春の光の中で
水色の空に。
白く薄い膜のような雲が。
霞のように立ち込めている。
それでも。
山の頂で。
陽射しを浴びるお城は。
その白さを際立たせていた。
「もうすぐだね」
落ち着かない志帆は。
背伸びしながら。
辺りにキョロキョロと視線を飛ばしている。
私のせわしさも。
志帆が面倒をみてくれているのか。
思いの外。
穏やかな面持ちの私。
背後を行き交う。
車両の音さえも。
この空間の街の音として。
馴染んでいる。
その時を――
大きく長い。
金華橋の真ん中で。
待っている。
場所に確信はないけれど。
ラブレターの送り主が。
一色くんだと。
分かった今。
ただ。
会いたいな。
そう。
想ってる。
昔。
わずかな時間に感じた。
ときめく心を。
顔を見て。
感じれたら……
いいなって。
そよそよと吹く風が。
頬を撫でる度に。
両サイドのほつれ毛が。
顔をくすぐる。
ラブレターに指定された時間まで。
あと5分。
欄干に掴まって。
視線を伸ばした。
青々とさざめきを湛える長良川。
水面には鵜船が2艘。
上流からの流れに乗りながら。
ゆっくりとこちらへ近づいて来ている。
鵜匠の手から伸びる手綱の先で。
春の訪れを喜んでいるのか。
気持ち良さそうに。
何羽もの鵜が首を伸ばしている。
春の恒例行事。
花見鵜飼い。
それに向けての。
鵜たちの体ならし。
金華山の麓の公園。
芽吹き始めた桜たちが。
柔らかな風を受けて。
揺らめいている。
「あっ、誰か来るよ」
志帆の声に振り返る。
家がある方から。
自転車を漕ぐ人影。
男の人かな?
「あっちからも」
お城の方からも。
同じような人影。
目を凝らして。
その姿を眺めて。
片やおじさん。
片や子供を乗せたお母さんだった。
「うーん。来ないね」
志帆は手首の腕時計に目をやった。
「やっぱり、場所は違ったのかな」
「そうかもだけど、心当たりないんでしょ? 菫」
「そうなんだよね……」
くるりと向き直って。
欄干に手をかけた。
お城が見える橋。
少なくとも。
私と関係がありそうなのは。
この橋しか。
想い浮かばない。
踵を伸ばして。
大きく息を吸う。
トン。
と。
靴を鳴らして。
着地して。
回れ右をする。
ひっきりなしに。
通り過ぎていく車たちが。
時を刻む。
志帆は手をかざして。
背伸びをして。
右に左にと。
顔を向けては。
腕時計に視線を落とす。
「時間だね」
「そっか」
「誰もいないよ。反対側も」
「仕方ないね」
「もう少し待ってみる?」
「そだね……」
やっぱり。
いくつか見た。
夢のように。
結ばれない。
恋。
なのかな。
でも。
そうしたら。
ラブレターなんて。
私に書かなくても。
良いわけだし。
「あっ!?」
「どしたの、志帆?」
スカートのポケットから。
スマホを取り出す志帆。
「亜季からだ……菫の恋はどうなったって」
「どうもこうも、迷走中だよ」
暖かな風が抜けて。
車のエンジン音。
止むことなく。
飛び交っていた。
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