「乙女の選択」
「待ちなさいってば!!ちょっと!!!!」
あの男は振り返る事無く、城の中へと入っていってしまった。
ケルベアーがいると聞いて、駆けつけてみればこの騒ぎ。
どういうつもりで王都に来たのか、直接あの男に聞いてやろうと思ったのだが…兵士やら民衆やらが大勢いて、とてもじゃないが近づく事は出来なかった…。
それにしても…
この人気は一体どういう事なのだろうか?
王都の国民は何故こんなにもあの男を歓迎しているんだろう?…
「あの!すいません!!」
「ん?なんだい?騎士のお嬢さん」
「皆さんはどうしてあのおと…彼を歓迎しているんですか??」
「?!そんなの決まってるじゃないかお嬢さん、帝国に勝つためには英雄の力が必要だからだよ!」
辺りにいた人が集まってくる。
「それに何年振りかねぇ、久しぶりに英雄が生まれるんだ!お祝いしてあげなきゃ駄目じゃないか」
「"勇者"様以来の英雄の誕生じゃないか?何にせよおめでたい事だな」
「凄いよな!あんな魔獣が人間の言う事聞いてるんだぜ?」
「だよな!!あれこそ偉業って感じだよ」
「あの魔獣がいれば、王国に敵はいないな!」
民衆からの称賛の言葉に終わりは無い。
人々は我先にとあの男を讃える。どの人も希望を持った明るい表情を浮かべて…。
リアは収集がつかなくなってしまった王城前から離れ、現状について考える。
戦争への不安、英雄への渇望、人知を超える強大な魔獣。
…色々な要素が噛み合って、国民は新たな英雄を望んでいるのかしら。
あんな小悪党のような男が英雄とは何かの冗談としか思えないけど…
それに忘れてはいけないのは、あの男は闇の魔法の使い手であるということ…
…!!!!!!!!!!
まさか!!!あの男…
国民に英雄として受け入れられる事で、闇の魔法が使えることをうまく隠そうとしているのね!
まさか国の英雄が悪の代名詞のような魔法を使っているなんて思わないものね…
英雄を隠れ蓑にするつもりになんだわ。
あんな抜けた顔をしている癖に、なんて大胆で狡猾な事を思い付くのかしら…
恐ろしいわ…。
あの男が英雄として国中に認知されてしまえば、もはや一介の見習い騎士である私が何を言おうとどうすることもできない…。
でも、現状あの男を止める方法は一つだけある。
あの男が国王から勲章を受ける前に"事実"を公表する…
そしてこれはあの男の正体を知る私にしか出来ない事。
…しかし、それをしてしまえば私の夢は更に遠くへ行ってしまう。
というか夢は断たれてしまうだろう…。
英雄になるには圧倒的な力と偉業の達成が必要不可欠だ。騎士見習いの私が男の正体をチクっただけでは偉業とは言えない。
…そうなれば私は夢を諦め、家に帰るしかなくなる。そして望まない相手と結ばれて、アーネル家のコネ作りに利用されて一生を終えるのだ。
だが、それをしなかった場合。
あの男が英雄として、貴族として何をするかは分からないが、それが王国にとって…民にとって良いことである可能性は低いと思われる。
こんな私でも貴族として育てられた身…自分の領地の民の幸せを常に考えなさいと言われて育てられてきた。
「国とは民の事だよリア、貴族ならそれを忘れずに生きなさい」
父がよく言っていた言葉を思い出す。
…
リアは悩む。
王国の民を取るか、自分の夢を取るか。
リアが道端で熟考していると…目の前で小さな女の子が小動物と戯れているのが目に入った。
最近王都で流行っている"ニャオ"とかいう愛玩動物だろう。
女の子はニャオに夢中になっているようだ。近くにいる母親らしき人物は露天商と何やら話し込んでいる。
女の子はニャオを追いかけて道の中央へと向かう。
そんな女の子の方へ遠くから商人の馬車が走って来るのが見える。巨大な馬車だ…女の子がぶつかればどうなるか、容易に想像がつく。
…嫌な予感がする。
気がついたら私の足は動き出していた。
嫌な予感は的中し、ニャオは道へ飛び出す。女の子はそれを追って飛び出した。
ニャオは華麗な身のこなしで馬車を避けて走り去るが、女の子にはスピードの出ている馬車が迫る。
「危ねえ!!」
馬車の運転手が叫ぶが時既に遅…
間一髪だった。
リアは女の子を抱え、道の端へと転がるようにして馬車を逃れた。
女の子の母親が泣きそうな顔を浮かべて飛んで来る。
「ココ!!何やってるのあなたは!!!騎士様!本当に、本当にありがとうございます!!!なんとお礼を言ったら良いのか…」
「大丈夫ですよ、無事で良かった」
「ココ!!騎士様にお礼を言いなさい!!!」
「騎士のお姉ちゃん…ありがとう!………気がついたら目の前に馬車があったけど、凄い速さでお姉ちゃんが来てくれて…お姉ちゃんはココの英雄だよ!!!」
「!!!!………………私が英雄?」
「うん!格好良かった!!」
「ココ!!もっとしっかりお礼を…」
「良いんですよ!では私はこれで…」
「ありがとう!!英雄のお姉ちゃん!!!」
リアはココと呼ばれた女の子の言葉を受けて、とても優しい自然な笑顔を浮かべる。
私は何を悩んでいたんだろうか…。
私がやるべき事は…
リアは決心を固め、清々しい表情を浮かべる。
そして授与式が始まるその時を、リアは静かに待つのだった。




