橋がどうかしたの?」
「今さら感、半端ないけど、あの橋なんじゃない?」
人差し指を頬に当て。
宙を見上げる志帆。
「え? 志帆知ってるの?」
思わず。
志帆の両腕を掴む私。
顔を引きつらせ。
苦笑う志帆。
「ああ、違う違う、知らないよ」
「ん? どういうこと?」
意味が分からなくて。
眉をしかめる私。
「いや、ここは金華橋でしょ?」
私の手をほどく志帆。
「そうだよ」
「普通さ、金華橋なら金華橋って書かない?」
「まあ、確かに。それはそう」
「だから、あの橋は名前がないんじゃない? あったとしても有名じゃないとか」
「なるほど。そうかも」
「何かさ、ないの? 一色くんとの想い出の橋」
「ないんだよね……」
「だよね。でも、そういうことなんじゃないかな。あの橋って書いたの」
「だけど、全くないよ。そもそも一色くんと学校以外で会ったことないし」
「え? そうだったの?」
こくりとうなずく私。
「そっか……学校に橋なんてないもんね~」
「うん」
名前のない。
名前の分からない。
橋……
「だーめだ。全然分からないや」
私は両手を挙げて。
伸びをする。
「菫、ラブレター見せて」
「ん? いいけど……」
ショルダーバッグの中から。
ラブレターを取り出す。
「ちょっと、失礼」
志帆は。
私の手から。
それを掠め取る。
紙面に視線を運んで。
何かぶつぶつ言っている。
「なあに? 志帆。何してんの?」
「え、もう一度、名前以外になんか隠されていないかなって」
「私も、志帆に言われてから見たけど何にもなかったよ」
「……だね」
突き出してきた。
ラブレターを受け取る。
「でも、なんで、一色くんは、わざわざ、めんどくさいことしたんだろ。名前を文脈の頭文字にしたりして」
「そだね」
「だって、気づかない可能性だってあるわけだし、そうしたら、元も子もないのにね」
「それも、確かに……だね」
ん?
なんだろう?
なんかもやもやする。
そもそも。
一色くんは。
私が気づくし。
あの橋も。
知っている。
その前提で書いているってこと。
になるよね?
ん?
けど。
一色くんとそんな言葉遊びはしたことないし。
一緒にどこかに行ったこともない。
そんな会話をした覚えもない。
夢の中では。
似たようなことあったけど……
「ん?」
「どしたの?」
「いや、ここんとこ変な夢を見たんだよね……」
「夢?」
「ふん。なんか昔の時代の夢なんだけどね……」
私は。
覚えている範疇で。
夢の断片を志帆に伝えてみた。
聞き分けよく。
耳を傾けてくれていた志帆。
話が終わると。
眉間にシワを寄せていた。
「それって、前世みたいじゃない?」
「前世……?」
「相手もさ、一色くんの前世だったりして」
「へ……?」
「あっ……」
「なに?」
「土岐くんはどうなるんだろ?」
「ああ、あの小学校の頃テニスをして遊んでた子?」
「そう……一色くんなら、オルゴールや筆跡が似てるんだけど」
「夢とのつながりか。匂い袋だね」
「香袋ね」
「どっちでも同じでしょ」
「まあ、そうだけど……でも、土岐くんだとして、ラブレターの一色くんの名前の意味が分からなくなるよね」
「まあ、分からないことは、今に始まったことじゃないし、ねえ、その土岐くんとの想い出の橋はあるの?」
「うーん……」
腕を組んで。
首を傾げる。
お城が見える。
橋……?
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