名残りを訪ねて
「はあ……」
ブレーキをかけて。
サドルからお尻を下ろす。
自転車を跨いだまま。
辺りを見回した。
芽吹き始めた緑の山。
傾きかけた淡い黄色に染まるお城。
水鳥が浮かぶ川面には。
風がさざ波を作っている。
車やバスが追い越して。
金華橋へと吸い込まれていく。
目に馴染んだ景色。
高校3年間。
当たり前にあったもの。
あの時よりは。
少しは自信持ててる?
クスッと込み上げる笑い。
持ててないよね。
しょうがないよね。
それが。
私だもんね。
でも。
なんだろ。
今なら。
こんな風に想える。
私なんかに。
告白してくれて。
ありがとう。
なんか傲慢かな……
きっと。
あの夢のように。
恋とは縁遠いのかな。
青春真っ盛りの時間は。
大好きなテニスと心中した。
悔いはない。
かな?
うん。
ないよね。
部員たちと。
一緒に流した汗は。
結果よりも。
大事なこともあるんだって。
教えてくれた。
亜季や志帆や岡田とも。
たくさん想い出作ったし。
3人は地元に残る。
私独り。
未だ見ぬ世界に進む。
なんか。
風崎くんとの事を想い出したら。
いてもたってもいられなくて。
簡単な身支度をして。
この場所に来ていた。
明日。
ラブレターに指定された時間。
この橋の真ん中に来るのは誰なんだろ?
あっ。
金華橋って。
確定してる訳じゃないんだった。
首を傾げて。
苦笑う。
よし。
ハンドルを押して。
自転車の向きを変える。
サドルに跨がって。
信号が青に変わる。
ペダルを踏み込んだ。
横断歩道を渡る。
坂道を下る。
ブレーキを緩くかけながら。
風の中を走る。
ペダルから離した足を広げて。
髪がなびいて。
カーディガンが孕む。
私は。
次の目的地に向かう。
そう。
私に告白してくれた。
もう一人といた。
想い出した。
その場所に。
あれは。
蝉の鳴き声が聞こえはじめた頃。
緑に囲まれた。
運動公園の隅っこ。
フェンスに囲まれた一角。
おじいちゃんおばあちゃんが。
ゲートボールをする場所。
土の地面に。
足で線を引いた。
大きさも正確でない。
ネットのない。
手作りのテニスコート。
初めてあの子に勝てるチャンスだった。
マッチポイント。
私のサーブ。
おでこの汗を手の甲で拭って。
ごくり。
唾を飲み込んだ。
エースが取れたら私の勝ち。
トン、トン。
ボールを地面に弾かせて。
彼を見た。
ラケットを構えて。
左右に体を揺すっている。
私は吐息を落とす。
よし。
膝を少し曲げて。
左手を真上に。
体が伸びて。
手から離れたボール。
宙に舞うそれを。
しっかり見据えて。
ラケットを持った右手を。
振り上げる。
パシュン!
捉えた。
ガットに当たる音。
手に残る感触。
やった!
私のありったけを詰めた。
ボール。
真っ直ぐ。
彼の右へ。
絶対に届かない。
私はステップを整えて。
正対する。
自信があったから。
構えずに腰を浮かせてしまっていた。
ささっと。
彼は。
駆け寄って。
右足で踏ん張り。
砂が舞う。
前に出した左手で。
空気をかいて。
右手を大きく。
弓のように。
ラケットを振った。
パンッ。
うそ……
弾き返されたボール。
私は反応できず。
ただ。
その軌道を目で追っていた。
ボールはすぐ横で。
タンッ。
跳ねて通り過ぎた。
リターンエース。
結局。
それが尾を引いて。
逆転負け……
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