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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第二章 宗教と竜の瞋恚
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大教会の外へ

「これは……あいつらは先に行ったということだな」


 アリーチェ達が通路を抜けて敵を制圧してから少しして、ルーナがそこに辿り着いた。辺りには凍りついている敵や気絶している敵が沢山いる。

 氷属性の攻撃が行われていることからドーバが力を使ったのだということがすぐに分かり、ひとまず先へ進む。


「セリカは……いや、セリカなら一人でもなんとかできるだろう。今はとにかく地上に出なければ」


 ルーナは一瞬世莉架を待とうかと考えたが、不思議と世莉架が捕まったり苦戦する所が想像できず、気にしないことにした。

 

「ここは物置か何かか? しっかり探せば私達にとって有益となる情報が得られるかもしれないが……いや、これも今は考えなくて良いか」


 物置部屋と思われるその空間から出るための扉の前で、ルーナは一度立ち止まる。その扉は鉄扉であったが、普通に開いているようだった。敵が開けてそのままにした可能性もあるが、状況からして恐らくドーバが錠を壊して進んでいると考えるのが普通だろう。


「念の為、この扉の先に誰かいないか確認するべきだな」


 ルーナは扉に耳を当てて外に誰かがいるかどうかを確認する。


「何かしらの音は聞こえてくるが……この扉のすぐ近くではないな。よし、行こう」


 扉を慎重に開けると、最初にクタルガと会った場所へ行くための扉がある階段を降りた先の空間に出た。三つの鉄扉がある場所である。これで一つは改造人間を作り出して保管している部屋、もう一つは物置部屋があることが分かった。もう一つの扉は謎であるが、今は気にしている場合ではない。

 ルーナはこの場所へ降りてくるための階段を登っていく。しかし、登っている途中で人の声が聞こえてきたためにしゃがんで止まる。


(増援が来ていたのだから、当然出口にもいるか。アリーチェがいれば空間転移で移動できるから見つからずに行けそうだが、私の場合どうするべきか……)


 ルーナは気配を絶って敵に気付かれずに進むテクニックなど持っていない。恐らく大教会の中はルーナ達を絶対に逃さないよう、多くの人員が割かれているはずである。ルーナが一人で誰にも見つからないように大教会を脱出するとなれば、非常に難易度が高い。


(やはり、セリカを待つべきか? セリカなら敵に見つからずにこの状況を脱する方法や技術を持ち合わせているだろう。しかし、時間をかけずにさっさと出るべきではある。敵に見つからずに脱出ではなく、敵に見つかる前に何らかの方法で制圧して抜け出すことはできるかもしれないな)


 ルーナのいる位置は階段の真ん中あたりである。敵は階段の入り口から覗いてきてはいない。覗いていると敵の攻撃を直線で受ける可能性があるためだろう。

 前後左右を確認し、ルーナは壁に手を当てる。そして、ドラゴンの膂力を使って壁を少し破壊する。その際の音はかなり小さかったが、少なからず音が反響したことにより、恐らく覗き込んでくる敵がいる。

 壁を砕いたことによって手に入れた破片を持ち、姿勢を低くして少しずつ進んでいく。ルーナの右手は相変わらず認識阻害魔法がかかっているため、真っ黒になっていて視認しづらい。あまり使うことはできないだろう。

 階段の先から歩いてくる足音があった。壁が壊れた音に気づいた者が確かめに来たのだろう。ルーナは進むのをやめ、顔を出すであろう敵に集中する。

 

「さっき音がしたが……まさか、逃げてきた奴がいるのか?」


 そうして一人のアビタル教信者がひょいっと顔を出して階段の下を覗いた。

 その瞬間、ルーナは左手で持っていた壁の破片を一つ指に挟み、高速で投げた。それは覗いてきたアビタル教信者がルーナを視認して声を出す前に胴体に当たった。ドラゴンの膂力で投げたその破片は指で挟めるくらいの大きさであるにも関わらずその威力は凄まじく、そのアビタル教信者を一瞬でノックアウトした。力を込めすぎると体を貫通して殺してしまう可能性があったため、ルーナにしてはかなりセーブした方である。

 しかし、階段を覗いたアビタル教信者が突然気を失って倒れたことで、間違いなく他の信者達も見てくるだろう。

 ルーナはすぐに追加の破片を手に入れるために壁を破壊し、一つ一つの破片をより小さくした。人間に投げるのであれば破片が更に小さくなっても変わらず気絶させることができるだろう。

 敵はかなり警戒しているようで、気絶した仲間に驚きつつも声を出さないようにし、アイコンタクトでゆっくりとルーナのいる階段の入り口に近づく。

 少しでも気配を感じて敵の数と位置を把握するため、ルーナは目を瞑って集中する。そして、手だけでなく足にも力を込めた。

 そして数人のアビタル教信者が階段を覗いた。その瞬間、ルーナは階段の真ん中あたりから一気に凄まじい速さでジャンプし、階段の入り口で下を覗いているアビタル教信者達を通り過ぎた。

 常人の目で捉えることは難しい速度だったため、アビタル教信者達は何が起こったのか分かっていなかった。

 階段の入り口を通り過ぎて空中にいるルーナは体を翻し、天井に足をつけてから指に挟んでいる壁の破片を一斉に投げた。その破片はやっと背後のルーナに気づいた階段を覗き込んでいるアビタル教信者達に的確に当たった。

 これで階段を覗いていた複数人の敵は気絶したが、この部屋の中には他にもアビタル教信者がいる。部屋にいるアビタル教信者が全て階段を覗き込みにきていた訳ではないのだ。

 とはいえ、それはルーナも想定済みである。突如現れてあっという間に仲間を気絶させたルーナに驚愕しているアビタル教信者が数人いる。この部屋は物置なため、視界が遮られている部分が多い。まだルーナの存在に気づいていない敵も数人いる。合わせて部屋の中にいる敵は十人は超えている状況だ。ここでされたくないのは部屋の外にいるであろう増援に事態を伝えられて大規模の戦闘になってしまうことである。事態を外に伝えるためには直接部屋を出るか、叫んだり大きな音を立てて異変に気付かせる必要がある。もしかするとそんなことをしなくても事態を伝えられる手段があるかもしれないが、何にせよ速く制圧する必要がある。


(全く、ドーバ達はどうやってここを抜けたんだ? やはりアリーチェの空間転移は強力だな。攻撃にも潜入にも脱出にも使える。さて、私は私の存在に気づいている敵を一瞬で戦闘不能にしなくてはならない訳だが……)


 時間としてはほんの一瞬だった。天井についていた足が離れて落ち始めたルーナは、周囲の物を利用することにした。

 近くの棚に置いてあったガラクタを落ちながら左手で拾い、一番近くにいた敵の頭に当てて気絶させた。次にルーナは地面に手をつき、逆立ちのような状態で足を動かして棚に置いてある甲冑を蹴る。その甲冑は棚の隙間を縫ってこちらを見ている敵に命中し、倒れた。

 足で蹴った動きのまま体を回転させて更に棚に置いてある物を二つ蹴る。それらは二人の敵に命中した。そこでルーナは逆立ちをやめて立ち上がり、ようやく対処しようと動き出した二人の敵を見る。二人はこちらに攻撃を仕掛けるために向かってくる。しかし、他にも一人いて、その敵は棚の影に隠れた。恐らく、隠れた方は部屋を出て増援を呼ぶ気だろう。

 更に、向かってくる二人は声をあげようとしている。まだルーナに気づいていない部屋の中の仲間に知らせるのと外にいる仲間に気付かせるためだろう。


(仕方ない。速さと威力を調整して……)


 ルーナは左手の指一本ずつに火を灯した。そう、火の魔法である。それを向かってくる二人に向かって放つ。

 魔法が飛んでくれば避けるのは当たり前だ。二人は声をあげる前に体を捻って火の魔法を回避した。その時、二人の間にルーナが立っていた。


「は、はや……」


 言葉を発した時、二人の視界は反転し、意識を失っていた。ルーナは火の魔法がどこかに着火してしまう前に消した。

 次に、部屋を出て増援を呼ぼうとしている敵を止める必要がある。また、その際にルーナに気づいていなかった他の敵に伝わった可能性がある。


(部屋全体を見渡す必要があるな)


 ルーナはジャンプし、棚の上に乗る。それによって敵に視認される可能性が非常に高くなるが、同時にどこに敵がいるのかをしっかり把握できる。

 それによって部屋の扉のすぐ近くにまで迫っている一人のアビタル教信者を見つけ、そのアビタル教信者に飛びかかり、殺さない程度の力で殴った。殴り飛ばしてしまうと音が大きいため、絶妙な力加減で殴る必要があったのだ。


(はぁ、殺さないように攻撃するのは難しいな……)


 そんな強者ならではの感想を抱きながらルーナはすぐにそこを移動し、棚の上に乗ったことでルーナの存在を認識した敵の元へ向かう。


「てっ……!」


 位置の把握が終わったルーナは一瞬で敵を倒して移動し、また敵を倒していった。そして、部屋の中にいるアビタル教信者がついに全員戦闘不能状態になった。


「よし、きっと外にいる奴らにはバレてない」


 ルーナはまだ脱出の明確な道筋を見つけられていない状況にある。部屋の中だけ制圧しても外には恐らくもっと多くの敵がいる。大教会を出てしまえば、そこは寝静まっている街である。街中でぞろぞろと追いかけたり攻撃したりするとたまたま起きていた人に見つかって大事になる可能性がある。そのため、大教会の外であれば仮に見つかっても深追いはして来ないだろう。


「ここまで来たら無理矢理突破するのもありか? セリカはいい顔をしないだろうが……」


 ルーナは敵に見つからずに、もしくは静かに制圧しながら脱出する方法を考えながら行動に移した。





 **





 一方、世莉架はリンクアの部屋の隠し通路を抜けた先の空間に来ていた。敵が凍っていたりして制圧されている。


(恐らくドーバとアリーチェがやってくれたわね。アリーチェは私の隠蔽魔法を上手に利用しているのかしら)


 世莉架は辺りを見渡す。後ろからは明らかに複数の気配が近づいていて、時間的猶予がないことは明らかだった。


(物置……ここも階段の先の部屋のように何かを隠すためのカモフラージュになっている可能性があるわね。だけど、アリーチェがいなくて時間的猶予もない今、じっくりと探索することなんてできない。進みながら探すしかないわね)


 置いてある物に価値がありそうなのはなかなか見つからない。置いてある物に価値がなくても情報は集められるが、それにしても特徴のない部屋だ。

 しかし、世莉架は目の端であるものを捉えた。それは棚の下の隙間に置かれている箱だった。立ち並ぶ棚が結構な高さのため、なんとなく目の位置よりも上側を見てしまいがちだが、世莉架であれば足元くらいの下の部分もしっかり捉えることができる。

 それはただの箱である可能性もある。だが、その箱はそこらの安物ではないだろうと世莉架は理解していた。簡単に開けられないように頑丈な素材を使っていることは見た目ですぐに判断できたためだ。

 スピードを落とさずに進路を変え、その箱の元へ向かう。そして向かっている間に一瞬で土の魔法を作り、それを勢いよく箱にぶつけた。それは多少威力のある攻撃で、箱の上にあった棚の下部がひしゃげて潰れている。そんな威力があれば普通の箱は当然潰れるだろう。しかし、世莉架がひしゃげた棚をどかしたところ、その箱は全く潰れていなかった。

 

(壊れない。やはり、この箱には良い情報が入っていそうね)


 世莉架はその箱を拾った。横幅はノート一冊分くらいで、高さはその三分の一程度であるため、大きくはない。


(箱がずっしりとしている。けどこの重さは箱の中に入っている物ではなく、箱そのものの重さね。中は何かの書類かしら)


 箱を拾ってすぐに走り出す。他にも何かないかと周囲を中止深く見渡しながら扉の前まで来た。そこで世莉架は探知魔法を使用する。


(階段の先の部屋には敵がいるようだけれど、全く動きがない。唯一動いている誰かがいるけれど、恐らくルーナね)


 世莉架は扉を開ける。そのまま階段を上がってルーナと合流しようと考えた世莉架だったが、足を止める。

 扉は三つある。階段を降りて左側にあるのが改造人間の作成兼保管場所。今世莉架が出て来たのは階段を降りて右側の扉である。つまり、中央の扉の先をまだ知らない。

 それは刹那の逡巡である。世莉架はこのまま階段を登ってルーナと合流するか、中央の扉の先を確認するか考えた。

 そうして選んだのは、中央の扉の先を確認することだった。


(考えられるのは、アビタル教の教皇に関係する場所かしら。今の所、街中で見た教皇に関する情報が少ない。この中央の扉の先に教皇の情報がなかったら、教皇の住んでいる家にでも行かないとダメかもね)

 

 世莉架は鉄扉の前に立ち、錠に水の魔法を撃って破壊して扉を開けた。

 そこには明かりが無く、真っ暗だった。世莉架が一歩踏み出して進もうとした時だった。


「……!」


 世莉架は即座に後退して身構えた。何か良くないものを感じたのだ。


(こういう感覚は久しぶりね。殺気が凄まじいという訳ではないけれど、直感でここは危険だと訴えてくる。けれど、ここを進まないとこれ以上の進展は見込めない。さて……)


 気配を完璧に消し、その先を少しだけ見ることにした世莉架。背後からクタルガ達が追いかけてきていることは分かっているため、時間はかけられない。

 火の魔法を使い、通路を照らす。しかし、今までの通路と違い、少し進んだだけでより頑丈そうな扉に当たった。

 だが、その扉には錠がなかった。開けるためには扉を破壊するしかないが、それは今の状況ではあまり良い判断とは言えない。

 世莉架的には、この中央の扉の中へ入ったという証拠を残したくなかった。そこでまず、世莉架は探知魔法でその先に誰かいるのかを確認する。

 

(誰もいないわね)


 その先には誰もいないようだが、世莉架は言い知れぬ威圧感をずっと受け続けていた。


(……今回はここまでね)


 そこで世莉架はクタルガ達がいよいよ近づいて来たことを探知し、戻ることにした。階段を降りた先の場所に戻り、扉を閉めた。錠は壊してしまったため、完全に触っていないという風に見せるのは難しい。


(魔法に巻き込まれてしまって錠が壊れたと見せかけることにしましょう)


 世莉架は階段を降りて右側のクタルガ達が追って来ている方の扉に土の魔法を使うことにした。扉が全部埋まってしまうほどの土魔法を更に膨らませ、中央の扉の下半分辺りまでが埋まった。これによって、土魔法で右側の扉を塞ごうとしたときに大きくなって中央の扉も半分くらい塞がれてしまい、錠が土魔法に巻き込まれて外れてしまったと捉える可能性が高くなっただろう。

 

(さて、いい加減脱出しましょうか)


 そうして世莉架が階段を登った時、辺りには気絶しているアビタル教信者が複数人倒れていた。そして、先に見える扉が若干だが開いている事を確認した。


(なるほど、ちゃんと扉から出て行ったのね。ルーナであれば壁を破壊して出て行く可能性もあると思っていたけれど)


 世莉架が探知魔法を使うと、扉の近くにいると思わしきアビタル教信者達が動いていない。世莉架が感じる気配からも、すぐ近くで動いている敵はいないことが分かった。

 扉を静かに開け、大教会に侵入するために使った部屋に行く。その道中には気絶しているアビタル教信者が何人も倒れている。

 そしてついに、世莉架は大教会を脱出した。しかし、まだ油断してはいけない。外で敵が襲ってくる可能性は低いが、どんな手を使ってくるかは分からない。


(ルーナ達はもう先へ行ったようね。脱出した後にどこへ行くかを伝えていなかったけれど、城に行ったと見て間違いないでしょう。私も向かわないと)


 そう考えた世莉架は城へ向かって走り出した。ハーリアとメリアスは泊まっている宿でぐっすりと眠っていることだろう。そんな宿に突撃したら迷惑なだけでなく、隠れてアビタル教と戦っていたことがバレたら怒られるに違いない。

 城へ向かうためのルートはいくつかあるが、世莉架は最短で城へ向かうことのできるルートを通ることにした。そのルートは、ハーリアとメリアスの泊まっている宿のすぐ近くを通ることになる。

 しかし、世莉架は特に気にしていなかった。とにかく一旦合流することが最優先であるからだ。


(それにしても、あの中央の扉はなんだったのかしら。この異世界に来てから初めてああいう威圧感を感じた。人に見せたくない何かが隠れていることは間違いないでしょうけど、もしも探ってくる奴がいたら問答無用で殺す……そういった威圧ね)


 誰があの扉の先へ行き、そこでどんな事をするのかは分からないが、碌なことではないだろう。少なくとも地位が高いだけでなく、実力の伴っている者でないとあの先へは進めない。

 そんな風に、世莉架が城へ向かいながらも頭を回してこれからの行動や敵についての憶測などを考えている時だった。


「……」


 世莉架の前に二つの人影が現れたのだ。世莉架はすぐさま立ち止まる。しかし、世莉架に敵意や殺意は一切ない。むしろ、ほんの少しの焦りを感じていた。その理由は単純明快である。


「世莉架、どこに行くの?」


 そこには笑顔で立っているメリアスとハーリアがおり、メリアスが聞いてきた。顔は笑っているが、それが心からの笑みでないことくらい世莉架でなくとも簡単に分かるだろう。


「……城へ向かうわ」

「なんで?」

「色々とやらなくてはいけないことがあって」

「私達は行かなくていいの?」

「私一人でなんとかするわ」

「さっきアリーチェとルーナ達がどこかへ向かって行ったんだけど、関係してないってこと?」

「……はぁ。ごめんなさい、貴方達に黙って色々と動いていたわ」


 世莉架はなんとか言い訳をしたり、自分が単独で動いていたということにしようとしたが、アリーチェ達のことは見られていたらしい。


「やっと言ってくれたね」


 ハーリアが腕を組んでムスっとした表情で言う。

 ついにメリアスとハーリアに隠れて動いていたことがバレてしまった。

 世莉架はため息をつき、こうなったら二人にも協力してもらおうと考えるのだった。


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