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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第二章 宗教と竜の瞋恚
37/59

扉の先

 アビタル教の教皇の姿を見て只者ではないと世莉架は感じ、より警戒を強めた。教皇に加えて魔族が関わっている場合、更に面倒なことになる。

 それからバレコールを散策していた四人は宿へ戻り、休んでいた。


「ここは良い場所だねー」


 ハーリアがベッドにダイブして言う。


「この後はどうする? まだまだ夜ご飯までは時間があるけど」


 そのまま気になったことを世莉架に尋ねる。

 世莉架からしたら早くアビタル教に探りを入れたいものだが、動くのは深夜と決めてある。

 となると今は特にやることがない。


「あ、そういえば湖のボートに乗れるみたいだよ」


 メリアスが思い出したかのようにボートに乗る提案をしてきた。


「それはいいかもしれないわね。静かで落ち着けるわ」


 珍しく世莉架がそういった提案に同意する。

 これにメリアスはとても嬉しそうな顔をして頷き、ハーリアとアリーチェも同様に頷いた。

 ということで四人は湖に浮くボートをいくつも所有している店へ行き、そこで二つボートを借りた。

 ボートは二人乗りで、世莉架とアリーチェ、ハーリアとメリアスの組み合わせで乗ることになった。

 ハーリアとメリアスはすぐにボートで遠くまで行ってしまった。かなりはしゃいでいるようだ。

 一方、世莉架とアリーチェはゆっくりボートを漕ぎながら進んで行く。


「改めて見るとこの湖は透き通っていて綺麗だね」

「そうね。水中の養分が少ないとも言えるけど」

「なんて言う名前だったっけこの湖」

「ハイガル湖よ」

「それだ」


 遠くに見える山、森、草原、発展した都市バレコール。それらは美しく、心が自然と安らいだ。

 だが、この美しい場所に巣食うアビタル教のことを考えると世莉架はため息をつきたくなった。


「……それで、今日もアビタル教に侵入する?」


 しばし喋ることもなく心地良い風を感じながらボートを漕いでいると、アリーチェがアビタル教のことを聞いてきた。


「勿論。ただ、あの奥にあった扉を突破する方法は考えなくちゃね」

「あの扉の開け方が分からなくてもさ、いっそ壁を壊して入っちゃうというのは?」

「残念ながらそれは無理よ。多分ね」

「やっぱりバレちゃうから?」

「それもあるけど、多分あの扉には誰かの魔法がかけられている。でも、魔法で扉のみを閉めてもあなたの言った通り壁を壊して入れるようならあまり意味がないじゃない。だから扉に魔法をかけたというより、あの部屋自体に魔法がかかっているんだと思う」

「なるほど……確かにそうだね」


 部屋自体に魔法がかかっている場合、その魔法の穴を突くような方法を取ったり、最悪力技で無理矢理壊すという方法を取らなくてはいけなくなる。

 前者の方法ならば、もしかすると魔法をかけた術師にその情報が伝わらずに隠れて入ることができるかもしれない。だが、今の所そんな方法は検討もつかない。あまりに未知な魔法であるからだ。


「じゃあどうするの? 一旦あの部屋は諦めて他の場所を探る?」

「いいえ、一応また色々と試してみるわ。あと、昨日私達が戦ったあの謎の改造人間いたでしょ? あの改造人間はどこからか急に現れた。貴方みたいな空間操作系の能力によって突如現れたという線も考えられなくはないけど、多分地下から地上へと上がる隠し通路があるんだと思う」

「まぁ、空間操作は特殊属性だからね。私以外に持っている人見たことないし」

「でしょうね。また改造人間が出てくるかは分からないけど、出来ることならどうやって出てくるのかという仕組みや改造人間が保管されている場所も探してみたいわね」

「そうだね」


 まだまだアビタル教には分からないことが沢山がある。あの改造人間以外にも恐ろしい何かが秘密裏に開発されていても何ら不思議じゃない。


「そういえば、あの教皇どう思う?」


 四人でバレコールを散策していた時に見かけたアビタル教の教皇について、アリーチェが世莉架の考えを求めた。


「少なくとも只者ではないわね。かなり厄介そうよ。あの謎の仮面も気になるわ。他の信者は誰も仮面なんてしていないのに教皇だけ顔を隠すんなんて、隠したい理由があるって言っているようなものだからね」

「それは私も思った。セリカはアビタル教の裏に何があると思う?」

「……予想だけど、魔族が絡んでいる可能性があると思っているわ」

「!」


 魔族、という単語には驚きを隠せないアリーチェは、目を細めて考え込む。


「そっか……セリカがそう言うのならそのなのかもね」

「盲目的になっては駄目よ。私のはあくまで予想だからね」

「そうだけど、セリカが言うと妙に本当っぽいというか」

「そうかしら」


 二人は未だにはしゃいでいるハーリアとメリアスとは違い、深刻そうな顔つきでこれからのことを考えていた。





 **





 やがて夜になり、四人は宿にいた。


「ルーナ達どうしてるのかなぁ」


 既に寝る準備を全員が済ませており、部屋の真ん中にある机で談笑していた時、ハーリアがルーナ達の話題を出した。

 まだルーナとドーバは見つけられていない。それだけでなく、ルーナ達の情報も出ていない。

 世莉架はルーナ達は、城で匿ってもらっている、という風に考えている。

 用件が終わった後、普通に城を出たのかもしれないが、アビタル教に見つかってしまい、仕方なく城へ戻って用件があった者に匿ってもらっている可能性が高い。

 となるといずれ城に侵入しなくてはいけないかもしれない。


「さぁ、彼女達なら上手くやってるわよ」

「ルーナは上手くやれそうだけど、ドーバは無理そう」

「それはあるわね。でもルーナがドーバの手綱を握っているから大丈夫でしょう」


 世莉架は適当に答えておいた。

 それから時間が経ち、皆が寝静まった時、世莉架は音を立てずに起き上がった。

 昨日と同じように大教会へ行き、アビタル教を探っていかなければならない。


「おはよう」

「……深夜だけどね」


 大教会へ向かおうと宿を出て歩くとすぐに、アリーチェの声が聞こえた。

 昨日と同じ場所にアリーチェは立っており、既に装備も付けてあった。


「じゃ、大教会に行こっか」

「そうね」


 二人は特に言葉を交わさず、大教会に向かう。

 大教会に侵入するために使った窓をまた使おうとする。しかし、そこで世莉架はあることに気づいた。


(生体反応が三つ……信者が見回りを始めたのね。やはり、昨日の戦闘のせいか……)


 生体反応に気づいたため、アリーチェを引き留めてそのことを話す。

 見回りをしている人間がいるとなると、昨日のようにどんどん調べていくことはできない。とりあえず二人は窓から侵入し、その部屋の扉を薄く開けて様子を見る。

 そこには一人の見回りをしている信者がいた。

 一人ずつ気絶させていく、という方法もあるが、それでは後々更にアビタル教の警戒を強めるだけとなる。

 しかし、そうなると例の開かない部屋に入る方法が魔法を音を立てずに解く、というものしかない。

 無理矢理破壊してしまう手は見回りがいなくても出来る限りしたくはない方法なため、見回りがいる現在では論外の方法だ。

 また、改造人間が出てくる可能性は低くなっている。改造人間は人を見かけたらすぐに殺しにかかる殺戮人形である。となると、見回りの信者がいる中で改造人間を放ってしまったら襲われてしまうからだ。信者のみに与えられる改造人間をコントロールする何かがある可能性もあるが、恐らく機密中の機密であろう改造人間の存在はかなり地位の高い者しか知らないと考えるのが普通だ。

 一先ず二人は開け方の分からなかった例の部屋の前に行き、その部屋に入る方法を考える。

 ただ、見回りが周りにいない瞬間を狙って部屋の前に来ている為、少ししたらすぐに見回りがやってきてしまう。

 世莉架とアリーチェは部屋の壁を触り、なんとか入れないか探る。しかし、すぐに見回りの信者が近づいてくる。

 仕方なく一度近くにあった部屋に入って隠れる。

 やはりこの状況下で例の部屋に侵入するのは難しそうだ。しかし、あまり長引かせるのは好ましくない。

 そこで一度、世莉架は思いついたことがあった。


(見回りをする彼らは魔法を使えるのかしら)


 魔法は魔法を使える者でないと魔力を感じ取ることが難しい。もしも見回りをする信者達が魔法を行使できない場合、音がほとんど出ないようにすれば小規模の魔法を使うことができる。

 それならば部屋を突破できる可能性が高まる。リスクはあるが、やらないとこの状況を打破することが難しい。

 世莉架はアリーチェにジェスチャーで魔法を行使することを伝える。アリーチェは少し驚いたが、すぐに意図を理解して頷いた。

 そして世莉架は手の平に魔法で火を灯した。

 微弱な魔力しか感じられない程度の小さな魔法だが、もしも魔法が使えるのならばすぐに気づくはずだ。

 

「……」


 しかし、見回りしている信者達が世莉架とアリーチェの隠れる部屋に駆け込んでくる気配は無い。どうやら魔法が使える者はいないようだ。

 そのことに安堵する世莉架だったが、同時に一つの疑問が浮かび上がってくる。


(見回りをさせている信者全員が魔法を使えなかったら、何かあった時に対処できないかもしれない。それでも魔法を使えない者を配置しているということは……改造人間と関係でもあるのかしら)


 誰も魔法が使えない、という事実こそが少し怪しさに繋がっている。

 魔法を使える信者が地位の高い者だけにしかおらず、見回りに配置し辛い、というのはあり得る可能性の一つだ。

 だが、世莉架はその可能性を捨て、違う可能性を考えた。


(魔法が使える者、つまり魔力を保有してコントロールできる者にのみ改造人間は攻撃を仕掛ける? そうであれば私とアリーチェが襲われる理由になるし、魔法が使えない者を見回りさせるという理由にもなる)


 とりあえずの仮説を立てた世莉架だったが、その仮説だと見回りがいるこの状況下でも改造人間がどこからか現れる可能性が高まるということだ。


(さて、一つの仮説が立てられた訳だけど、これからどうするべきか。結局部屋に魔法を当ててみるしか無いかしらね)


 魔法を使っても見回りには気づかれないことが分かった為、二人は見回りがいなくなったタイミングで部屋を出て例の部屋の前に立つ。

 火を使ってしまうと煙の匂いで気付かれてしまう可能性があるため、風の魔法で切り裂くことを世莉架は試してみることにした。

 範囲はかなり狭めてあるが、風の魔法を行使するとあたりに勢いよく風が吹く。その風が広がらないようにアリーチェが空間操作を行う。

 しかし、風の魔法を受けた扉は普通にそこにあった。

 傷はついており、確実にダメージを受けていることは分かる。


(傷はついているけど……この程度の魔法を当て続けて果たして破ることができるのか微妙なところね。結局他の方法を探した方がいいのか……)


 二人は一旦そこを離れて隠れる。

 するとアリーチェが世莉架に何かを提案してきた。


(私が空間操作でなんとかしてみるよ)


 またもジェスチャーでアリーチェは自分の意図を伝え、世莉架が頷く。

 例の部屋の前に立ち、アリーチェが空間操作で扉の位置を手前に動かそうとする。


「!」


 すると扉は軋みながら動こうとする。アリーチェの空間操作と、何者かによる部屋を守る魔法がせめぎ合っているようだ。


(う……空間操作しているのにその対象が動かないとすごい違和感を感じる)


 アリーチェは違和感を感じながらも空間操作を続ける。アリーチェは念の為、本気の空間操作はせず、多少の力で動かそうとしている。しかし、なかなか進展しない。

 それでも、空間操作であれば何かしらの影響を与えることができるということは分かった。これは良いことを知ったと、世莉架は頷く。

 世莉架はアリーチェの肩に手を置き、空間操作をやめさせる。

 恐らくアリーチェが本気の空間操作を行えばこの部屋に入ることができるだろう。しかし、それは今無理にやらなくても良いと世莉架は判断した。

 それから二人は見回りから隠れながら大教会を脱出しようとする。

 しかし、その時二人は聞きたくない音を聞いた。それは、昨日改造人間が出てきた時と同じ音。改造人間がどこからか這い出てきた音。

 

(もう目の前にこの大教会から出れる部屋がある。これなら、見つからずに逃げれそうね)


 今回は戦うことはせず、二人はすぐさま大教会を脱出することを選んだ。

 外に出た後、すぐに大教会から離れて身を潜めていた二人だが、改造人間が外にまで追いかけてくる、ということはなかった。


(やはり、改造人間は複数体いるようね。それに、魔法の使えない見回りの信者がいる状態で改造人間が出てきたということは、魔法の使える者にしか攻撃をしないという性質を持っていると見て間違いなさそうね。ただ、一つ引っ掛かるのは、特に地位が高い訳でも無いであろうあの三人の信者に改造人間の存在が露呈することになったということ。アビタル教はそれを許容するほど現状に危機感を持っているということかしら。それとも改造人間の存在を知った彼らを抹消でもするつもり? いまいち掴みきれないわね)


 長々と考え事をしていた世莉架だったが、そんな世莉架の肩をアリーチェが叩く。


「ま、改造人間は出てきたけど、新たに分かったこともあるんだし、良かったんじゃない?

「そうね。良い収穫ではあったわ。貴方の空間操作であの部屋に入ることができそうだしね」

「そうだね。まぁ、本気の空間操作をしたら多分見回りに見つかってたけどね」

「えぇ。だから然るべきタイミングであの部屋を突破するわ」


 大教会から離れたところで話していた二人だが、世莉架が宿とは違う方向を向いた。

 

「アリーチェ、私はこれから城に行こうと思う。貴方はどうする?」

「城に……ルーナとドーバを探しに行くんだね。勿論、行くに決まってるでしょ」


 世莉架は城にルーナとドーバがいるのではないかと考えている。そこに一緒に来るかと問い掛けるが、それをアリーチェが断るはずもない。


「それじゃあ行きましょう」


 そうして二人はルーナとドーバが匿われている可能性のある城へ向かう。

 城に着くと、二人はついつい城を見上げた。

 月は城のちょうど上あたりにきており、幻想的で美しい光景が広がっていた。


「どうやって入るの?」

「当然、堂々と真正面から侵入するわけにはいかない。となるとやっぱり裏口を探すのが安定だと思う」


 城の裏側に回るためには、いくつもの城に隣接した国の重要な建物を越えていかないといけない。

 それらの建物にも改造人間が潜んでいたのなら急激に難易度が上がるが、流石にそれは無いだろうということで二人は軽々と建物を越えて行く。

 そして城の裏側に回ることができた。

 早速裏口を探し始めた世莉架だったが、アリーチェはバレコールの一番南に位置する場所から見える光景を眺めていた。

 城の後ろは全て湖となっている。そこには何も邪魔するものはなく、月が水面に映り、これもまた幻想的な光景だ。

 

「綺麗だねー」

「そうね。まぁ、いつでも見れる景色よ。早く裏口を探しましょう」

「うん」


 探していると裏口を二つ見つけた。どちらも普通の大きさの扉であり、どちらも探索する必要がありそうだった。

 一先ず先に見つけた裏口から侵入することになった。

 当然鍵は開いていない。だが、ただの鍵が閉まっているだけの扉など、世莉架からしたら簡単に開けることができる。

 鍵を開けて二人は侵入する。そこは倉庫のようで、色々な物が置いてある。


「凄い大きい倉庫だね」

「国のシンボルとなる城の中だからね。これくらい広くないと不便でしょう。それより警戒しなさい。ここは城よ」


 城の警備は当然国一番である。アビタル教は得体が知れないが故に警戒心が自然と高まるが、城にも侵入者を拒む沢山の罠や見張りの騎士が配置されているのは言うまでもない。

 倉庫を出るための扉を開けると、そこは廊下だった。

 城内を把握している訳ではないため、手当たり次第に調べて行くしかない。


(特に警戒されているのは間違いなく王族の住まうエリア。調理場や倉庫などといった城内で働く者しか入れないような場所の警戒度は低いでしょう。そういう場所を探っていきながらルーナとドーバがいる場所を探り当てて行くしかないわね)


 たまに城内を見回っている騎士に警戒しながら、二人は得意の隠密スキルを駆使して順調に進んで行く。

 しかし、なかなかルーナとドーバは見つからない。そもそも城にいると分かっている訳でもないため、あくまでルーナ達の潜伏先である可能性の一つとして探っているのだ。

 城にはいない、という結論に達しそうだったとき、危険度は増すが城内の客室が沢山あるエリアに行き、ふと、そこで世莉架は何かを感じ取った。


(ルーナとドーバらしき者が……あの部屋ね)


 世莉架は客室の一つに近づき、耳を当てる。

 突然世莉架がその部屋へ向かって怪しむところを見て、アリーチェは察した。


「……」


 世莉架の異常な耳の良さでも、流石に具体的にどんなことを喋っていることまでは分からなかった。ただごく普通の話をしているようだった。


(もう中を覗いてみるしかないわね。もしもルーナとドーバでなかったら恐らく城の中にはいない)


 世莉架は静かに扉をほんの少しだけ開ける。


「!」


 だがその瞬間、ナイフが世莉架の顔目掛けて勢いよく飛んできた。

 常人ならば間違いなく顔にナイフが刺さっていただろう。しかし世莉架ならば何ら問題はない。

 そこにいたのがアリーチェであっても、きっとその程度は簡単に避けられるだろう。

 世莉架は難なくその飛んできたナイフを掴んで止めた。

 

「入ってこい」


 そう声がかかり、世莉架とアリーチェは頷いて中に入る。その部屋は客室であることもあり、とても豪華であった。

 世莉架は部屋の中央を見ると、テーブルを囲んだ椅子に、ルーナとドーバが座っていた。


「……元気にしてた?」

「あぁ。少々面倒なことにはなっているがな」

「確かに面倒なことになっているわね。私達が貴方達に会いに来た理由、分かるわよね?」

「勿論、あの害悪宗教のことだな」

「正解」


 世莉架とルーナは、お互いに不敵な笑みを浮かべた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法使える人種だけを殲滅する自動人間、いかにも人族至上主義者の考えっぽいですねw
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