命カラカラ
「砦の構築って具体的にどんな方法するのよ?大将」
パックスとナグル族を引き連れてスノー砦に向かう道すがら
クライドは、シックスへ砦構築の方法を聞いてみた。
「いきなり敵地ど真ん中で建築はさすがの俺達でもできねぇ」
「え!?・・・じゃあ・・・」
「心配ねぇ、やり方ってもんがあるんだ。
まずは別の場所で部品を作っておく。
そして出来上がった部品を横に倒して砦を作る予定の地面へ
仮で置いておく」
「横に倒す?」
「そうだ。横に倒して布をかけておけば何が置いてあるか
敵さんが理解するのに時間がかかる」
「それで?」
「そして部品が全て揃ったら夜中に一気に組み上げる。
敵さんからしたら一晩で砦が出来たって驚くのさ」
「それで完成か!大将すげーな!」
「いいや、物事はそんなに甘くねぇ」
シックスが首をふる。
クライドが驚いた顔をして
「砦が完成したら良いじゃん!甘くねぇってなんだよ」
「完成させるところまで行ければな!
敵さんだってバカじゃねぇ。
相手が自分達のまわりで何かしようとしてるってくらいは
気が付くさ」
「ということは?」
「敵さんの襲撃が何度もあるだろうから
それをはね返し続けなきゃいけねぇ」
「つまり?」
「砦完成までに何度も戦闘があるってことだ。
血を見る覚悟できてんだろうな!クライド!」
クライド達はスノー砦近辺、砦構築予定地へと静かに集結する。
ワンとゴロムは、すぐさま斥候へと向かい全てに備える。
最小で最強の偵察部隊だ。
他の面々は当初の計画通り、砦構築する部隊と見回りする部隊に
分かれる。
砦構築部隊は、シックスとパックス内の建築部隊責任者が
コントロールする。
見回りする部隊は、さらに細かく分けられた。
まずシックスが全体を管理する役割とパックスの大半を率いる。
ナグル族の多くをジュニ・ナグルが率いる。
そして、パックスとナグル族の混成部隊をクライドが率いる。
計3部隊で見回り、そして戦闘が発生した場合は戦闘を行う。
あれ?俺あまりもの部隊じゃね?とクライドは一瞬考えたが
精鋭をオメーに授ける!というシックスの言葉をとりあえず
信じることにする。
数日は何もなく過ぎたが警戒度は最大だ。
斥候部隊からの情報でドーガ家は我々のことを気が付いており
戦力は整えている。いつでも出撃できるが何をしているか
不明なため警戒して様子見しているとのこと。
今日の見回りは、クライドの部隊だ。
ザインとクライドを筆頭とし、構成員はパックスとナグル族の
選抜部隊となっている。
「兄者、敵はいつ動くだか・・・?」
ザインが小刻みに震えながらクライドへ問いかける。
「さぁなぁ、俺にもわからん。わからんからこうして見回ってる
んだけどな」
「こんなこと言うと兄者に怒られちゃうかもしれねけど、
やっぱしオラ達の時に動かれるのは怖いべ」
ザインを怒ることなんてできない。自分だってそうだ。
どうせ戦闘が避けられないなら、できれば
シックスやジュニが見回ってる時に戦闘が発生して欲しい。
だって・・・・
と考えているとワンが凄まじい勢いでこちらに駆けてくる。
「旦那ぁ!!敵に動きあり!強襲体制を取ってる!!
数分後、ここに突撃されるぞ!!!
俺は大将のトコに知らせに行く!
旦那は迎撃体制を取ってくれ!」
そういうや否やワンはクライド達の間を駆け抜けていった。
うそやん。よりにもよって、俺の時かよ。
「あ、あ、兄者!!!どうっすべ!どうっすっべ!」
ザインが慌てふためく。
「あ、あ、あわ、あわあわあわ、慌てるなザイン!
迎撃体制を取るぞ!」
はて?迎撃体制を取るってどうやるんだ??
「敵襲!!!!全員、迎撃体制を取れ!!」
とりあえず大声で指示を出してみた。
パックスとナグル族達は、オーー!!という勇ましい声をあげ
辺りをキョロキョロし始める。
威勢は良いんだけど、なんかまとまりが悪いんだよな。。。
「西方向より!敵襲あり!!」
ナグル族から声があがる。
声のほうを向くと、ドーガ家の騎馬隊がフル装備で迷わず
こちらへ突撃してくるのが見えた。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、兄者!」
「わ、わ、わ、わ、わかってらい!」
「全員迎撃体制をとれ!」
クライドは大声で隊員達へ命令する。
「どう動けば良いんでさぁ!」
クライドの近くにいたパックスの構成員がクライドへ聞く。
以前、ゴロムの指示で集団戦したとき、確かゴロムは、片手を
挙げて、それを振り下ろしたらみんな突撃したな。
焦りながらゴロムの姿を思い出したクライドは
同じように片手をあげ、勢いよく振り下ろした。
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部隊はまごつくだけで、全然動かない。
なんで動かねーんだよ!!
あ、そういうことか・・・・。
部隊が動かないんじゃなくて、動けないんだ。
まとまりに欠けるんじゃなくて俺がまとめなきゃ
いけなかったんだ。
そっか合図とかタイミングとか事前に訓練して部隊と隊長は
連携を図ってないとダメなんだ。。。
あはーん、だってしょうがないじゃなーい。
個人戦闘や諜報活動なんかはやったことあるけど
集団戦の指揮なんか全然やったことないんだもーん。
そうこうしているうちに
轟音を立てて突撃してくるドーガ家騎馬隊の姿がどんどん
大きくなってくる。
もう相手の表情や雰囲気も感じ取ることができる。
怒気、殺気、狂気。
それらが一斉に自分達にたたきつけられる。
その恐怖がわかるだろうか?
「あにじゃー、あにじゃー、あにじゃー、どうすっべーー」
ザインは恐慌に陥ったか叫び続ける。
「どうすっべも、こうすっべも、ねーべ。こうなったら!!」
パックス、ナグル族、そしてザインも必死に
クライドの声に耳を傾ける。
「逃げる!全軍撤退!!みんな必死こいて逃げろやーー!!」
「クライドさん!逃げるのはどこへ!?」
えー?逃げる方向まで指示するの?指揮するって大変だな。
えーと、砦建築中のところに逃げちゃダメだから
その反対、!森がある。
「全軍、あの森へ撤退せよ!!」
クライドの指示が聞こえると全軍、わーーーっという声を
挙げて森へ向かい撤退し始める。
クライドもザインもそれに続くように必死に逃げる。
後方からは、ドーガ家騎馬隊のドドドドドッという蹄の音が
迫りくる。
ぎいぇぇぇぇ
恥も外聞もあるかい!絶叫しながらクライドとザインも
全力で走りまくる。
「待ーーーてーーー!ヘタレポンコツスケルトン2体の首も
討ちもらすな―!!!」
後方からドーガ家騎馬隊の指示命令の声もはっきりと聞こえる。
本当のことだけれど、腹立つけれど逃げるのに必死で
言い返す余裕は無い。
やがてクライドの部隊が森の近くに差し掛かった時
森からガサガサと音をたてて無数の人影が出てくる。
「げぇっ!伏兵!」
後方から騎馬隊、前方から伏兵。
終わった。とあきらめかけた時、伏兵から声が聞こえてきた。
「でかしたぞ!クライド!」
シックスの大将の声だ。
森から出てきた伏兵は、大将率いるパックスだ。
「てめーらよく引き付けた!後はワシらにまかせろ!」
そういうとシックスは自身の部隊に対し
「長槍隊、前へ!」
そう指示を出すと、長い槍を持った部隊が前へ踊りだし
規則正しく陣形を敷き素早く槍を構える。
槍襖に気が付いたドーガ家の騎馬隊だったが勝ちにおごったか
馬は急に止まれないのか、次々と槍衾の餌食となる。
密集長槍部隊
突撃騎馬隊を止めることができる数少ない戦闘手法だ。
先陣を切っていた騎馬隊は止まることができず長槍の餌食と
なったが、後から続く騎馬隊達は、突撃をとどめることが
でき、長槍隊の前で停止する。
するとすかさずシックスが
「長槍隊、全力前進!」
と声をかけると、長槍部隊が、エイッ、トォ!と掛け声を
出しながら槍を上下に振り騎馬隊を滅多打ちにする。
長い槍を単に上下に振っているだけなのだが集団で、規則正しく
振ることで、それは脅威となる。
ドーガ家の騎馬隊はたまらず
「引けーーーー!引けーーーーー!」
と声を挙げ撤退していく。
た、たすかった・・・。
クライドは腰が抜けたのかその場にペタンと座り込んだ。
横を見るとザインも同様に地面に座り込んでいる。
「兄者、鼻水出てるべ」
うるせーや、こちとら命からがら逃げたんじゃい。
目汁、鼻汁、口汁、体中の穴という穴から汁くらい出るわい!




