朗らかな時間
「全く。来るなら言ってよね」
「そんなことより、部活のこと思い出したのか?」
「あっ。ごめん」
「ふーん。これがラブレターか」
おもむろにラブレターを手にした岡田。
「ちょっと、勝手に見ないでよ」
ラブレターを取ろうと。
身を乗り出して。
手を伸ばす。
ひょいと。
腕を挙げて。
鮮やかに私の動作をかわす。
「読まれちゃまずいことでも書いてあるのかな?」
「人のラブレター読む? ふつう?」
「読まない」
真顔の岡田。
「はぁ?」
「今回は特別だよ。差出人を調べるため」
「ああ、まあ、そうだけど……」
「だろ? じゃあ、読むからな」
「うん」
岡田は。
ラブレターに視線を落とす。
なんか背中がむず痒い。
肩を揺すって。
口を尖らせた。
何回も読み返しているのか。
岡田の瞳が往復している。
「ふーん。確かに1年の時、同じクラスだと書いてるな」
「そうだよ」
私は膝を抱えて。
顎を膝の上に乗せた。
「お前のことが好きだというのはわかる。が、返事をもらうために呼び出した場所を、なんでちゃんと書かないんだろう」
首をひねる岡田。
「それはね、拓兄ちゃんが言うには、例えば、私とこの手紙の差出人との想い出の場所じゃないかって」
「なるほど、想い出の場所ね」
岡田は私を見つめる。
首を振る私。
「で、部活は?」
「ああ」
「あっ! もしかして……」
突然の岡田の雄叫び。
「ひゃっ! なに!?」
「あっ、悪りい。いや、その、幽霊とかだったりしないよな」
ぞわぞわと背筋に走る寒気。
「ちょっとやだなぁ、何言ってんの? 全く」
「だ、だよな」
なぜか。
後ろを振り返り。
辺りを見回す岡田。
「その、一色くんのことだけど、運動部じゃないような気はする」
確か……
遅くまで学校にいた印象があまりない。
あの日も。
一色くんが教室にいたのが。
珍しいと感じていたはず。
「そうか。文化部なのか。テニス服の姿がとか書いてるから運動部だと思ったけど……」
岡田は声に出さず。
口だけが。
あっ。
と開いて。
すぐに首をひねった。
「ん? どうしたの?」
「いや、関係ないか……」
「なに? 気になるよ」
「ん!? 確かお前さ、えーと、名前なんて言ったっけかな……」
岡田は腕を私の方に伸ばして。
手をひらひらと揺らす。
「誰?」
「ほら、小学校低学年の頃さ、テニスで勝てなかった奴いたろ?」
「ああ、うん。いた。その男の子にだけは、どうしても勝てなかった」
「だよな。でさ、お前、よくアイツと志帆の家の近くの自然公園でテニスの練習してたろ?」
「え? そうだっけ」
全く。
さっぱり。
記憶がない。
「え!? 覚えてないのか?」
「はい」
肩を上げて。
はにかむ私。
「そういうもんか」
「なに?」
「いや、俺はてっきりそいつがお前の初恋相手だと思ってた」
「は?」
意味が分からなくて。
瞬きをして。
岡田を見つめた。
「まあ、そっか、話が逸れたな」
「ああ、うん……」
んー。
岡田が。
私の初恋相手だと思うくらい。
その子と。
仲良くしてたってことでしょ?
ぜーんぜん。
覚えてないよ。
「ところでさ、その一色って奴のこと、菫はどう想ってた? 好きだったのか?」
「ん?」
「いや、志帆や亜季なら話してるんだろうけど恋ばなとかさ」
腕組みをして。
苦笑いの岡田。
「俺は聞いたことないからな。そもそも恋愛相談なんて。今回が初めてだろ?」
そだっけ?
なんか話してたような気もする。
けど。
一色くんと過ごした。
あの夕焼けの教室。
間違いないのは。
鼓動の早さと。
心のときめき。
「うーん。好きだった……かも」
「なるほど」
「二人とも、お昼ご飯出来たよ」
一階から。
お母さんの声が飛んできて。
稀な?
岡田との恋愛相談は幕を閉じた。
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感謝しております。




