お城は知っている。
二人いる。
岡田に言われるまで。
全く。
想い出しもしなかった。
というか。
忘れてた。
えー。
でも。
告白された人って。
忘れちゃうものなの?
なんか。
自己嫌悪。
「はぁ……」
重い吐息を吐いて。
のそのそとハイハイして。
そのまま床に降りる。
高校の卒業アルバムを取って。
テーブルの上に置いた。
「よいしょ」
膝を立てて座る。
そっと。
ページをめくる。
まずは一人目。
何組だったんだろう?
彼は。
4組にいた。
風崎豪くん。
まあ。
かっこいいとは想う。
目鼻立ちが整って。
目に力があって。
確か。
軽音部だったような……
告白されたのは。
クラスが一緒だった。
1年生の夏休み。
しかも。
たまたま会ったのは。
金華橋……
えー!?
絶対違うし。
彼があんな手紙書くイメージがない。
って。
余り喋ったことないんだけど。
あー。
想い出してきた。
うん。
金華橋だけど。
橋のたもと。
早朝で。
部活の練習に行く時。
向こうから声をかけてきたんだ。
まだ6時を過ぎたぐらいなのに。
蒸した空気が。
テニスウェアから覗いた肌に。
のぼりかけの陽射しと共に。
じとっとまとわりつく。
元気な蝉の声を浴びながら。
長良川の土手へと続く。
坂道を上る。
視界に入ってくる。
山の上のお城。
濃い緑と青い空に挟まれて。
その白さが一層際立っていた。
信号は青。
横断歩道を渡って。
金華橋にさしかかった時。
「よっ、おはようちょっと待って」
息せき切った声が。
背後から飛んできた。
ん?
私?
ブレーキをかけて。
サドルからお尻を下ろして。
自転車を跨いだまま振り返る。
キュッ。
ブレーキの音を鳴らして。
並んで止まった自転車に乗っていたのは。
えーと。
同じクラスの風崎くん。
私を見て微笑んで。
「おはよう。相川」
片足を跳ねあげて。
自転車を降りた。
「おはよう。何かよう?」
「ああ」
風崎くんの視線が。
上から下へ。
そして。
また上がる。
もう慣れたけど。
なんか湿気みたいで。
でも。
自転車のハンドルを握ってるから。
なす術なし。
「かわいいな、似合ってる」
いきなり言われて。
ドクン。
て。
鼓動のスイッチが入って。
少し視線逸らす私。
「そう?」
「なあ、今日、部活何時に終わるの? 終わったら飯でも行かない?」
「うん。行かない」
うるさい心臓がバレないように。
すまし顔で。
平静に。
そもそも。
この格好で行けないし。
その……
「ん? え?」
「部活遅れちゃうから」
自転車に乗ろうとする私。
「ちちちち、ちょっ、待って」
「もう。まだあるの?」
私を覗き込むように。
屈んで目線を合わせる風崎くん。
「俺のこと嫌い?」
「ん?」
私は思考停止。
「あ、それとも、好きな奴とかいるの? え? もしかして彼氏いる?」
なんか。
こっちまで。
混乱してきそう。
「あの、用件は?」
「いや、だから……まあ、しゃあないか」
風崎くんは。
ため息ついて。
姿勢を正した。
「ん?」
「俺と付き合ってくれない?」
「……なんで?」
「そりゃあ、お前のこと好きだから」
ハンドルを握る手は。
汗をかいていた。
本当に?
心臓が頭痛みたい。
でも。
ん?
また、風崎くんの視線が上下する。
「どうせ。みんなに言ってるんでしょ? 私は……」
「は? 何それ? 俺、正真正銘の初告白ですけど、何か? まあ、証明出来ないけど」
キレ気味に捲し立てられて。
あわあわする私。
「あ、えーと、ごめんなさい……言い過ぎた」
「……いや、で、どう? 俺、好きだからさ付き合ってよ」
言われたことのない。
言葉に気圧されるけど……
小さく息を吸った。
「じろじろ見すぎ」
じろっと。
睨む
私。
「あっ、しゃーねんじゃん。好きな女が。こんな格好なら見るだろ男なら」
「清々しい逆に」
「で? どう?」
「悪いけど、今はそういう気持ちになれない」
「じゃあ、いつになったら? そうなる?」
「うーん。永遠」
「うわっ。マジか。俺結構かっこいい方だとおもうけどな」
ここまで。
振り切れてたら。
少しおかしくなった。
確かに……
「うん。それは認める。けど……」
「なんだよ」
「きっと……ううん。私は好きじゃないから。ごめんね」
「そ、そうか。案外言うんだな。いい意味意外。そっか……悪いな」
「ううん。じゃあね」
「……ああ」
風崎くんは。
高く片足をあげて。
自転車に跨がる。
そして。
舐めるように私を一瞥して。
颯爽と橋を渡り始めた。
その後ろ姿が小さくなっていく。
全身の力が抜けて。
ハンドルを握ったまま。
手をグーパーさせた。
きっと。
上手くいかないよ。
自信ないもん。
それになんか。
付き合う目的がねって。
想えちゃったし。
川の水面が光を撒き散らして。
風がポニーテール揺さぶった。
お城がそんな私を。
ただ。
黙って。
見守ってくれていた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




