んんっ!?
私はゆっくりと立ち上がる。
ピコン。
ん?
岡田からだ。
『あいつと、どこで出逢ったかなんて知らん』
まっ。
そうだよね。
ん?
『それから、一色の部活。分かったぞ。吹奏楽部だった』
『ただ、うちらの吹奏楽部は人数足りなくて、部としてあまり活動出来なかったろ?』
『だから、印象に残ってないのかもな』
吹奏楽部か。
「岡田、ありがとう。頼りになるね」
『気にするな。じゃあな』
「ありがとう。じゃあね」
私は。
部屋を出て。
階段を駆け下りた。
お母さんは。
リビングのソファに座って。
雑誌片手にテレビを見ていた。
「まったく、相変わらず忙しい子」
「そんなこと言って、私が東京行ったら寂しいでしょ?」
私はお母さんの隣に。
膝を抱えて腰かけた。
「はいはい。それで、なんだっけ?」
「ああ、小学校の頃さ、運動公園でテニスして遊んでた男の子のこと」
「ああ、休みの日によく遊んでたね。その子がどうしたの?」
「どうして遊ぶようになったか覚えてるかなって」
「え? 菫覚えてないの?」
「ん?」
私を見て首をかしげるお母さん。
真似して首を倒す私。
ていうか。
私……
物忘れが激しいのかな?
いや。
物覚えが悪いのかな?
ぽんぽんと。
私の膝を叩くお母さん。
「まあ、無理もないか」
「ん? どう言うこと?」
お母さんは。
私の肩をぐっと引き寄せた。
そして。
懐かしむように目を細めて。
ゆっくりと話し出した。
私が小学校の2年生になった頃の話を。
お母さんと運動公園で遊んでた私は。
今はもうない大池の石橋の上で鯉を眺めていた。
名前をつけるくらい気に入っていたんだって。
そこで。
その彼とぶつかって。
私は池に落ちたみたい。
大きな怪我には至らなかったけど。
ただ。
その時に頭を打ったみたいで。
数日の間。
記憶の混乱があったみたい。
検査と大事をとって。
一週間ほど入院したんだって。
ぶつかってきた彼は。
毎日。
お見舞いに来てくれていたんだって。
それが。
きっかけとなって。
彼と遊ぶようになったみたい。
「子供ながらに、いい子だったよ。土岐くん」
「そっか……」
「それで、急に昔のこと知りたいって、なんなの?」
「うん。まあね……」
ん?
あれ?
今……
「お母さん、その子の名前言った?」
「え? ああ、土岐くんでしょ?」
「土岐くん。下の名前は?」
お母さんの腕を取って。
食い入るように見つめると。
眉間にシワを寄せたお母さん。
私はお母さんの服の袖を。
急かすように引っ張る。
「えーと……」
お母さんは。
腕組みをして。
宙を見据えた。
時計の針よりも早い。
私の鼓動。
名前が分かれば……
視線は。
お母さんの口元を捉えたまま。
かすかに唇が動いた。
「聞いたかもしれないけど……忘れたわね」
ガクッとなる私。
「へ?」
「だって、もう10年くらい前でしょ。さすがにね」
「そう、だよね」
ため息をこぼして。
ソファにもたれかかった。
「ちなみに、土岐くんはどこの学校だったか、なんて分からないよね?」
「ああ、赤山小じゃなかったかな」
「ありがとう。お母さん」
私はお母さんに頬ずりをして。
立ち上がった。
赤山小学校は。
私が通ってた。
早川小学校の隣の学区。
中学や高校の同級生に。
赤山小学校に通ってた子もいるはず。
ここは――
岡田の出番だね。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




