交感 誘《いざな》われて
うっすらと視界が開けてくる。
ん?
夢?
緑や土の濃く青々とした匂い。
どうやら森の中にいるみたい。
ザザー……
枝葉を揺らして。
さらりと風が抜けていく。
差し込む日差しも散らばって。
辺りは昼間なのに薄暗い。
濡れている地面の土は柔らかい。
木の根元にしゃがみこんで。
生えている茸をつまむ。
ぷちっ。
「よしよし、雨上がりの朝はたくさんあるんだよね」
!?
声色はまた私。
一体。
これはどういうことなんだろう?
薄汚れた着物の袖の中に茸を入れる。
ピピッ……
鳥の囀り。
よし!
膝を叩いて立ち上がった――
ぴー……
甲高く澄んだ音が駆け抜ける。
ん?
指笛でもない。
今までに耳にしたことのない音色。
その心地よさに目を閉じる。
音はどうやら。
清泉寺の方から聞こえてくる。
ゆっくりと瞼を開けた。
その響きに吸い寄せられるように。
一歩踏み出した。
少し早足で。
走っているからでもなくて。
胸は踊っている。
何日か前。
お寺に。
遠い都というところから。
遠路はるばる。
ここに流れてきた人がいると姉様が話していた。
とうとき?
人だという。
ぴー……
音が近くなる。
お寺の建物が見えた。
壊れた板塀の隙間。
体を横向きにして。
境内に潜り込む。
ここからなら。
お寺の屋敷の庭に行ける。
屈んで茂みの影をそっと進む。
池のほとり。
梅の木の根元。
生い茂る草の影に身を潜めた。
そっと。
頭を伸ばして。
辺りを見回す。
縁側の引き戸は開け放たれている。
その中に。
いた。
うわっ。
音の正体は棒だった。
それよりもなによりも。
きれい……
男の人なのに。
女の人のように色白で。
目を閉じて。
棒を口許に構える姿が。
神々しくて。
この世の者とは思えなかった。
年は同じくらいかな。
村や町にはこんな青年はいない。
体や顔が。
ぽっと熱くなる。
口を開けたまま。
ただ。
見惚れていた。
『ぐわっ……』
蛙が鳴いた。
首を引っ込めて。
身を屈めて丸くなる。
がさがさ。
風が庭の草木を震わせる。
肌寒さを連れてきて。
日差しがしぼんでいく。
ん?
鼻先をかすめる。
しっとりした風の中に。
うっすら潮の気配。
雨の匂い。
見上げた枝の合間の空。
分厚いねずみ色の雲が広がっていく。
ぴー……
一段と跳ね上がった音が風を遮る。
うわっ。
思わず立ち上がる。
何かに語りかけるような。
包み込むような。
優しい音。
素敵……
両手を組んで。
ただ耳と目を澄ました。
風にざわめく葉に。
ぱら……
雫が跳ねる。
ぱらぱら……
梅の幹に身を寄せて。
雨を凌ぐ。
青年の目が開いて。
私を見た。
あっ。
えっ。
取りあえず。
お辞儀してみた。
青年は棒を口から離して。
頭を下げる。
垂らした長い髪が。
はらはらと流れる。
上げた顔は微笑んでいた。
うわっ。
じわりと汗がわいて。
膝頭をこすり合わせる。
青年は空を仰ぎ見て。
伸ばした左手で。
私を手招いた。
え!?
どうしよう。
住職に見つかったら怒られる。
けど……
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




