今さら
この匂い。
さよの夢で……
そう。
あの通春という人物の匂いと似てる。
え……?
同じ?
どういうことなの?
彼は?
ん?
視線を感じて振り向く。
犬の散歩をしてる人。
ジョギングをしてる人。
するりと抜ける風が頬を撫でた。
気のせいか。
あれ?
なんだったけ……?
そうだ。
匂い。
え~と。
彼は、彼のおばあちゃんが作ってくれるって話してた。
私はスマホを取り出して。
おばあちゃんに電話する。
『はいはい、どうしたの菫』
「あ、あのさ、おばあちゃん香水みたいのって作れる?」
「香水ね。どうして?」
「あのね……」
私は小瓶の話だけ、おばあちゃんに伝える。
『なるほどね。全く同じものじゃなければ作れるよ』
「どうやって?」
『木の皮や干した果物の皮なんかを砕いて粉末上にするんだよ。それを水に混ぜたんじゃないかな』
「ふーん。おばあちゃんはそんなの作ったことあるの?」
『おばあちゃんは、作ったことはないけど、おばあちゃんのお母さんの年代の人は作ったかもね』
「そっか。ありがとうおばあちゃん」
『はいはい、また、いつでもかけておいで』
「うん。じゃあね」
ツー、ツー……
なんか。
分かりそうで。
分からない。
喉に刺さった魚の骨みたい。
でも。
彼のことといい。
風崎くんもそう。
それに、沢田くん。
なんで忘れてるんだろう……
カア、カア……
早く帰りなと。
言わんばかりに。
頭上を通り越していった。
でも。
私は小瓶を見つめる。
匂いが同じなら……
あの彼が手紙の差出人?
小瓶をぐっと握りしめて。
そっと。
ショルダーバッグにしまった。
自転車を押しながら。
外灯が点り始めた公園を後にした。
ベッドでゴロゴロしながら。
頭の中は。
おんなじところをぐるぐる回る。
檻の中の動物のみたいに。
頭と心を覆う。
もやもやという名の煙。
出るのは青息吐息ばかり。
ただ。
時間だけが通りすぎていく。
なんか。
まだ忘れているような事がある気がしてくる。
うつ伏せになって。
ベッドのへりから床に手をついた。
そのまま。
ペタペタと手を動かして。
足が床に落ちて。
はいはいして。
テーブルの前に。
「よっ」
膝を立てて座り直す。
「私も忘れっぽいけど、あなたも名前書き忘れちゃダメでしょ」
私は手紙を手に取った。
もう何度も読んだけど。
読み直してみる。
ボールペンで書かれた。
『相川さんへ。
一年生の時、同じクラスになって、
君が自己紹介をした瞬間。
月並みだけど、僕の魂は君に吸い寄せられていたんだ。
しばらくの間、呼吸するのを忘れていたかもしれない。
君を見て感じたのは、こんなにかわいい子が世の中にいるんだってね。
とにもかくにも、制服姿もテニスウェア姿も。
下ろした髪も、ポニーテールも。
ループするんだ今でも頭の中を。
ああ、でもきもいかな。
君の全部が、かわいくて。
友達と楽しそうに話す笑顔も。
空を見上げる物憂げな表情も。
君が東京の大学へ進学したら、もう会えないかもしれない。
直接言えない小心者だけど。
相川さんのこと、ずっと好きで大好きです。
金曜日、10日の12時。
お城が見える、あの橋の真ん中で待っています。
その時に返事してもらえたらって。
勝手な手紙で、ごめんね。
ただ、めぐり逢えたことには感謝しているよ』
大好きとかさ。
文字で読んでも。
ぽーっとしちゃうよね。
頬が緩んで。
あれ?
おかしいな……
あの時の彼なら。
なんで、私が東京に行くこと知ってるんだろう?
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




