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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第二章 宗教と竜の瞋恚
35/59

アビタル教

「あ、これが冒険者ギルドだね」


 メリアスがバレコールの冒険者ギルドを発見した。

 そこには白くて大きな建物があった。場所的にはバレコールの最東端であり、冒険者ギルドのすぐ後ろには美しい湖が広がっている。

 バレコールのおよそ半分が湖の上にあるというのもあって、バレコールの最南端に位置する立派な城へ近づくほど階段が多くなり、標高が高くなっていく。

 世莉架達は冒険者ギルドへ入る。依頼書が貼ってある掲示板の近くへ行き、何かお手頃な依頼がないか確認する。


「これでいいかしらね」


 世莉架は適当に依頼書を取り、受付に向かう。


「冒険者ランクはいつ上げるの?」


 メリアスが世莉架に尋ねる。


「FランクからDランクまでは達成依頼数を増やしていけば自ずとランクが上がるわ。Cランクからは試験が必要になるし、その試験を受けるために色々な条件をクリアしないといけないけれどね。というか、貴方は私と一緒に受付嬢の説明受けていたでしょ」

「あれ、そうだっけ? 確かあの時は世莉架との今後の事を考えていたから……」

「メリアスって、実はかなり世莉架のこと好きだよね」

「な、何言ってんの!? 同じパーティ仲間なんだし、普通でしょ!」


 突然横槍を入れてきたハーリアにメリアスは顔を赤くして言い返している。

 そんな和やかな雰囲気を世莉架とアリーチェは微笑みながら見ていた。


「ほら、そろそろ行くわよ」


 世莉架達は受付に行って正式に依頼を受け、バレコールの外に出てすぐ近くの森に行くことになった。

 まだ一人で動くには早いと判断した世莉架は、普通にその依頼を遂行することにしたのだ。

 依頼の難易度はFランク相当のものだったため、早々に依頼を達成した。


「ちなみにFランクからEランクに上がるためにはどれくらいの依頼達成が必要になるの?」


 バレコールに戻る道すがら、アリーチェが世莉架に聞いてきた。


「Eランクに上がるには三十回以上依頼を達成しないといけないわ。現在の私の依頼達成数は二十七回よ」

「いつの間にそんな達成してたの?」

「アリーチェが私達のパーティに加わる前、フェンシェント国のルインにいた時に一日数回依頼達成してたりしてたの」

「そうなんだね。ちなみにハーリアの冒険者ランクは?」


 今度は隣を歩くハーリアにアリーチェが尋ねる。


「私はEランクだよ。世莉架とメリアスに会う前はFランクだったけど、世莉架達と依頼をこなし始めてからEランクになったの」

「なるほどね」

「アリーチェは冒険者にならないの?」

「ならないというか、なれないというか。エルフの国には冒険者なんて職業はないし、エルフの国を出ているから冒険者になれないこともないんだろうけど、あまりエルフの冒険者っていう風に目立ちたくはないからね」


 エルフは人間だけでなく、エルフ以外の多くの種族を嫌っている。そんなエルフに好感を持つ種族が少ないのは仕方がない事だ。しかし、冒険者だけは種族に拘りは無く、基本的に誰でもなる事ができる。ただ、エルフであるアリーチェに奇異の目が向いてしまうのは避けられないだろう。

 やがて一行はバレコールに戻って報酬を受け取り、宿を見つけた。


「今日は早めに休みましょう。明日からは依頼を多くこなしていくわ」

「そうだね。じゃあこの後はシグガンマ国名産の食べ物でも食べに行こう!」

「賛成!」


 ハーリアがそう言ってメリアス達に同意を求め、騒いでいる。 

 世莉架はこれから色々と探るつもりでいるアビタル教のことを考えると、とても騒ぐ気にはなれないので、やれやれといった様子で三人を見る。


「私は後で向かうから貴方達だけで行ってなさい」

「え、なんで?」


 世莉架だけ行かない意思を告げると、メリアスが驚きの表情を向けて理由を尋ねる。


「少し疲れたからひと眠りするわ。夜ご飯までまだ時間があるしね」

「そっかー。じゃあ商店街とかレストランがいっぱいあったバレコールの中心あたりに行ってるね」

「えぇ。後から合流するから楽しんできて」

「うん」


 そうして世莉架以外の三人は楽しそうにお喋りしながら宿を出て行った。

 ハーリアは大人びた所もあるがまだまだ遊んだり騒いだりしたいお年頃で、アリーチェも閉鎖的なエルフの国を出て色々な事に興味や好奇心がある。同じくメリアスも神の視点ではなく、人間としての視点で世界を見たいという好奇心があるのだろう。

 世莉架はそのまま本当にひと眠りする訳ではなく、三人が出て行って五分程経ってから外へ出た。

 向かう先は勿論、アビタル教の教会である。

 いきなり潜入するかはまだ分からないが、少しでも情報を得るために教会付近を探る事にしたのだ。

 

「さて、どうしようかしら」


 今、世莉架は教会の前に立っている。時々入り口にて人の出入りが確認できているが、このまま外から眺めていても内情は分からない。

 そこで世莉架は教会と教会の隣の建物の間の小さな路地に入った。その先には行き止まりとなっている壁があるだけで、特に発見はなかった。

 教会の方を見ると、いくつか窓があり、中を覗こうと思えば覗けるようである。

 世莉架は周囲に人がいないかを確認し、自身の気配を消してから教会の中を覗いた。

 教会の中はそれなりに広く、教会と聞いて誰もがイメージするであろう内装そのものであった。

 そこでは数人のアビタル教の信者と思われる人間が立ち話をしていた。世莉架は窓をほんの少し開け、会話を聞く。

 しかし、そこでの会話は極々ありふれた雑談であり、特にアビタル教に関しての情報は得られなかった。

 教会の奥の端には扉があり、関係者以外立ち入り禁止であろうその扉の先へ行けばアビタル教の詳しい内情を知れるかもしれない。

 もしくは、アビタル教に興味があると偽り、中に入ってそこで会話している者達にアビタル教について聞くかだ。

 その場合、アビタル教の詳しい内情は当然教えてはくれないだろうが、ある程度会話から予測することはできる。

 

(……まだアビタル教の信者と直接関わるのはやめておきましょう)


 しかし、世莉架はここで一旦退くことにした。


(やはり、ルーナとドーバ。彼女らがキーになるわね)


 世莉架は、このアビタル教の問題を解決するためには竜であるルーナとドーバの協力があった方がより確実なのではないかというように考えた。

 窓から離れ、路地を出ようと足を進める世莉架。路地を出る瞬間、目の前を白いローブを着たアビタル教の信者と思われる者達が焦った表情で走って行った。

 その者達が横の教会に入っていくのを確認し、世莉架は急いで路地へ戻って教会の窓をほんの少しだけ開けて会話を聞くことにした。


「た、大変です!」

「落ち着いてください。一体どうしたのですか?」

「このバレコールに人間の姿に化けた竜族がいるようなのです!」

「なっ……それは非常に不味いですね。この美しいバレコールが汚されてします。このことはまだ私達だけに?」

「い、いえ。他の教会にも回って伝えております故、すぐにでも全アビタル教信者に知れ渡ると思います」

「そうですか。では、貴方達は大教会に行って教皇様の指示が出るまで待機をお願いします。きっと他の信者達もそのようにしているはずです」

「分かりました」


 この会話から、ルーナ達が発見されてしまったことが分かる。世莉架も予想はしていたが、かなり早い発見だ。


(教皇……アビタル教の親玉ね。教皇と会うためには大教会とやらに行かなくてはならないようね)


 急いで外に出て大教会に向かう信者達を世莉架は追うことにした。

 世莉架の追跡技術ならば見つかる可能性はほぼ皆無である。

 そして大教会に辿り着いた。大教会の前はいくつもの道が入り組んだ大通りで、大変賑わっている。また、大教会と言うだけあってかなり大きい。先程まで世莉架がいた教会の三、四倍くらいある非常に大きな教会である。


「ここが……」


 流石に周りにこれだけ人がいる中で外の窓から覗き込むのは危険である。特殊属性の隠蔽を使うことを一瞬考えた世莉架だったが、この人混みの中にどんな能力を持った者がいるのかいないのか、ということが全く分からない以上、そんな危険を犯す必要はないと判断した。

 もしそれを実行するなら夜中だろう。

 世莉架は追っていた信者達が大教会の中に入るときにチラッと中を見た。特に変な物はなかったが、世莉架はその一瞬で見えた範囲の大教会の中を完璧に記憶した。


(やっぱりルーナ達とどこかで合流したいわね)


 世莉架はルーナ達が向かったと思われる城へ目を向ける。ルーナは世莉架達と別れる時、チラッと城を見ていて、世莉架はそれを見逃さなかった。

 そのため、世莉架は城へ向かった。立派な城に辿り着き、ざっと周りを見渡す。

 

(城へ向かう用事ということは、少なくともそれなりに権力のある人物と何か話をしに行った、という風に考えられる。アポでも取っているのか、それとも突然押しかけたのかは分からないけれど……きっともうルーナ達は城を出て行っているわね)


 世莉架は城周辺の建物やお店を覚え、外から見た城の内部構造を簡単に予測し、宿に帰った。


(合流するなんて適当に言ってしまったけれど、どうしようかしら)


 今頃町を楽しんでいるであろう三人がいる可能性のある場所を考えるが、純粋に面倒だと思っている世莉架はベッドに寝転がり、体を休めることにした。


(……そういえば一人になるのは久しぶりね)


 それまで長い間フェンシェント国からシグガンマ国までの道のりをメリアス達と共にしていたため、宿に自分だけがいる静かな状態は久しぶりだった。

 移動の合間の宿では基本的に誰かが宿にいた。今は目的地につき、他の三人は遊びに行っている。

 いくら世莉架とはいえ、精神的、肉体的な疲れはどうしても蓄積してしまう。まだまだ完璧なパフォーマンスを発揮できるが、世莉架は一人でいるこの空間に癒しを感じていた。


(結局、どこまでいっても私は一人でいた方がいい……一人でいることに向いている。このパーティもそのうち……)


 そんなことを考えていると、いつの間にか世莉架は眠っていた。

 それから数時間後、夕食の時間帯を過ぎてしまっているくらいに世莉架は部屋に近づいてくる複数の足音に気づいて目が覚めた。

 入ってきたのはメリアス達だ。


「世莉架! なんで来なかったの?」


 開口一番にメリアスが世莉架に合流しに来なかったことに対して尋ねる。


「ごめんなさいね、随分長いこと眠っていたみたい」

「もう、すごく楽しかったけど、やっぱり世莉架にも来て欲しかったな」

「まだまだここにいるつもりだし、明日でも明後日でもいいでしょう」

「そうだけどさ」


 それから世莉架はメリアス達が買って来たご飯を食べながら三人の遊んで来た話を聞き、お風呂に行って四人は早々にベッドに入って眠りについた。

 今日までずっとフェンシェント国から移動をしており、やっと着いてからもはしゃいだり冒険者の依頼を受けたり

で疲れているのは皆同じだ。

 しかし、三人が遊びにいっている間にしばらく眠っていた世莉架はすぐに寝付くことができなかった。


「……」


 世莉架は他三人が眠っていることを確認し、静かにベッドを出て装備を身に付ける。

 

(本当は明日の夜やろうと思っていたけれど、さっさとやってしまいましょう)


 夜ならば大教会付近でも人通りはほぼ無いだろう。それならば絶好の潜入チャンスだ。

 世莉架は宿を出る。外には涼しい風が吹いていて気持ちが良い。

 すぐに大教会に向かおうとして歩き出す。しかし、世莉架は何かに気づいて足を止め、ため息をついた。


「……何をしているのかしら?」

「何って、セリカがこんな夜中に出てくから気になったのよ」


 そこには建物の壁に寄りかかったアリーチェの姿があった。

 その建物の壁の上には世莉架達が取った宿の部屋があった。世莉架が部屋を出て行くときに目が覚め、気になって世莉架が宿を出る前に、窓から外に出て先回りしたということだろう。

 

「セリカこそ、どこ行くの?」

「貴方達が帰ってくるまで長いこと寝ていたから、眠れないのよ。だったら散歩でもしようかなと思ってね」

「武器を持って散歩するの?」

「昼間の散歩なら持たなくてもいいけど、夜の散歩は危険もあるでしょう。念のためよ」

「それはそうだけど……変に嘘つかなくていいから正直に言ってよ。何かあるんでしょ?」


 アリーチェは世莉架がただの散歩で外に出た訳では無いことをなんとなく分かっているようだ。


「別に何も無いわよ。というかアリーチェ、疲れているでしょう? 寝てなさい」

「それは大丈夫。エルフって長寿だからなのか、睡眠時間が短くても特に問題はないの」

「そうなのね」

「うん。だから散歩に付いて行ってもいい?」

「……」


 世莉架はここで何を言ってもアリーチェは付いてくるということくらい分かっていた。

 別に絶対にアリーチェ達にアビタル教を探っていることを言ってはいけない訳ではない。

 しかし、言わない方が世莉架一人で身軽に動けるし、何より結局世莉架は一人で戦うということが体に染み付いているから言わないのだ。

 そこにほんの少し、アビタル教を探っていることを知ったアリーチェ達に危険が訪れてしまう可能性を考えている部分があるのだが。


「ダメ?」

「はぁ……どうせ何を言っても付いてくるんでしょ?」

「はは、まぁね」

「じゃあ装備くらい付けてきなさい」

「はーい」


 アリーチェは世莉架同様、隠密行動が得意だ。フェンシェント国にて貴族の家に潜入するときもこの二人だった。


「お待たせ」


 すぐに着替えて普段の装備を身につけたアリーチェがやってきた。


「それじゃあ行くわよ」

「どこに?」

「行けばわかるけど……アビタル教の大教会よ」

「……なるほど、やっぱりそれ絡みか」


 シグガンマ国へ来る道中、ルーナ達と戦っていた過激なアビタル教を見ていたのだから当然アリーチェは予想していた。


「あの二人には言わないでね」

「どうして?」

「単純に危険だし、あまり動く人数を増やしたくないの」

「つまり、二人を案じてるんだね」


 ニヤッとしてアリーチェは歩く世莉架の顔を覗き込む。


「はぁ、無理矢理帰らせようかしら」

「ごめんごめん」


 なんだかんだ楽しくお喋りしながら歩く二人。しかし、大教会に近づいてきてから世莉架とアリーチェは声を潜める。


「アビタル教はやっぱり危険なんだよね?」

「そうね」

「じゃあセリカはそのアビタル教をどうしたいの? 崩壊でもさせる?」

「まだ分からないわ。だからこそアビタル教の教会に潜入して内情を掴む。それからどうするか決めるわ」

「なるほど。でも、放っておくという選択肢は無いの? 別にアビタル教との接点なんてないし、わざわざこちらから関わる必要なんてないでしょう」


 アリーチェの言う通りだった。世莉架は魔族が絡んでいる可能性があることや、世界を救うという面倒で大変な目的のために動かざるを得ないのだが、それを正直に言う訳にもいかない。


「確かにね。でも、放っておいたらルーナ達は大変なことになるわよ」

「……そういえば、あの時も竜族であるルーナとドーバを凄い嫌っていたね。それこそ殺す勢いで」

「えぇ。私が得た情報を元に考えると、ここでアビタル教に発見されてしまったルーナ達は今現在追われているのではないかと思うの」

「え、見つかっちゃったの?」

「そうらしいわ。今彼女らがどこで何をしているのかは分からないけど、アビタル教とかいう怪しい宗教に追われているルーナ達を助けるべきだと思わない?」

「それは助ける以外の選択肢がないね」

「でしょう。まぁ、竜族なんだから早々やられることは無いだろうけど、どうにもアビタル教の陰には強力な何かが潜んでいる気がするし、キナ臭いのよね。彼女らだけでは手に負えない可能性の方が高そう」


 アリーチェは世莉架のその感覚を信じた。それと同時に、本気でアビタル教との対峙を考え、顔つきが真剣なものに変わった。


「それじゃあ、行くわよ」

「うん」


 二人は周囲をよく確認し、気配を消して大教会に近づく。

 当然真夜中なため、鍵がかかっている。正面から入るのは危険なので裏口を求めて建物の後ろに行こうとする。

 しかし、建物に裏には裏口が存在しなかった。


「怪しいね」

「そうね。裏口はないから窓から入りましょう」


 教会の前の方にはステンドグラスが多く使われており、まさに教会といった感じだが、教会の後ろの方にはほとんど窓がない。


「ステンドグラスではない小さな窓……あった」


 アリーチェが人がなんとか入れるくらいの小さな窓を見つけた。

 二人は外から中をよく確認し、誰もいないことが分かってから窓を開けてついに大教会内に入る。

 メリアスとハーリアが眠っている中、世莉架とアリーチェはアビタル教の大教会への潜入を果たすのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 百合百合、素晴らしい〜 人化した龍が居る事を即時知れる、而もあっという間に全信徒も知り渡るとは、凄まじい情報力を持つ教団ですね。
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