↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
31/59

言葉の使い方

「この国はとても良い国です」

「?」


 マリコムは国王、ミュール、ピュールスターの三人の前で突然そんなことを言う。


「この大陸の魔族領を除く領土における国々の中でもフェンシェント国は大国であり、魔族領にとても近いのにも関わらず、今まで魔族の侵攻を大きく許したことはありません。それはこの国に沢山の優れた人達がいるからです。私はこの先も、平和な日常を保っていきたい。ですが、輝かしい表には、影となる裏が存在するものです。それは仕方ないことなのかもしれませんが、私は諦めたくない。この国の未来のためにも、いつかはそれと決別しなくてはならない。それが今なのです」

「……」


 それは紛れもないマリコムの本心だ。王である父譲りの強い意志と覚悟を持った目は、見る者を怯ませる。


「……突然どうしたのですか? その平和を守るために、すぐにそこの男を捕らえて詳しく話を聞く必要があります」


 ピュールスターは少しの間呆気にとられていたが、すぐに元の表情に戻り、冷静に話を進めようとする。


「その前に、話をしなくてはなりません。貴方達二人と」

 

 凛として立つその姿は、将来王になることが容易に想像できるような雰囲気を漂わせていた。


「何の話ですか? 呑気に話をしている場合ではないと思いますが」

「この国を想うのなら、きちんと話さなくてはならないのです」

「はぁ……本当にどうしたというのですか?」


 ピュールスターは呆れた様子だ。しかし、内心も同じように呆れているとは限らない。

 次にマリコムが喋ろうとした時、エルファはある魔法を発動し、マリコムの口元にそれを寄せた。


「私は、昔からずっとこの国に蔓延っている裏社会を完全に消し去りたい」

「!」


 突如、マリコムの声が拡大されて周囲に響き渡った。

 エルファは音を拡大する魔法を行使したのだ。

 魔法の用途は多岐にわたる。使い方、組み合わせ方次第で色々な便利な魔法が使用可能だ。音を拡大するのは戦いにおいてはあまり必要ないが、王が民衆の前で語る時などに使える便利な魔法の一つである。

 これによって周囲の未だざわついていた民衆によく聞こえたことだろう。事実、マリコムの拡大された声を聞いて民衆のざわつきが収まり、皆がマリコム達に注目をした。

 その表情にはまたも困惑と不信感の感情が見て取れる。


「う、裏社会? どういうことだ?」

「何の話をしているの? さっきの爆発と関係が……」

「訳が分からない。急になんなんだ? 俺達市民が知らない何かがあるのか?」


 これこそマリコム達が狙っていたことである。これだけ多くの民衆が集まっている場で裏社会のことを話した場合、すぐに信じる者がいなくても不信感は確実に生まれ、それを追求された者は間違いなく民衆の敵となりうる。

 そんな状況だが、マリコムに相対するピュールスターとミュールは最初こそ表情を変えて驚きと焦りの感情を見せたものの、既に落ち着いた様子である。ただ、目つきはかなり鋭くなり、マリコムを敵として認識したようだ。

 そのすぐ側にいる国王も同様に最初は驚愕し、焦りの表情を浮かべてはいたが、今では落ち着いて見ているだけだ。そのまま黙って静観しているところから、まだどちらの味方かは不明のままだ。

 状況的にはマリコム達が優勢に思える。しかし、優勢であるはずなのにマリコム達は多少の怯えと不安を持っていた。本来ならばもっと動揺し、自らボロを出していくものだと考えていたが、そんな甘くはないようだ。


「ピュールスター様、ミュール様。この国に蔓延る裏社会を援助し、操っている張本人のお二人は、このまま多くの人々を不幸にしている裏社会が必要だと思いますか?」


 マリコムは続けて裏社会のことを少々露骨にアピールする。この言葉にまたも民衆は困惑の色を浮かべる。フェンシェント国には裏社会があり、それを援助して操っているのが貴族の中でも有名で権力のあるピュールスターと、国外にもその名を轟かせている巨大なミュール商会の現当主でオーナーのミュール。どちらも誰もが知っているような大物だ。

 そんな大物二人が裏社会などといういかにも悪事を行っていそうな存在に深く関与しているなど、すぐには信じられないだろう。


「……王子。裏社会とはなんですか?」


 ピュールスターは表情を変えず、堂々と白を切ってきた。この時、エルファはピュールスターとミュールの口元にも声を拡大する魔法を行使した。だが、それをやめろと言う素振りは全く見えない。むしろそれをピュールスターとミュールは有難く思っている。

 何故なら、一方的にマリコムの言葉が民衆に届くということが避けられるからだ。ピュールスターとミュールはどうにかマリコムに反論し、民衆の前で無実を証明しなくてはならない。そのため、マリコムだけ声が拡大されるというのは大変困るのだ。

 しかし、これはマリコム達にとって必要なことである。きちんと真正面から話して打ち負かさなければ民衆がその内容に納得してくれるとは限らないからだ。

 既にピュールスターとミュールに不信感は抱かれているが、まだまだ二人の罪を確実なものにするには足らない。


「ここまできて白を切るのですか? どちらにせよ、最早民衆から貴方達への不信感はもう拭うことはできませんよ」

「ふっ、裏社会という存在の根拠がどこにあるのですか? 確かに、私とミュール様は民衆に言っていない仕事をすることはあります。ですが、それは貴方も同じでしょう王子。いや、私達だけじゃなく、貴族や王族、商会の人間などはわざわざ人に言わなくてもいい仕事は普通にします。それを裏社会などという恐ろしげな言葉に誇張するのはやめて頂きたい」


 ピュールスターの言っていることは間違っていない。確かに、必ず自分のしている仕事の隅から隅までの全てを事細かに民衆に説明することはないだろう。

 それが裏社会の仕事となれば、尚更言う訳が無いのだが。


「そうですか。では、罪の無い人を攫ったり、非人道的な行いをすることは仕事としては何ら間違っていない普通の事だと言うのですね?」

「はぁ……そんなことを私達が本当にしていると思っているのですか? この大国が作られてから、ピュールスター家はずっと国を支えてきました。ミュール商会もこの大陸内でトップレベルに大きな商会で、これまで多くの富をフェンシェント国にもたらしました。自慢するつもりはありませんが、我々の功績を挙げたらキリがありません。何故それだけ多くの功績を作れたのかというと、ただひとえにフェンシェント国への多大な愛があるからです。そんな我々が非人道的な行いをする裏社会とやらに関わっていると思えますか?」


 言葉による戦いはようやく進み始めた。民衆は依然として困惑の表情を浮かべているが、少なくとも今はマリコム達の話を聞かなければならないという風に思って静かにしている。

 ピュールスターが嘘をついているようには全く見えない。嘘を隠すことは得意なようで、流石は貴族社会で生きてきた強者だ。そう簡単にボロは出さないし、まるで本心から言っている様な喋り方をしており、抑揚の付け方もとても上手だ。

 

「事実、我々はこの国の中でも高い地位を持っています。それは功績が認められているからということに他なりません。どうして王子が我々を貶めようとしているのかは分かりませんが、どうか目を覚まして下さい。貴方はこの国を愛しているはずだ。我々と共にこれからもこの国を発展させていきましょう!」


 ピュールスターの言葉に、民衆は少々沸き立つ。最初こそ困惑の中に疑いの感情があったものの、今の発言でやはりピュールスターは凄い人だという風に感じ始めている者が出てきた。


「王子、私はミュール商会を更に大きくするため、新たな事業を始めようと考えています。どうです? 王子も一緒にやりませんか? 聡明であられる王子ならば歓迎しますよ」


 今度はミュールがマリコムを新しく始めようとしているらしい事業に誘ってきた。手と手を取り合って更に国を盛り上げ、発展させようとする発言は民衆に好感を持たせる。


(よく分かってんな民衆の心理を)


 マリコムの後ろに立っていたアルファは目を細めてピュールスターとミュールを見る。


(最初は裏社会に関わっているかどうかの話だったのに、いつの間にか共に手を取り合って国を発展させるという話になっている。実際にいくつもの功績を挙げてきている二人のことを信じている民衆は多くいる。こりゃあ何か大きく民衆の意識を変える何かが必要だな)


 肝心のマリコムは黙って話を聞いている。人が話している最中に割り込み、無理に話を進めるのはマリコムが嫌っている行為の一つだ。マリコムは基本的に話は最後まで聞き、それから反論する。

 人が話している時は最後まで聞きましょう、というのは小学校で教えられる様な当たり前のことだ。しかし、案外それを守るのは難しい。大人でも話を聞かずにひたすら自分の意見を述べる者もいる。

 だがマリコムはいずれ王になる男だ。人の話を最後まで聞かずに自分の案を述べているだけでは人はついてこない。

 しかし、このままではいけない。


「……そうですね、もしもお二人がただただこの国を愛し、発展させようとしているのでしたら乗っても良かったですよ。しかし、自分の汚い欲望を満たすため、更なる富を得たいがために多くの人を不幸にして良い訳ではありません」

「ですから、我々はそんなことは……」

「四階の右側の奥から二番目にある部屋の中、天井に普通は気付かない小さな穴があり、そこを金具で押すと開く小さな空間」

「!?」


 突如、マリコムは全く関係のないことを話し始めたかと思われたが、次第にピュールスターの顔色が悪くなり、明らかに動揺の色が見えた。


「そこには、貴方が裏社会と繋がり、多くの種族の多くの罪の無い人々を不幸にしてきた決定的な証拠が埋まっています」

「な……何を言っているのです? 出鱈目すぎますよ」

「そうでしょうか? 私は王子ですよ。やろうと思えばいくらでも捜査できます」

「……」


 ついにピュールスターが黙り込んだ。これにはミュールも動揺していて目を泳がせている。


「一階の調理室、入って右奥にある大きな食料倉庫の左奥に隠し扉となっている棚があり、そこから地下へ続く階段が現れる。地下にはこれまた裏社会に関わっている決定的な証拠があります」

「……!」


 ミュールは更に動揺する。勿論、ピュールスターとミュールからしたら証拠となる実物がないため、ただ毅然とした態度で否定すればいいだけの話なのだ。

 しかし、マリコムの言うことは事実なのだ。使用人の中でも本当に深く信頼している者にしか話していない様なことをマリコムが知っていたのだ。動揺は当然だろう。


「もう、認めてくれませんか。お二人の功績は私も分かっています。間違いなくこの国を大きく支える方達だ。どういう判決が下されるかは分かりませんが、受け入れて罪を償って欲しい。もうこの国に裏社会なんて必要ないんです」


 それは切実な思いだった。二人を貶めるためではなく、ただただ本心を語ったのだ。

 民衆はまたも困惑している。先程まではピュールスターとミュールの言うことに心が傾きかけていた民衆は、今度はマリコムに傾き始めた。

 物体の証拠を出した訳では無いが、ピュールスターとミュールの反応や目に見えて動揺している所などが怪しく映る。

 だが、マリコムには気掛かりがあった。それは未だに沈黙している国王陛下だ。

 大きく国が変わるかもしれないことが目の前で起きているのにも関わらず、まだ口を挟まない。その目は見定めている様で、実の息子であるマリコムがどう立ち回るのか気になっている様にも見える。

 当たり前だが最も権力を持ち、最も発言力があるのは国王だ。いくらマリコムが押していても国王の言葉一つでひっくり返ることだってある。

 しかし、少なくとも今は口を挟むつもりは無いらしい。


「ふぅ……どこでそんな嘘情報を掴まされてしまったのですか、王子。仮に、貴方が潜入の上手い者を使って我々の家を調査したことが事実だとしても、その情報は嘘です。そもそも、勝手に家に侵入するなどそれこそ犯罪でしょう」

「確かに、勝手に侵入して証拠が見つからなかった場合は罪に問われても仕方がないですね。しかし、実際には証拠があったのです」

「口ではなんとでも言えます。であればその証拠とやらを見してください」

「……」


 目の前に証拠を出せとピュールスターは言う。その言葉にマリコムは少し黙る。

 ピュールスターはやはりハッタリだと確信し、笑みを浮かべる。


「ほら、無いでしょう? だからそんな戯言は……」

「分かりました」

「!」


 だが、マリコムは強い目でピュールスターを見て言う。その目に少し気圧されるピュールスターだが、その目は鋭い。

 マリコムは背中から何かを取り出す。そしてそれをピュールスターとミュールに見せつける。

 そこには長い文章と、数名のサインが書かれた一枚の紙があった。


「……まさか」


 ピュールスターが小さい声でそう呟く。

 

「この紙に書かれていることを読み上げます。いいですね? 貴方が証拠を見せろと仰ったのですから」


 そしてマリコムは読み上げ始めた。


「今度の週末、アークツルス内の西側の一般住宅にて、ある三人の低収入で生活に困っている人間を攫って欲しい。用途はまだ考え中だが、最近多くの奴隷が一気に買われたのでその補充に当てようと考えている。また……」


 その中身は、奴隷や人攫い、拷問などと言った残酷な言葉が多く使われたまさに最悪の内容だった。ピュールスターとミュールだけでなく、民衆の顔色も悪くなっていく。それと同時にピュールスターとミュールに恐怖と嫌悪の感情が多く向けられる。

 ピュールスターは焦っていた。何故その文書をマリコムが持っているのかと、あれはつい昨日確認した時、きちんと隠し部屋に置いてあったはずなのにと。

 そう、マリコムが読んでいるその一枚の紙は実際に持ち出したものでは無い。現物はまだピュールスターの屋敷に置いてある。

 では何故か。その一枚の紙は世莉架が書いたものなのだ。世莉架はその異常な記憶力で紙に書かれている情報を少ない時間で隅から隅まで完璧に記憶していたのだ。

 そしてその記憶を辿って世莉架は同じ様な紙質の紙に模写してマリコムに渡していたのだ。

 ちなみに、見たものを全て記憶していてそれを元に書いたと言って世莉架がマリコムに紙を渡した時、マリコムは度胆を抜かされていた。


(貴方は本当に凄い。自分は全く大したことはないという風に言っていますが、無理がありますよ)


 マリコムは文章を読みながらそんなことを思っていた。

 そして文章が読み終わり、ピュールスターとミュール、闇ギルドの頭領であるタシェーラのサインを読み上げる。


「これは数ある文書の中の一つです。実際には他にも嫌になるほど多くのこういった内容の文書が隠されている。さぁ、ピュールスター様、ミュール様。認めてくださいますか?」

「……」


 二人は歯をきつく噛み締める。ここでまた白を切ることはできる。だが、周りの民衆の目は確実に自分達へ向いており、そこに善の感情は存在しない。


「ただ、これは厳密にはお二人だけのせいという訳ではありません。そもそも裏社会は昔から存在し、それを王族がずっと見過ごしてきたこともまた事実。否、王族だけではありません。貴族や大きな商会のオーナーなど、権力や財力のある人間も知っていながら知らないフリをしてきた。中には裏社会の人間に捕らわれた人を買っている者も一定数いることでしょう。だから、これは我々権力者全員の責任でもあるのです。権力者全員が罪を償う必要がある」


 マリコムも裏社会の存在を知っていながら、その非人道的な行いを知っていながらどうすることもできずにいた。いくら変えたくても、その力と固い覚悟が無かった。もう少し早く本格的にマリコムが動いていれば、少なからず救われた人達がいただろう。

 だから、これは権力者全員の責任であると、マリコムは堂々と言い放った。そこに自らすらも入っているのにも関わらず、堂々と。その姿は、民衆の心を掴むには十分だ。


(後一押しといったところでしょうか)


 まだマリコム達の勝利が確定した訳ではない。現時点でかなり優勢だが、最後に決定的となる何かがあればほぼ勝利と言っていいだろう。


「いや……出鱈目にも程がありますよ。何が気に食わないのかは知りませんが、やりすぎです。今は英雄達を称えるパレードの最中です。早々にこの事件を片付けて南側へ移動しなくてはならないのですよ」


 俯いていたミュールは顔を上げて言う。

 弱々しい反論だが、まだ戦う意思と気力は残っている様だ。


「ここまでやっても認めて下さらないのですか」

「認めるも何も、事実無根ですよ。私の屋敷にそんな地下などそもそもありませんし、出鱈目です」


 長い間ピュールスターに任せていたミュールがここに来て粘り強く反論をしてくる。

 そしてこの時間を使ってピュールスターは必死に頭を働かせてこの窮地を脱する方法を探す。


(くそ、結局全然力になれてねーじゃんか)


 その時、アルファはマリコムの後ろに立っているだけで何も役に立っていないと思っていた。それはエルファも同様だった。

 しかし、それは違うのだ。ピュールスターとミュールはアルファとエルファという大英雄二人がマリコム側についていることにすぐに気付いた。それはエルファが最初にマリコムの声を拡大する魔法を使ったことから気付いたのだ。

 そのため、民衆と国が称え、大掛かりなパレードの中心であり、先頭にいた大英雄二人に睨まれながらピュールスターとミュールはマリコムと戦っていのだ。そのプレッシャーはとても重い。

 マリコムが急に反論してきたミュールに言い返そうと口を開こうとした時だった。


「国王陛下!」


 一人の兵士の声がその場に響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。