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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第二章 宗教と竜の瞋恚
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認識と現実

 世莉架が大教会の周りを見張っていた数人の信者のうちの一人を気絶させ、物陰に隠れていたアリーチェ達を手招きした。アリーチェ達はすぐに動き出し、世莉架とアリーチェがこれまでも使っていた大教会の窓から侵入する。

 気絶させた信者を世莉架は隠し、四人は無言で目を合わせる。ここからは出来る限り喋らずに行動することが求められる。教会からすれば、二日連続で何者かに侵入されており、改造人間まで動いているのに捕まえることができていない。間違いなくその筋の手練れの人間の仕業だと、そう考えるのが普通だろう。

 そして今回は外に見張りが用意されている。そうなると、中は更に厳重になっているであろうことは想像に難くない。そんな状態では声を出すのも危険である。

 とはいえ、四人で行動しながら昨日より確実に増えているであろう見回りに一切見つからずに進むのは不可能に近い。背後から忍び寄り、一人ずつ気絶させて行くのが堅実だろう。しかし、あまり時間はかけられない。あくまで気絶なため、いつ起きてくるか分からないというだけでなく、外の見張りが中に入ってこないとも限らない。更に、改造人間が本当に魔力に反応するならば、今回の潜入中に必ず出てくるだろう。また、改造人間がどれだけいるのかは全く分かっていないため、時間をかけるとその分沢山の改造人間が現れる、という可能性が十分に有り得るのだ。結果的にそうならなかったとしても、早めに事を済ました方が良いのは明白だ。

 世莉架は手のジェスチャーで、一人一人気絶させていこうという意図を伝える。その意図はきちんと他の三人に伝わった。ドーバはお前が指図するな、とでも言いたげな顔をしていたが、その意見には賛成だったようで、不満げではあるが特に何かを伝えてくる訳ではなかった。

 それを見て全員から了承を取れたと世莉架は確信し、またジェスチャーで自身の意図を事を伝える。それは、現在四人が潜んでいる部屋の前を通った見回りを一人ずつ気絶させていく、というものだ。部屋を出て一人ずつ気絶させていくよりかは間違いなく安全な方法だ。

 そして、またも全員から了承を得たことを確信し、部屋の前を誰かが通るまで待った。

 やがて一人の見回りが世莉架達のいる部屋に近づいてくる音が聞こえてきた。世莉架は部屋の扉をすぐに開けられるように準備する。そしてその見回りが部屋の前に来た時、世莉架は音も無く扉を開け、その見回りの口を抑えながら鳩尾に一撃を入れ、またも人間が気絶しやすい部分に数回衝撃を与えて気絶させた。

 それは一瞬の出来事であり、音も最小限に抑えられている。他の見回りにはまず、気付かれてはいないだろう。

 何度も何度も部屋の前を通る見回りを気絶させていく。そして、世莉架は探知能力で大教会内に人がいない事を確認する。ちなみに、例の部屋の中に世莉架の探知能力は適応できない。そのため、例の部屋の中に誰かがいる可能性がある。

 世莉架は最小の声でアリーチェ達に話しかける。


「大教会内の見回りは全員気絶させたわ。間違いなくこれから改造人間が出てくると思うけれど、一先ず前に話した例の部屋に行ってみましょう」


 そうして四人はずっと隠れていた部屋を出て例の部屋に向かう。そこには変わらない様子の扉が佇んでいた。


「アリーチェ、今日は本気で能力を使ってみて。いい加減この先へ進まなきゃね」

「了解。それじゃあ一応少し下がっておいて」

「えぇ」


 アリーチェが一人で例の部屋の扉の前に立つ。世莉架達はいつでも戦闘できるように最大限周囲に気を配る。

 

「ふぅ……」


 一息ついてからスッとアリーチェは扉に手をかざす。そして、一気に自身の空間操作能力を働かせ、扉を壊そうとする。

 すぐに扉はガタガタと音を出し始め、部屋にかけられている魔法とアリーチェの空間操作能力がぶつかり合う。最初は扉がガタガタ言うだけであったが、ついに扉の端の方から歪み始め、部屋の壁もパキパキと音を立ててひびが入り始める。つまり、アリーチェの能力が勝っているのだ。

 アリーチェが奮闘していると、世莉架達はある音を聞いた。それは、何者かがどこからか這い出てくる音。そう、改造人間だ。

 その改造人間に一番近かったのはドーバだった。そのドーバは一瞬驚いていたが、元から改造人間の事は聞いていたため、すぐに改造人間の対処に頭を切り替える。改造人間は相変わらず俊敏に動き、ドーバに迫った。そんなドーバは改造人間の高速の拳を紙一重で避け、その腕を掴む。そして掴んだその腕をいとも容易く砕いて潰した。今は人の姿をしているために基本能力はいくらか下がっている。だが、ドーバは本物の竜である。基本能力が下がっていようが、死者の体を改造して耐久性が高くなっている程度の改造人間の腕ごとき、容易く潰すことができる。

 腕を潰された改造人間はすぐのもう片方の拳を繰り出すが、それも掴んで潰す。


「確か、腹に核があるんだったか」


 昨日、世莉架がルーナと会話している時の話を聞いていたドーバは、改造人間の脚による攻撃が向かってくる中、それを遥かに凌駕するスピードで蹴りを改造人間の腹に打ち込む。

 鈍い音と金属がぶつかるような音がして改造人間は後ろに吹き飛ぶ。改造人間の腹には大きな穴が空いており、既に動かなくなっていた。


「よし、突破できるよみんな」


 そんな時、アリーチェは扉を突破できる事を確信していた。全員が扉に注目する。そして扉は歪みに歪み、バキッと大きな音を立てて飛散した。一部分が破られたからか、部屋全体にかけられていた結界のような魔法が解けた。

 扉の真正面にいたアリーチェは最初に部屋の中を見た。世莉架達も続いて部屋の中を見る。


「……何これ?」


 その部屋は特に大きい訳ではなかった。それ自体は大教会を外から見た時の大きさ、部屋の構造的に分かっていた事であった。部屋の中は質素なもので、怪しい儀式のようなものが行われている訳ではなく、大体の人が初見で見たら物置部屋かと思うような部屋であった。


「またこのパターンね」


 世莉架はすぐに察した。今までにも物置部屋の中に隠し通路や隠し階段がある、ということが良くあった。また今回もそういうパターンだろうと思い、探し始める。


「ただの物置部屋にしか見えないが……」


 真っ先に探索を始めた世莉架を見てルーナがそう呟く。


「確かに物置部屋にしか見えないけど、本当にただの物置部屋ならあんな魔法をこの部屋にかける必要はないでしょう?」

「それはそうなんだがな。なんというか、この部屋からは特に何も感じないというか……」


 実は世莉架は探索を始めてからすぐにルーナと同じ感覚を得ていた。普通、この状況ならばこの物置部屋にはアビタル教にとって重要な何かがあると考える事だろう。しかし、あくまで勘ではあるのだが、この物置部屋には隠し通路や隠し階段があるとは思えない世莉架とルーナがいた。どうやらアリーチェとドーバはその感覚が分からないようだ。


(……何かあるはず。流石にただの物置に厳重な魔法をかけることはしないでしょう。けど、ここに隠し通路のようなものがあるようには思えない。けど、それと同時に少しの違和感を感じる。何かを見落としている? もっと根本的なもの? 魔法によるもの? 考えられる可能性はいくつもあるけれど……)


 世莉架は探索しながら思考を巡らせる。微かに感じる違和感を無視してはいけないと世莉架は直感していた。だが、それが掴めない。アリーチェ達も探索しているが、このままただ探索していても先へ進むことはできないだろう。

 しかし、すぐに帰る訳にもいかない。例の部屋が開けられただけでも進展ではあるが、そこから先にアビタル教の全貌があるのだとしたら、出来るだけ早く解明したい。ここ数日は毎夜大教会に侵入していたが、ずっと侵入できる訳ではないだろう。明日にはアビタル教の中でも地位の高い、もしくは戦闘能力の高い人物が出てきても何らおかしくはないし、教皇が出てくる可能性も否定はできない。

 世莉架は自身の長く美しい髪をいじる。普段世莉架が自身の髪をいじること滅多にない。その考えに耽る姿はどこか神秘的に、またいつも以上に美しく見えた。そんな姿を、ルーナは眺めていた。

 ルーナの世莉架に対する人物像はとても曖昧でルーナ自身がよく理解していなかった。世莉架は美しいというだけではない。竜であるドーバを軽々と倒すことができる戦闘能力を持ち、とても聡明で頭の回転が速く、周りの言動を逐一記憶して現状を把握、かつ誰が何をしたいのか、どこへ行きたいのかを簡単に推測できてしまう。ルーナは特に危険の無いシグガンマ国への道中を共にしただけであるので、世莉架のそのような能力、センスを知らないが、不思議と確信だけはしていた。世莉架の容姿は女神のように美しいのに、それと同時に悪魔のようにも見える。そこにいるのにいないようにも思える。今までルーナが会った事のないタイプの人間で、それはルーナの好奇心を強く刺激した。世莉架は世界に何らかの変化をもたらす。それが現状よりも悪い方向にか、良い方向にか、それは分からない。だが、出来るならばこれからの世莉架の言動を、並びにアリーチェ達の言動も一緒に見ていたいという気持ちがルーナにはあった。


「みんな、ちょっと集まって」

 

探索をやめて世莉架と同じように考えに耽っていたルーナは世莉架の声でハッとする。


「どうしたの?」

「ルーナの言う通り、この部屋に何かがあるようには思えない。ただ、私は違和感を感じるの。微かな、小さな根拠の特に無い違和感が。けれど、その正体は全く分からない。そこでみんなに尋ねたい。これから本当にあるかも分からない何かを探すために探索を続けるか、今日はこの部屋に入ることができたということで一旦退くか。どちらがいい?」


 そんな質問をしたところで、またも不吉な音がした。またも改造人間が出てきたのだ。

 部屋に入ってきた改造人間に対し、ルーナがすぐに肉薄する。ドーバの時と同様に、改造人間が伸ばしてきた腕を掴んで即座に破壊し、空いている左手で瞬時に腹に風穴を空けて核を破壊する。


「お見事」


 ドーバは少々荒々しかったが、ルーナは滑らかで流麗に動き、その様子が美しかった世莉架は思わずそう口に出していた。


「二体目が出てきたぞ。この改造人間とやらは結構な数がいそうだな」

「このまま時間が経てば複数体同時に出てくる、なんてことがありそうね」

「それで、これからどうするか、だったな」

「えぇ。でも、今日は一旦帰るしか無いかしら。正直もう少し先に進みたかったけど……」


 そこまで話した時、世莉架はあることを思いつく。

 この部屋には元々結界のようなものが張られており、入ることができなかったが、アリーチェの空間操作で突破することができた。部屋に入ることができれば当たり前に隠し通路や隠し部屋が見つかると思えば、全く見つからないという事態に陥っている。しかし、それではやはりおかしい。本当にただの物置部屋ならば、わざわざ結界を張る必要はない。だが、フェイクという可能性は一応考えることができる。仮に、結界は一枚しか張ることができないのならば、この部屋が破られた時点で術師にそれが伝わり、すぐに対策を立てることができ、また本当に隠したい場所に結界を張ることもできる。しかし、世莉架の感じるあまりに薄い違和感はその可能性を否定したくなる。

 そこで世莉架が思いついたのは、アリーチェの空間操作である。空間操作は、特殊属性持ちの敵に対して有効に働くことが多い可能性があると世莉架は考えた。つまり、結界を張っていた術師の他に、また異なる特殊属性を持った何者かが巧妙に隠し通路や隠し階段といったものを隠しているかもしれないと考えたのだ。そしてその特殊属性もアリーチェの空間操作で、その能力の全貌は解明できないにしても、ある程度現状を説明できるようになるのでは無いかという推論である。

 結果がどうであれ、一先ずやってみないことには先へ進めないため、世莉架は早速アリーチェに聞いてみる。


「アリーチェ、ちょっといいかしら?」

「何?」

「貴方の空間操作をこの部屋の至る所に使ってみて欲しいのだけれど」

「この部屋の至る所って……」

「ここは物置部屋だから沢山物があるでしょう? 適当でいいから物を移動させたりとか、とにかく空間操作でできることをして色々して欲しい」


 アリーチェはそれをする必要があるのかと首をかしげる。


「それって意味あるの?」

「分からないわ。ただ、今の所貴方の能力を使うことが最も先へ進めそうな気がするの」

「そっか。世莉架がそう言うなら、やってみるよ。やっぱり私がいて良かったね」

「はいはい、そうね。それじゃあお願い」


 世莉架はポンとアリーチェの頭に手を置いて空間操作をお願いする。


「了解。ルーナ、ドーバ、私の周りにいて」


 話を聞いていたルーナとドーバはすぐにアリーチェの周りに集まる。

 そしてアリーチェは空間操作を目についた物から次々と行っていく。物が瞬間移動したり、物と物の位置が反転したりして、みるみるうちに元の部屋の景色が変わっていく。その様子はなんだが幻想的で、まるで遥か遠い未来の最新技術を用いた便利な掃除、または一瞬で行える部屋の模様替えのようである。

 少しして、アリーチェが突然空間操作をやめる。疑問に思った世莉架が声をかける。


「アリーチェ、どうしたの?」

「……何かおかしい気がする」

「!」


 それを聞いて世莉架はやったと心の中でガッツポーズをした。やはり、アリーチェは空間操作で何かしらの違和感を感じ取った。上手くいけばその違和感の正体を突き止められるかもしれない。


「どうおかしいか説明できる?」

「うーん、どうおかしいか、と言われるとなんとも言えないんだけど……なんか、私が意識して動かしているはずなのに、私が意図せず動かしてしまっている物がたまに含まれているみたいな。そこには何も無いはずなのにまるで何かがあるかのような……そんな感じかな。ごめんね、上手く説明するのは難しい」

「なるほど、ありがとうアリーチェ」

「え、分かったの?」

「まだ正確なことは言えないけどね」


 世莉架はそこで結界を操る術師以外にも特殊属性を持つ者がいると半ば確信した。勿論、結界を操る術師が更に他の特殊属性を操れる、という可能性もあるが。


「恐らくだけど、認識を阻害する、もしくは認識を鈍らせるといったような能力がこの部屋の中にかけられていると思う」

「どういうことだ?」


 ルーナがよく分からないといった様子で世莉架に詳細な説明を求める。


「空間操作をする時の感覚だとかはアリーチェにしか分からないから、こういう風に能力を使うとこういう結果になる、というのは私には分からない。さっき私はアリーチェに色々と空間操作でこの部屋の中を適当にいじって欲しいという大雑把なことをお願いした。だからきっとアリーチェはいちいち物一つ一つを丁寧に移動させたりするんじゃなく、大雑把に一定の範囲内に含まれる全ての物を対象に次々と動かしていたと思う。そうでしょう?」

「よ、良く分かったね。その通りだよ」


 それを聞いて世莉架は頷く。


「そしてアリーチェはある違和感を感じた。それは、空間操作能力の一定の範囲内に含まれている物が、自分の認識している物の数よりも多いことがあったということ」

「……そういうことか」


 ルーナはそこで理解した。アリーチェも同様に自分の中の違和感の正体に気づく。ただ、ドーバだけは理解できていないようだった。


「はぁ? 分かりやすく言えよ」


 ドーバは自分だけが理解できいないことを理解し、苛立って世莉架に催促する。


「まだ百パーセント合っていると確信はできないけれど、つまりは認識を阻害するような魔法がこの部屋の中の一部の物にかけられているということよ」

「それがなんで空間操作魔法で分かるんだよ」

「認識阻害と言っても、そこにある物が消えて無くなる訳じゃない。そこに物があるとい(・・・・・・・・・)()脳の認識を阻害してい(・・・・・・・・・・)()ということよ。だからアリーチェは意図せず認識阻害系の魔法がかけられた物を動かして、自分は認識できていない何かを動かしたという違和感を感じたのよ」

「……なるほどな」


 この説明で流石にドーバも理解できたようだ。


「では、その認識阻害魔法がかけられている物の中に重要なアイテムがあるということか?」


 ルーナは顎に手を当てて考えるように世莉架に尋ねる。


「その可能性はあるわね。けど、私はもっと他の所に大事なものがある気がするの」

「他の所?」

「えぇ。アリーチェ、今度は床や壁に空間操作をしてくれないかしら?」

「床や壁に使うの? 壊れるよ」

「壊れない程度に、ひびが入る程度に空間操作を使ってみてくれない?」

「うん、分かった」


 その時点でアリーチェは世莉架の考えていることが分かった。

 アリーチェはすぐに大量の物をどかしながら床や壁に空間操作を行使する。

 そしてついに見つけることができた。


「ここ。この床おかしい気がする」


 アリーチェは床のある一部分を空間操作しようとした時、違和感を感じた。


「うん。じゃあルーナ、アリーチェが指差した床を壊してくれない? 出来るだけ音は出さないようにね」

「よし、分かった」


 そう言ってルーナはアリーチェが指差す床を出来る限り音を出さないように殴りつける。するとそこには薄暗く、地下深くまで続く階段が現れた。


「やっぱりね」


 世莉架は不敵な笑みを浮かべる。一行はついにアビタル教の深淵に挑む。


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