「波乱の授与式(前)」
またまた圧巻の光景だ…。
東京ドーム何個分なのだろうか…とにかく広大な王都の広場。そしてそんな広場を埋め尽くす数の人々を見て、利央は感動すら覚える。
見渡す限りの場所に人がいて、自分の一挙手一挙動に注目している。
自分の人生…いや、クズ生にこんな場面が訪れるなんて…。
しかし…これは流石に少し緊張するな。
クズはプレッシャーには弱いんだが…。
今は国王が何やら小難しい事を延々と述べている時間だ。
王家の歴史や帝国がどうとか長々と語っている。正直どうでもいい…。
入学式や卒業式で校長だか教頭がよくわからない事を語る時間…まさにあれだな。
「…との事である。よって帝国との戦いは避けられないであろう!そこで此度はこの者…リオ・アケチの前人未到の偉業について、勲章を授与したいと考えている」
「おぉぉぉぉぉお!!!」
「リオ様ぁー!!!」
広場からは割れんばかりの歓声が轟く。
やっと俺の出番か。
利央はゆっくりと立ち上がり、国民に向けて軽く手を振る。
そして堂々とした態度で国王へと近づいて行く。
いよいよ勲章を受け取るのだ。これでしばらくの間、俺のニート生活を邪魔するような奴はいなくなるだろう。
ああ、早く森に帰りたいわー。都会も良いけどやっぱり森が落ち着く。
帰ったらクーズー城周りを開発したり色々とやりたいことも出来たし…
それにジーバ君が言っていたように、国を相手にしても戦えるような力をつけなければ!!
今後はニート生活を邪魔する者にはクズの鉄槌を下さなければならないのだ!!!
国王オスカー・ネル・オベロンはその手に上級貴族の証しである、公爵位の勲章を持つ。
「"災害指定"魔獣を2体も手懐けるその手腕…まことに恐れ入った。その輝かしい偉業を称え、ここに公爵位と王国軍の将軍の地位を…」
広場に集まる数万人の国民に見つめられ、今正に平民の男に対して上級貴族の位が与えられようとしている。
この世界では絶対的な身分の差が生まれながらにして決められている。
しかしそんな身分の差を覆す唯一の方法…武勲を挙げ、偉業を成し、英雄となる事。
そうやって生まれた貴族は国民からは絶大な人気と信頼を得る。
当然だろう…人々は力のある者の庇護下に入りたがる。朝目が覚めたら隣人がゴブリンに殺されていたなんて事が日常茶飯事の世界において、武力とは人々を惹きつける大きな要因になり得る。
だから国民は英雄に期待し、英雄に憧れる。
そして、ここオベロン王国では20年以上もの間英雄と呼ぶにふさわしい人物が現れる事が無かった。
だから人々は今か今かと待ちわびる。新たな英雄が生まれるその瞬間を…
「このリオ・アケチに授与したいと…」
国王は利央の服に勲章を通そうと、一歩前に進み…。
「待っ!、待ってほしい!!!!!!」
その時だった。
英雄の誕生を静かに見守っていた国民は静寂に包まれていたが…
その静寂を切り裂くように、1人の女騎士は大声を出した。
女騎士は数万人の視線を一手に集める。
騎士を見る国民の目には困惑と苛立ち…英雄の誕生に水を差したその騎士に対して、嫌悪感を抱いているに違いない。
「おい!なんだ貴様は!!」
オベロン王国軍最高司令官ヴォルフ・ルドルフは軽やかな身のこなしで女騎士の前に出る。
彼もまた、明らかに女騎士を敵と認識した表情を浮かべる。
実年齢は30代後半だが、全身には無駄の無い筋肉。そして若々しく、整った顔は20代と言われても違和感を感じさせない。
王国最強の異名を持つヴォルフは、20年前に史上最年少の英雄として自身が授与式に出席した過去を持つ。
そしてヴォルフの人生は授与式を通じて大きく変わった。
だからこそ授与式の持つ意味を理解しているし、それを邪魔する者を許すつもりは彼には無い。
「覚悟は出来ているな?」
ヴォルフは腰の剣に手を掛けるが…
「わっ!、私の名前はリア・タナルカ・アーネル!!ルシュコール公爵領及びシュバイテル辺境伯領駐屯、ナオス騎士団所属の見習い騎士であります!!!」
リアは騎士が行う敬礼の姿勢を全く崩さず、近くで聞く者の全身に響いてくるような大きな声で言葉を発した。
広場にはどよめきが巻き起こる。
「ほう?」
この授与式の発案者、眼鏡と呼ばれる高価な魔道具を身に付け、全身を黒いタキシードで飾る長身の紳士…ルシュコール公は貴賓席で授与式の様子を見ていたが、突然の乱入者に興味を示す。
周りにいる貴族は当然ルシュコール公に疑惑の視線を向けるが、当の本人はそれを意に介さない様子だ。
「…一応聞いておこうリア・タナルカ・アーネル。なぜこのような愚行に及んだ?」
ヴォルフは握っていた剣への力を多少なりとも弱める。
「はっ!それは王国に未曾有の危機が迫っているからです!!」
「未曾有の危機?…何のことだ?魔龍でも出たのか?」
「いえ、未曾有の危機とは…」
リアの腕が動く。事の成り行きを見ていた広場の民衆も、リアの動きに注目する。
リアはゆっくりと腕を伸ばし、壇上にいる1人の男を指差す。
「あの男の事です」
その場にいる全ての者の視線は、明智利央を捉えていた。




