余韻
しばらく動けずに。
ただ。
泣いていた。
指先と上着の袖で涙を拭う。
ずるずると。
鼻をすすった。
そうだ。
あの通春という人が書いた字。
私はゆっくりとベッドから起き上がる。
汗を吸った肌着が冷たい。
スウェットの上下と肌着を脱ぐ。
結局。
朝から着替えずにいた。
シャワーを浴びたい気もするけど。
軽く上着で汗を拭って。
汗拭きシートで肌を拭く。
新しいスウェットを頭から被る。
爽やかな匂い。
あれ?
少しだるさが抜けている。
汗かいたからかな?
むくっと頭を出して。
片方ずつ。
袖を通す。
首元から髪を引き抜いた。
そうだ。
上着の裾を直して。
テーブルの前にぺたんと座る。
ティッシュで鼻をかんだ。
そして。
ラブレターを手に取る。
文面にゆっくりと視線を這わす。
うん。
やっぱり。
似てる。
字体の違いはある。
だけど。
はねの特徴は。
瓜二つ。
どういうことなのだろう?
ご先祖かなにかなのか?
でも。
以前のお姫様と今回のさよという子。
声は私だった。
時代的なものも。
さよの夢の方が古いように感じた。
「ふぅー」
大きなため息を一つ。
そっと。
ラブレターを置いた。
二つの夢に。
共通しているのは。
夢の中の女性の声は私。
恋をして。
でも結ばれない恋。
あとは……
笛!
龍笛という高く澄んだ音色の。
それから。
手紙と文字も共通しているような気もする。
あとは……
眉間にシワを寄せて。
トントントン……
おでこをげんこつで叩く。
んー……
こんなところかな。
何せ姫様の夢の方は。
よく覚えていない。
でも。
立て続けて。
こんな夢を見るのは。
なんでなの?
うーん。
しゅんと。
肩が落ちる。
もしかして。
結ばれない恋の暗示?
ってこと?
え!?
私はラブレターを手に取った。
この送り主って。
私が姫様やさよであったように。
夢の中の相手。
え!?
ん?
ということは。
今回も結ばれない恋ってことだよね。
やっぱり……
微かに。
街を抜ける風の音が。
部屋に差し込む光の揺らぎを作る。
お母さんのよそ行きの。
1オクターブ高い声。
お客さんかな?
あーあ。
なんだか。
結末が分かったミステリーみたいで。
気が抜けた炭酸のようで。
ん?
炭酸は気が抜けても甘いからましか。
どんなに頑張っても……
結ばれない……
ん?
いや。
ちょっと待った!
でもさ。
私の場合。
好きな相手いないけど。
?
どういうこと?
ラブレターの文面を読み返してみる。
このはねの部分の特徴がある文字を書く人。
全く。
誰だか分からない。
そもそも。
人の字なんて覚えてないし。
ああ。
亜季や志帆や岡田なら分かるか。
字ね……
意味もなく。
ラブレターを。
横や逆さから眺めてみる。
ん?
ガチャ。
部屋の扉が開いた。
ん?
「よう、ていうかさ、お前ズボンくらい履いとけよ」
岡田はそう言いながら。
私の前に腰を下ろした。
「え!? あ、もう、なんでいるの?」
両手で上着の裾を伸ばす。
「お前から返信ないし。例の一色ってやつのこと、少なくとも俺の周りで覚えてるやつはいなかった」
「あ、え、そうなんだ」
「あのさ」
「なに」
「悪いけど、とっととズボン履けよ。小学校の頃のまんまだなその格好。風邪引くぞ」
「だって。岡田がいるじゃん」
「は? 今さら恥ずかしがるの? まあ、確かに、そのピンクの下着は男の子には刺激的かもな」
「もう!」
「はいはい。目閉じとくよ」
「まったく……」
頬を膨らませて。
いそいそと立ち上がる。
このショーツの何が刺激的なの?
可愛いでしょうに。
まったく。
私はスウェットの下を履く。
「いいよ」
べたりと岡田に向かい合って腰を下ろした。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




