恋愛マスター志帆!?
冷たい水で顔を洗うと。
シャキッとするはずなのに。
まったく。
そうならない。
タオルで顔を拭いて。
鏡を見た。
寝癖が踊る頭に。
覇気のない表情の私。
ラブレターを読んでからというもの。
憑りつかれたみたいに。
四六時中考えていたのに。
確実なことは。
何も分からないまま。
まあ。
土岐くんにしろ。
一色くんにしろ。
夢の中の出来事と。
結び付いたとしても。
ラブレターの送り主だと。
決まった訳ではないし。
場所だって定かでない。
肩でため息を落として。
洗面所を後にした。
部屋の扉を開けると。
丸テーブルのそばに座っていた志帆は。
片手を上げた。
「お帰り菫。あのね誰だか分かったよ」
「ん? 誰って誰のこと?」
「やだなぁ、ラブレターの送り主だよ」
「え……!?」
志帆は手招きをして。
脇の床をトントンと叩く。
あっ。
テーブルの上には。
ラブレターが置いてある。
心の中で。
苦笑い。
まあ。
お互い。
プライバシーなんて。
あってないようなもの。
だもんね。
私は志帆の隣にぺたんと座る。
「ちゃんと、ラブレターに書いてあるよ、な・ま・え」
「うそ!? どこに?」
「よくある手法だよ。場所は分からなかったけどね」
「手法?」
「いい。この部分の頭文字。続けて読んでみな」
志帆はラブレターを指差した。
ん?
えーと。
ゆっくりと視線を紙面に落とす。
『一年生の……
月並みだけど……
しばらくの間……
君を見て……
とにもかくにも……
下ろした髪も……
ループするんだ……』
頭文字を繋げると。
いつしきとおル……
「どう? 分かった?」
「うん。一色くん。一色透くんだ……」
とくん。
と。
跳ねた心臓が。
頬を緩ませ。
そっと。
熱をもたらした。
「かわいい菫。食べちゃいたい」
ぎゅっと。
抱きついてきた志帆。
「もう。志帆ってば」
その腕をつかむ私。
あっ……
夢の中の。
かきつばただ……
それに。
通春の手紙にも……
名前が入っていた。
「だって。彼ならまんざらでもないんでしょ? 菫?」
「へ!? え、あ、まあ……そう、かな」
「ほらほら、ならなら、そんなベージュのブラじゃなくてさ、かわいいのに着け変えなよ」
「もう……例え、その一色くんだとしても、今日の今日は、ない」
「うんうん、分かった分かった。今日はね」
私を覗き込むようにして。
細めた瞳で。
じーっと。
見つめてくる志帆。
「し、支度するから」
私は志帆の腕を振りほどいて。
テーブルに。
折り畳みの鏡を立てかける。
少しだけ。
顔が赤い私が。
はにかんでいる。
一色くんか……
唇を噛みしめる。
「あっ。志帆、櫛取って」
「はいはい」
なら。
ポニーテールにしよう。
「そばにある、白いシュシュも取って」
「はいはい」
「それから、ポーチもお願い」
「はいはい」
私は櫛で髪を梳く。
気持ち。
私の顔が。
晴れやかに想えた。
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